第34話「竜戦士の魂」(デュエルパート2)

【夢藤のターン】


 まずは状況を整理しよう。「ジャイアント」のステータスは今6000/0。発動を6回も無効に出来る化け物だ。

 さらに「ワーム・キングダム」の効果でギガントバグの発動を打ち消されない。

 一方で俺の場には「ライジング・ドレイク」1体のみ。3000/2000という高ステータスも今は心許ない。

 だが戦わなければならない。この戦いだけは負けられない!


「俺のターン、ドロー!」


 ……こいつは。


(腹を括れってことか!)


 墓地を見る。

 内訳は「アサルト・ドレイク」、「ライト・ドレイク」「双竜の宝札」「双竜の咆哮」、「双竜の火炎」、「双竜の錬成」、「双竜の防壁」がそれぞれ1枚ずつ。


(だが、今引いたこいつを使っても結局はジャイアントに無効にされる……)


 ただ、どこか引っかかるところがあった。


(例外があったはずだ。デュエルの詳しいルールに……)


 思い出せ。デュエルの詳しいルールについて、勇戯さんが教わったはずだ。


 ――あ、勝武。その効果は打ち消せないぜ。


 ――えっ? でも発動は……。


 ――テキストをよく見てみな。


 ――えっと「神の鉄槌」。相手の効果が……あっ。


 ――わかったか?


 ――はい。効果通ります。


 思い出した。完璧に思い出した。

 そうだ。ジャイアントとワームキングダムには致命的な欠点がある。


「ハガー。俺はこのターンでお前に勝つZE」


「なんだと」


 ハガーは一瞬目を丸くしたが、すぐに笑う。


「はは。あまりの制圧ぶりを見て頭でもおかしくなったのか? ジャイアントが何度発動を打ち消せると思ってる」


「確かにな。壁は厚い。はっきり言ってここまで追い詰められたのは初めてだ」


「だったら諦めな。出口も近い。トロッコを抜けた先でデュエルしてもいいけど、地盤の脆いその場所で続けるなら君たちの命はない。今なら見逃してやる――と言いたいところだが気分が変わった」


「ん?」


「元の世界で君をあれほど貶めたのに、転生してまで食らいつくとは全く腹立たしい限りだ。残念だけど続けてもらう。復讐だからね」


「復讐だと」


「君と僕は同じクラスだったのは覚えてるかい」


「それがどうしたんだ」


「僕は金持ちの生まれでね。だから周りに寄ってくる奴らはみんな僕のコネが目当てだった。おかげで『お前自身は何者でもない』といじめられた。辛かったけど、嬉しかったよ」


