第47話「起源神の咆哮」(デュエルパート2)

【アンセルのターン】


「私のターン、ドロー」


 さあ奴は手札は2枚。どう来る。


「墓地の『起源隷獣 バルドゥス』の効果発動。前のターンに起源モンスターの効果を使っていた場合、自身をゲームから取り除くことで5枚になるようドローします」


 な……! いや、対応出来る!


「伏せの単発魔法『墓穴へのお触れ』発動! 墓地で発動した効果を打ち消す!」


 効果が通った。バルドゥスのビジョンは灰色となって消えた。


「手札を異様に切るデッキだったからリソース確保をどうするのかと思えば、そういうわけか」


 しかしアンセルは不敵な笑みだ。


「これで薄い手札のままこちらのデュエルを押し付けられる、とでも?」


「何?」


「墓地の『起源隷獣 サモテス』の効果発動。バルドゥスと同じ効果を使います」


 アンセルは3枚引き、これで5枚に。バカな。まさか。


「手札を確保する効果は起源隷獣の共通効果なのですよ。おかげであなたはカードを1つ無駄打ちしたわけです」


「く……」


 知らなかったとはいえなんてミスを。あれは元の世界では環境で頻繁に使われるカードだったが。

 その時、ユーゴが俺に声をかける。


「大丈夫。不足はカバーします。それにこういう時こそ落ち着かなきゃ」


「あ、ああ……。すまない」


 そんな緩んだ空気を打ち消すかのようにアンセルが冷たく言い放つ。


「希望は誰がいくら持っても構いません。しかし結果は同じなのです。――バトル。『地源神』でショーブ・ムトーに攻撃!」


 木で作られた竜が蠢き、俺に襲い掛かる。


「伏せの単発魔法『双竜の遮蔽』を発動! 墓地と場に計3体以上のドレイクがいればこのターン、俺へのダメージは0になり、さらに俺のカードは破壊されない!」


「ほう、厄介な。しかしリアルダメージはどうでしょうか」


「く……!」


 そう、今は混沌のデュエル。デュエルのルール以前にこの攻撃がまずい!






「ちょっと待ちなあ!」






 どこかで聞いた太い声が俺の耳に入った。すると地源神の砲撃が爆発と共に打ち消された。


「間に合ったぜ」


 小柄ながら恰幅のいい体格。バルムンクさんだ。


「大砲、用意してきたぜ。これで奴の攻撃は打ち消せる!」


「バルムンクさん! 助かるZE!」


「おう! 好きなだけ暴れな!」


 隣には同じくドワーフの1人が少し気まずそうな顔で俺に頷く。弟子さんか。

 ……と思いきや、どこかで見た覆面を持っていた。


「お前、フィアナを襲った奴か……! デュランダルだったか」


「……ショーブ。今更堂々と味方面をするつもりはないが、本当に従うべき主を見つけた今は手を貸す……ぞ……」


「何かっこつけてんでい」


 バルムンクさんがその男にげんこつを入れる。


「気にすんな。お前はアンセルだけに集中しな!」


「わ、わかりました!」


 一連の騒ぎにアンセルは不快感を顔に出していた。


「あなたまでそちらにつくとは……。私も人を見る目が濁ってしまったか」


 奴はアンセルの仲間だった。しかしカルトのことを思えば。


「当然だZE。無知に付け入るお前にはな」


「安い挑発ですね。デュエルは続いている。『水源神』の効果。種族が起源神のモンスターの攻撃が終わった後、相手のカードを全てデッキに戻す!」


 デッキバウンス。取り除きに次ぐ最上級の除去を全体へ。突然のインチキじみた効果だった。俺とカルトは冷や汗をかく。

 俺の伏せは0。


「カルト、お前は何かあるか!」


「だめ、この伏せじゃ対応出来ない!」


 しかしユーゴだけは静かに盤面を見つめていた。


「ふ、このカードを出していて正解だったようですね。『屍界のスペクター』の効果発動! 各ターンに1度、発動を打ち消して破壊する!」


 スペクター! そいつを忘れていた。生成で生まれた強力なカード!


