第36話「魔弓の射手」(デュエルパート1)
「相変わらずのお転婆だな。フィアナ」
「ダヴィンチお兄様……!」
ガレア家の長男、ダヴィンチ・ガレア。
病弱ながらお父様であるパンゲア王の側近として政治家として、歴代でも群を抜く手腕を誇る。人は彼を「英雄」と呼ぶ。
でも。
「どうしてここに。出張はここじゃなかったはず」
「予定が変わってな。私の求めるものがここにあったためそちらを優先した」
「求めるもの?」
「そうだ。エルフ族の呪いについてだ。お前も知っているだろう」
呪い。
エルフが弱体化している呪いのことだ。
魔力を決闘魔法でなく魔法として扱えた時代。エルフ族は自らの魔法を紙や石板などに記した。何せ詠唱さえすれば疲労なしに魔法を扱えるのだから。
記録媒体に記し、それを唱えるといった技巧的な扱いが出来るのも、全ては生命力の強さがイコール魔力の強さになるという図式にあったからだ。だからエルフ族は覇権を握った。
だが。
「昔に比べてエルフ族は弱くなった。そういう呪いね」
「そうだ。今のエルフ族は病気になる。体は人並みに衰え、病に苦しむようになった。私はその典型で、病に伴う苦しみとは常に向き合わねばならん」
確かにお父様も兄様の体質については悩んではいたが、エルフの薬すら効かない以上は対症療法しかなかった。
「だが今はどうだ。健康そのものだ。巡る血色は美しいばかりで病弱さの欠片もない。全ては混沌の力を手に入れたためだ。エルフ族本来の力が巡った証だよ」
「本来の力?」
「そうだ。元来エルフ族は欲望のままに貪り生命力を頂く種族なのだよ。それが今や神に頭を垂れ、本能に逆らった結果が今の
「何が言いたいの」
「お前も混沌のデュエリストになれ。そしてその力を民草に分け与え、エルフ族の繁栄の礎となるのだ。生命力に溢れたお前ならアンセル様もきっとお気に召されるだろう」
それは。それだけは。
「……嫌」
「何?」
「デュエルは人を元気にするもの。繋がりをもたらすもの。混沌の力を手に入れたらそんな大切さを見失っちゃう。せっかく手に入れた優しさを忘れちゃう」
「ならばそうならないように教えてやればいい。民からの信頼も厚いお前なら皆従順になる。私と共に英雄となろう」
「それでも協力は出来ないわ。それにあたし自身、そんな力を手に入れたら命の秤がぼやけそうになるもの。引いちゃいけない引き金に手をかけるかもしれない。過ぎた力はバカには似合わないわ」
「私は家や歴史の名の下で組み敷かれていたお前の境遇をよく知っているし、なんとかしたいと思っている。それにお前は常々『みんなの役に立ちたい』と語っていただろう。これはお前の望みを叶えるチャンスだ。混沌の力を手にすれば滅びつつあるエルフ族も再び力を取り戻す。お前はそんな未来を見たくないのか?」
「見たくない! 人を傷付ける力を手に入れてまで掴み取る栄光ならいらない!」
「今からでも遅くはない。私と共に来い。来て、共に栄えある未来を描こう」
あたしはデッキを構えた。
「これが答えよ」
それを見て、お兄様も眉を曲げる。
「……よもや私に勝つつもりか? ただの1度として私から勝利をもぎ取れなかったお前が」
それでもデッキを構え続ける。
「愚かなり。ならばお前をデュエルで倒し、私1人で『英雄』となる」
薄ら寒い空気があたし達を包む。
「「デュエル!」」
【フィアナの先攻】
「あたしのターン!」
デッキは神都で強化した。元あるモチーフを崩さないかわいさと強さが売りだ。
「あたしは永続魔法『緑の回廊』を発動!」
場が緑溢れる空間に包まれる。足にはわさわさとした草の感覚があり、これが混沌のデュエルであることを思い知らされる。
「デッキを変えたか」
「あたしは『グリーン・コリドー
0/0。
この時、ピーコックの足元の草がざわめく。
「緑の回廊の効果! グリーン・コリドーモンスターが出た時、場にあるそれとは別名のグリーンコリドーモンスターを手札に加える。あたしは『グリーン・コリドー 突撃のファルコン』を手札に!」
回廊があればリソースは切れない。
「さらにファルコンを守備で召喚!」
0/0。
「緑の回廊の効果で今度は『グリーン・コリドー 毒風のピトフーイ』を手札に加える!」
これが最後の召喚。
「ピトフーイを守備で召喚!」
0/0。
「回廊の効果! デッキから『グリーン・コリドー
「あれだけ出して手札消費1枚とは。だがどれも貧弱なモンスターばかりだぞ」
「それはどうかしらね。あたしは3枚伏せてターンエンド」
【ダヴィンチのターン】
「私のターン、ドロー」
お兄様もあたしと同じく種族バード・フォークで統一されたデッキだ。
「私は手札から単発魔法『第五の矢 デザート・ショット』を発動。場に『魔弓の射手 カスパール』がいなければデッキ、墓地からそれを手札に加える」
「くっ。なら単発魔法『漂白』を発動! 発動を1つ打ち消す!」
「いいだろう。ならば単発魔法『第三の矢 ネイチャー・ショット』を発動。同じ効果を使わせてもらうぞ」
お兄様がデッキからカスバールなるカードを加える。
「矢の共通効果は、場にカスパールがいなければそれを加える効果だ。せっかくのカウンターも無駄撃ちだったな」
「う」
