第35話「フィアナの大冒険!」
目覚めると、俺はバルムンクさんに背負われていた。
「あ、バルムンクさん……」
「起きたかい」
後ろからユーゴの声が聞こえた。隣にはハガーもいる。同じく背負われているのか。気絶している。
「待ってくれ、こいつは生きているか!?」
「生きてますよ」
後ろからユーゴの声だ。
「ドワーフさんたちがくれた縄で縛りました。デッキも崖下に捨てましたのでもう悪さはしないでしょう」
「そうか……」
トロッコに乗っていないところを見ると、既に坑道は抜けたようだ。ハガーの言っていた、地盤の緩い洞窟か。
無言が続くが、俺は言う。
「俺、初めて人をデュエルで傷付けた」
2人は黙っている。
「俺ずっとデュエルで人は傷付けたくないって思ってた。でも仇を目の前にして冷静でなくなって。そんな約束事も頭からすっぽ抜けた」
俺は俯く。
「俺、みんなと一緒にいる権利あんのかな……」
また無言が続いたが、ユーゴに「もう!」とケツを引っ叩かれる。
「うおっ」
「ぬるいこと言わないでください。この戦いを決めたのは君でしょ。戦ううちは間違いだってする。もしかしたら人を殺すかもしれない。命を賭けたデュエルなんだ。当然でしょ」
「ユーゴ」
「君は僕がマクシムを倒してあぐねてる時、『悔いのないほうを選べ』と言いましたね。悩んで、僕は時に殺すデュエルを決めた。だから聞きます。あなたのデュエルはなんですか」
俺は言われて、歯を噛み締めた。
実体化したデュエルをやれば人は傷付くし、人死にだって出るかもしれない。俺が頑張って手加減しても、どうしても無理はあるだろう。
でも。
「……それでも、デュエルで人は傷付けたくはないな」
「なぜ?」
「俺は元いた世界で、大切な人を失ったから。あんなデュエルはしたくないと思ったから」
……そうだな。もう隠す意味もないだろう。
「そういえばハガーも君も、元の世界がどうとか言ってましたね」
「ああ。だからもう話すことにするよ」
俺は全てを静かに話した。俺の貧乏だった生い立ちやハガーが俺の家族を殺した経緯はもちろん、その後に地下デュエル場に叩き込まれ、超次元デュエルで命を落としてこの世界にやってきたことを。
全て話し終えて、俺は言う。
「軽蔑しただろ……。大切な人を守れず、信念も曲げ、楽しいはずのデュエルは血に染めた。俺はどこで生きても
その時、バルムンクさんは俺を背負い直す。
「バカ言ってんじゃねえ」
「え……?」
「てめえのことをどう思うかは好きにしやがれ。だがあんたは今日俺たちを助けた。傷付くのも厭わずにな」
「バルムンクさん」
「デュエルで人を傷付けまい、殺すまいと戦うあんたを求める奴らはこの世に山ほどいる。あんたはただそれに従ってればいい。自分のことが嫌なら、行動でそれをひっくり返したれや」
バルムンクさんは「なまくらな鉄は叩いて刀にするんだぜ」と笑った。
言葉は少なく、それでいて確かに心に響くものがあった。
…………。
俺は、俺は初めて泣いた。
声を聞いていつ次の混沌のデュエリストが現れるとも知れない中で俺は泣いた。
*
ひとしきり泣いていたら、門の前についた。バルムンクさん曰くここが裏口らしい。
ここが奴らの本拠地。
「ユーゴ。バルムンクさん。ありがとう」
俺はバルムンクさんの肩を降りて言う。
乗り込む前に俺は口を開いた。
「2人共、聞いてくれ」
2人はぴたりと動きを止める。
「俺、人を傷付けるものかって必死になってた。でも引き金を引いた初めてわかった。どんなに理想を求めても混沌のデュエルの悲惨は止められないし、相手はお構いなしに人を傷付ける。綺麗事じゃまかり通らないのがこの世界なんだって、よくわかったよ」
ユーゴとバルムンクさんは改めて俺を見る。
「だから俺は誓う。というよりお互いに誓わせる。これから行うデュエルがなんであるか。人を傷付け、時に殺すかもしれないデュエルの重みを共に誓うんだ。そしてお互い――」
命を賭けたデュエルをする。
そう言い切った。
*
【フィアナ】
ドワーフさんから地図をもらい、私は正面口に向かって走っていた。
――何者だ貴様ら!