「消えろ、水源神!」


 スペクターが水源神を覆い、飲み込んだ。


「くっ……! ならば手札の――」


「伏せの単発魔法『ポーカー・ドレイン』の効果! 手札で発動する効果を打ち消す!」


 これで効果が通った。水源神が破壊され、弾ける。


「これで残り4体。一歩リード出来たよ!」


「おおユーゴ! 助かったZE!」


「呑気してる場合じゃない! 次が来る!」


 ハッとした。そうだ、次がいる。アンセルが俺たちに手を伸ばす。


「その通り。続けて『火源神』の攻撃。起源神が攻撃を終えた時に効果発動! このモンスターと同じ分のダメージを相手に与える!」


 攻撃時にバーンか!

 いや、待て。「相手に与える」だと?

 その効果に意味に気付いた俺はすぐに声を出した。


「しまっ……。こいつ、プレイヤーを問わない!」


「その通り。火源神の攻撃力は5000。あなたたち全員に与えるのですよ! さあ燃え尽きなさい!」


 まずい。俺は遮蔽でダメージはないが、他の2人は……!

 しかしカルトがカードに手を伸ばした。


「伏せの永続魔法『思い出の子供部屋』を発動! 手札の「人形」モンスターを見せることでこのターン、全てのプレイヤーへのダメージを0にする!」


 カルトはアマンダを見せてダメージを打ち消した。助かった!


「……だからなんだと言うのですか。炎のリアルダメージをお忘れかな」


 そうだ、助かってない! 炎が来る!

 その時、見慣れた影が俺たちの前を飛んだ。あれは。






「やめなさいその熱いの!」






 何度も見たその空元気と馬鹿力。

 フィアナ。その怪物は火源神の顎に強烈な蹴りを入れて、リアルダメージを防いだ。


「フィアナ――」


 フィアナはそのまま降り立った。


「ハァ、ハァ……。もういつまでも寝てるわけには……」


 そう言ってフィアナは倒れた。

 その後ろからパンゲア王がフィアナに何度も声をかける。


「く……! 無理をしおってバカ娘!」


 俺は唖然としていた。


「パンゲア王どうしてここに。安全な場所にいたはずでは」


「……こいつの希望でな。デュエルが出来ない身なら、せめて3人を守る盾になりたいと。もちろん引き留めたが一手追いつかず、このようなことに……」


「そんな」


「気絶だけだがもう限界をとうに超えている。とりあえずエルフの薬を注射はさせておくが……」


 パンゲア王は何度もフィアナに謝りながら注射を施す。


「くそ!」


 ユーゴが地面を蹴り上げた。俺も同じ気持ちだ。

 全くデュエルと関係のないところで俺たちは気力を削られる。

 元々奴は初めから魔力が目当て。このデュエルの趨勢など興味がないのだ。


「ふ……。デュエルの趨勢に関係なく現実のダメージであなたたちは追い込まれる。無論、魔力が十分に集まるまでは死なない程度にいたぶるだけですのでご安心を」


 こいつ、この。


「さあ『光源神』の攻撃!」


 俺たちに向け、光源神が口から砲撃を放った。

 その時、ユーゴがすぐにカードを使う。


「く、くそ! 単発魔法『停止』を発動! モンスター1体の攻撃を打ち消す!」


 もちろんダメージの受けない俺らには全く意味のない攻撃だが、リアルダメージのあるこのデュエルでは!


「させねえ!」


 バルムンクさんとデュランダルが咄嗟に大砲を放ち、爆発と共にそれを打ち消した。


 だがまだいる。最後の起源神が……!


「『闇源神』の攻撃! この時に効果発動! このターン、自身以外の起源神が攻撃を終えている場合、相手のカードを全てゲームから取り除く!」


 なんて効果を!