「しかも漂白で発動を消したならば詠唱権にサンドショットの発動は数えられない。残り2回の矢の力、とくと味わうがいい」
コンセプトだけじゃない。カードパワーも違う。1枚がより質の良い1枚を生み出している。
「降臨せよ。我が一族に闢かれし混沌の力!『カスパール』!」
緑をざわめかせ、大きな弓を持ったエルフの男が現れた。
1900/2000。
「カスパール。エルフ族に繁栄をもたらした英雄の名を、お前も知らないわけではあるまい」
初めて魔力を書き記したと言われる男のことだ。
彼は書き記した魔力を矢としてつがえて戦ったと言われる。
混沌の力が消えてもなおその影響力は凄まじく、エルフが弓と矢を使う所以にもなった。
「さあ行くぞ。私は『第一の矢 フレイム・ショット 』を発動。カスパールが場にいるなら相手のモンスターを1体破壊。破壊に成功すれば1000ダメージを与える」
カスパールが矢を放った。矢は名前の通り燃え上がり、あたしのモンスター目掛けて飛んでくる。
「神緑のフェニックスの効果発動! あたしの場にあるグリーンコリドーモンスター3枚を墓地に送り、召喚!」
緑が巻き上がり、葉を炎のようにまとった大きな猛禽が現れた。
3000/0。
このモンスターに矢が飛ぶが。
「ピーコックの効果発動! 自身が攻撃2500以上のモンスターを召喚するために墓地に送られていれば、墓地からこれをデッキに戻すことでこのターン、あたしのモンスターは破壊されない!」
「ほう」
炎の矢はフェニックスの体に飲み込まれた。
しかしカスパールは再び矢をつがえる。
「ならば『第二の矢 アクア・ショット』を発動。相手のカードを1つ選び、デッキに戻す」
放たれた矢は水をまとい、フェニックスを襲う。
「破壊されないのならデッキに戻すまで。緑に還れ、フェニックス!」
破壊耐性のわずかな隙をついてきた。
「ただじゃやられないわ!単発魔法『神緑の魔法陣』を発動! 神緑と名のつくモンスターを墓地に送り、2枚ドローする!」
「ならば伏せをデッキに戻す」
「そのカードも使う! 永続魔法『ハミング・ライフ』発動! 1ターンに1度デッキからグリーンコリドーモンスター1体を手札加える! あたしは『グリーン・コリドー 破壊のラブバート』を手札に!」
効果から言えば本来なら自分のターンに使ってなんぼのカードだが、盤面は硬く消されても問題ないと考えてブラフとして伏せていた。
水の矢は緑の光を射て、お互い消える。
(危ない危ない……)
永続魔法であるところに助けられた。今使ったカードが単発魔法だったら、発動後にそれはルールとして墓地に送られる。
対象が消えた場合は残りのカードに除去が回るため、緑の回廊が消されていたのだ。
「ならば1枚伏せてターンエンドだ。この時カスパールの効果発動。このターン発動した矢の数だけドローする。3枚ドローだ」
【フィアナのターン】
「あたしのターン、ドロー!」
これで手札は4枚。
お兄様のデッキタイプはいわゆる「コントロール」だ。除去を繰り返して相手のリソースを枯らし、最後には大型モンスターでゲームを決める。
(コントロールの弱点は、除去が追いつかないほどの展開力。あたしのデッキにはそれがある!)
あたしの手札は4枚。墓地にファルコンとピトフーイ、場に緑の回廊が1枚。
神緑モンスターは消えたが、回廊さえあればいくらでも呼び出せる。
お兄様はカスパールと伏せが1枚のみ。手札はあるが使えるのは次のターンから。
(攻めるなら今!)
「あたしは『グリーン・コリドー 夜襲のストリクス』召喚!」
0/0。
「この時、緑の回廊の効果で――」
「手札からアクアショットを発動。緑の回廊をデッキに戻す」
「なっ! どうして手札から!」
「カスパールの効果が適用されている。場にいれば手札からも矢を放てるのだ」
「そんな……」
【今日の最強カード】
【緑の回廊】
永続魔法
効果
①「グリーン・コリドー」モンスターが召喚された時に適用してもよい。フィールドに存在するそれとは別の名前を持つ「グリーン・コリドー」モンスターを手札に加える。ただし「神緑」と名のつくモンスターを召喚した時にはこの効果は適用出来ない。
フレーバーテキスト
鳥の羽ばたきを聞く。
――エルフ族の言い回しで、「類は友を呼ぶ」。
【カスパール】
生息地:闇の国
種族:グリーン・フォーク
攻撃力:1900
守備力:2000
効果
①このモンスターがフィールドに存在する限り適用する。自分は手札から「矢」と名のつく魔法を手札から発動してもよい。
②お互いのターンエンド時に発動する。このターン発動した「矢」と名のつく魔法の数だけ自分はドローする。
フレーバーテキスト
我が一族繁栄のためならば、この命惜しくはない。
【作者より】
読んでくださりありがとうございます!
お兄様のデッキ、遊〇王にあっても遜色ないカードパワーで草(緑の回廊だけに)。
ちなみに緑の回廊とは、生物多様性を確保できる森林域や水域を示す保全生態学用語です。
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次回は今日17:00〜20:00頃に投稿予定です。よろしくお願いします!
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