――止まれそこの女!
うわあ来た来たそれっぽい奴ら! 100人ちょっと?
背負ったカルトちゃんに声をかける。
「カルトちゃん。あいつらまさか」
「光の世界の兵士たちよ! 逃げて!」
あたしは顎に指を置く。
「うーん。でも逃げたら正面のドラゴンと挟み撃ちになるよね。さすがに分が悪いなあ」
かといって殺すわけもいかないし。
しょうがない。気絶しかなさそう。
あたしはオーラを足に込め、それを全力で回す。
「覇ァッッッッッ!!!」
バン、と手応え――もとい足応えのある音が辺り一帯に響く。
破壊蹴り。
回し蹴りで体を一周させ、空気を破裂させる。
正確には蹴りの勢いで空気を壁のような硬さで押し飛ばす。その衝撃波で相手の五感を狂わせ、失神させる。
もちろん空気の壁が相手を襲うのでとんでもない勢いで相手は吹き飛ぶ。
そして実際、兵士はもうどこにもいなくなっていた。
「うん。鈍ってたけど動けんねあたし」
並の使い手なら自分も失神する諸刃の剣だけど、あたしは大丈夫。
「カルトちゃん! 先が見えてきたよ!」
衝撃波がこっちに飛ばないようにしてる――。
「カルトちゃん?」
から?
カルトちゃんは白目を向いている。レムちゃんは掴んでいるものの首をぶらんぶらんさせている。
「やば!」
胸や耳の上、動脈などを探る。呼吸はしてる? 心拍に乱れは?
「あー良かった失神だけだ。息もしてる。これならあと2、30分後くらいには起きるね!」
体力も減ってはいない。このままドラゴンも……。
「あ、来た」
ズシン、ズシンと地響きを起こしてドラゴンが襲い来る。何事ぞ、と言わんばかりの雰囲気で首を回している。敵を探っているのだ。
あたしはカルトちゃんとレムちゃんを置き、その場を離れた。
「へーいこっちこっち!」
ドラゴンはあたしを睨んだ。
「ほーらおっぱいよでっかいでしょ!」
あたしはわざと胸を揺らしながら走ると、3匹は一気に襲い掛かる。目は引けた!
「「「グオオオオオ!」」」
3匹共同時に炎を吐く。
ただ、よく見るとドラゴンはあたしの胸を見て全員目を丸くしていた。あ?
「何いやらしい目で見てんのよ!」
両腕を回して空気を飛ばした。
勢いで炎が消える。ざまあねえ。
「憤ッ!」
その間にあたしは次々ドラゴンに腹パンや腹蹴りをかましていき、全員を伸した。
その時、ドラゴンから微かに声が聞こえる。
「あたしショーブくんにしか許してないから」
ドラゴンは鼻血を垂らし、1枚残らずカードになった。もとのすがたに戻ったらしい。
フレイム・ドラゴン。
攻撃力10000/10000。
へえ。あたし、攻撃力53万ってとこ?
まあいいや。あ、なんかそれっぽいモニュメントみたいなのが見えてきた。
(あからさまな分、兵士たちやドラゴンで守ってたんだ。元ある土地をそのまま支配してるなら当然か)
「よし。レッツゴ――」
その時、後ろから気配を感じた。
「相変わらずのお転婆だな。フィアナ」
咄嗟に振り返る。声の主はすぐに理解した。
尖った耳、白く長い髪。独特の民族衣装……。
「ダヴィンチ兄様……!」
【作者より】
ここまで読んでくださりありがとうございます!
ショーブの信念が少し現実的なものになりました。お前もデュエル脳にならないか?
そしてついにお兄様枠が登場。前章ラストでちょっと出てきた彼です。やっぱりカードゲームと言ったらお兄様ですよ。
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次回は明日12:00〜13:00頃に投稿予定です。よろしくお願いします!
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