 カルトは真っ青な顔をしていた。


「対応札がない……けど!」


 何をするつもりだ……。


「伏せの単発魔法発動!『物欲の瓶』! プレイヤーを1人選び、2000ライフを払わせて2枚ドローさせる! 私が選ぶのは――」


 カルトは俺を見た。


「何……」


「1番勝ちに近いあなたに譲るわ」


 その宣言の瞬間、俺のライフが半分になった代わりに手札が2枚増えた。


(手札誘発は……ない!)


「くそお!」


 その時、俺の背後がざわめく。パンゲア王率いるエルフたちだ。


「これ以上被害を増やすな! 全員かかれ!」


 パンゲア王とその配下たちが光源神に矢を放つ。一部の者はエルフの薬で肉弾戦を仕掛ける。

 パンゲア王はエルフの薬で体を強化し、光源神に襲い掛かる。


「なんという硬さだ……! 傷1つないとは!」


 しかし砲撃を溜めている光源神の硬さに押されてしまった。

 バルムンクさんたちも動こうとしている。


「ちくしょう装填が間に合わねえ!」


 俺も動こうとしたが、実はこうして立ってデュエルしていられるのもギリギリだ。気力、体力共にエルフの薬ですら追いつけず、これまでの戦いのガタで踏ん張れない。


「カルトちゃん!」


 ユーゴはカルトを突き飛ばそうと走り込んだ。しかしその足が黒い影に包まれ、転がされる。


「くっ! 単発魔法『屍界の聖域』を発動! 各ターンに1度、自分の屍界モンスターは相手の効果を受けない!」


「それが? 巻き添えになれば関係のないこと!」


 よく見るとカルトの足にもその影が絡んでおり、身動きが取れない状態になっている。

 こんな異能を使うのは――。


「私は単発魔法『影の拘束』を発動させてもらいました。哀れな無頼共よ。光の中に完結しなさい!」


 嘘だろ。こいつ、カードを実体化させている。魔力を溜める義眼を壊したはずが、魔力がもう満ち始めたのか。

 エルフたちがすぐにカルトにエルフの薬を飲ませた。カルトは逃げようと抵抗するが切れない。


「無駄です。エルフの薬で強化しようとも切れない影だ! この激しいデュエルの中、失った魔力が戻りつつある。起源神を統べるのも時間の問題!」


 まずい。魔力が全て戻った瞬間、奴はデュエルを中止して破壊活動に回る。


「やめろアンセル!」


「何を言っているのです。あなたに託すのが彼女の望みではないですか。リーダーなら下の者に意思を汲んであげるべきではないですか?」


 この男はこの期に及んでまでも最大限の皮肉で返した。奴に人の心はないのか。

 あまりの怒りに脳みその血管が切れそうだったが、そんな怒りをよそにやったのはカルトの笑顔だった。


「ショーブ。ここまでの戦い楽しかった。最後まで弄ばれるよりずっと良かったもの」


 軋む体でカルトのそばに寄ろうとするも、すぐに殴られたような痛みが来る。

 カルトは大きく息を吸い、目を閉じて攻撃を待っていた。


 その時。


 カルトのそばにずっとある――いつも名前をつけられては抱きしめられていたくまのぬいぐるみが動き出した。











【今日の最強カード】


【レム・バートン】


生息地:カルトちゃんの心の中

種族:スペクター


攻撃力:2500

守備力:1000


①このモンスターは②の効果を発動した時にしか召喚出来ない。


②自分のカードが3枚以上場を離れているこのデュエル中に1度、発動してもよい。手札とデッキの「レムちゃん」を全て墓地に送ることでこのモンスターを山札の1番上に置く。


③このモンスターが召喚された時、相手のカードを1枚破壊する。その後、相手の手札を全てゲームから取り除く。


④このモンスターがフィールドを離れた時、相手のフィールドのカードを全て破壊する。


フレーバーテキスト

あなたの勇気が、私にも勇気をくれたから。






【作者より】

 お疲れ様です! またぐだる前になんとか書いております。

 次回、レムちゃんがついに降臨する……!


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