「なんだと?」


「いじめられることが、僕という個人に初めて与えられた『立場』だったからね。そんな立場すら僕にとっては救いだった」


 何を。何を話している。


「だがその立場を君は奪った。より貧乏な君は転入した時、いじめの対象は君になった。憎くて仕方なかった。だから君の家に火を点けた」


「お前」


「いい燃えっぷりだったよ!」


 俺の脳髄という脳髄のお湯が注ぎ込まれるような怒りが走った。

 俺は持ったカードを強く握り締めた。


「ふざけるなよ」


「うん?」


「だからって人を殺していい理由になるわけがない!」


「そう?」


「何人死んだと思ってる! 俺の家族だけじゃない。延焼のせいで数え切れないほどの犠牲が出たんだぞ!」


「死んだのは君の家族含め平民だろ? いてもいなくても変わらない命さ。それより僕が事故死したほうが世間の損失だよ」


 こいつ。この虫野郎。


「むしろ君は家族を殺され地下に落とされどうして生きている? どうしてこう生にしがみつくわけ? どうせロクな人生なんて歩けるわけでもないのにさあ!」


「おい」


「あ?」


「言いたいことはそれだけか?」


「ハッ。まだあるよ? 僕がこれからあのアンセルとか言う奴も乗り越え、この世界に起こす革命の偉大さを――」


「黙れ!」


 俺は墓地で光っているカードを使った。


「墓地にある双竜の火炎の効果! こいつを取り除き、相手のモンスター効果をこのターン打ち消す!」


 ジャイアントに炎がまとわりつく。しかし――。


「バカかお前! ワームキングダムで発動は消えないつったろ!」


 墓地から火炎が現れ、ジャイアントが吐いた粘液を消滅させる。


「何。混沌魔法のミスか? ならジャイアントの効果で――おい何してる! 早く炎を消せ!」


「無駄だ」


「ひょ?」


「双竜の火炎。こいつの効果は発動じゃなくて適用だ」


「ああ? 何わけのわかん――」


 ハガーは「あっ」と冷や汗をかく。


「そうだ。発動とはカードを使うぞ、という宣言。適用はカード効果を実際に処理すること。そしてジャイアントもワームキングダムも、打ち消せるのは発動のみ!」


 俺は勇戯さんとの会話を思い出していた。


 ――よく覚えておくんだ勝武。発動は発砲、適用は着弾と言えばわかりやすい。ここらへん細かいルールだから結構間違える奴は珍しくないんだ。


 勇戯さん、ありがとう。あなたがいたから俺は活路への希望を見出せた。


「バトル。ライジングでジャイアントに攻撃!」


 お互い破壊されず、粉塵だけが舞う。


「バカかお前。血迷ったか?」


「…………」


「バトルしても攻撃力の6000の前じゃお前のモンスターは無力! 効果は次のターンから戻るから打ち消し祭りを繰り返せばお前のライフは0だ! ひゃーっひゃっひゃっひゃっ! やったー! 俺の勝ちだー!」


「何勘違いしているんだ」


「ひょ?」


「まだ俺のバトルフェイズは終了してないZE!」


「なーに言ってだ、お前のモンスターは攻撃を終了したじゃないか!」


 引いたカードを宣言した。


「単発魔法発動!『竜戦士の魂ドラゴニック・ソウル』!」


「『竜戦士の魂ドラゴニック・ソウル』?」


「こいつは「ドレイク」または「双竜」以外のモンスターが出るまで何枚でもカードをドローし、墓地に捨てるカード。そしてその数だけ、俺のドレイクモンスターは追加攻撃!」


「そういうことかよ。だが攻撃力が足りないぜ?」


「ただし墓地に送られたカードの数だけ、俺のモンスターはこのターン攻撃力が1000ポイント上がる!」


「チッ……。いくら逆転に見せかけてもお前のライフは残り500! 反射ダメージで終わりだ!」


「墓地にある双竜の宝札の効果が適用されている! 俺のモンスターは戦闘では破壊されず、モンスター同士のバトルで発生する俺へのダメージも0になる!」


「なっ」


「さあ行くZE! まず1枚目、ドロー!」


 引いたカードを見せ、墓地に送る。


「単発魔法『双竜の革命』を墓地に捨て、ライジングドレイク、追加攻撃!」


 4000/2000!


「もちろん破壊もダメージもないZE。だがドレイクか双竜を引き続ければ別!」


「くっ!」


「2枚目ドロー!『レフト・ドレイク』!」


 5000/2000!


「3枚目ドロー!『双竜の爆炎』!」


 6000/2000!


「4枚目ドロー!『クリアー・ドレイク』!」


 この時、ようやくジャイアントが破壊される。

 7000/2000!


「くそ!」


「5枚目ドロー!『双竜の火炎』! ダイレクトアタック!」


 4000→0!


 ハガーはなんとかかわすが既にライフは0だった。弱々しく羽を動かして俺を睨む。


「チッ。デュエルは終わりだ……。今日のところは見逃して――」


「どこに行くつもりだ?」


「ああ? 戻るんだよ。事情をアンセルに――」


「聞いてなかったのか? 引いたドレイクと双竜の数だけ追加攻撃と」


「……攻撃する? ハッ!」


「そう。効果は強制だ! さあ行くZE! 6枚目ドロー!」


「なっ。ま、待って! バカにしたことなら謝――」


「ドレイクカード!」


「うわあああああ!」


「ドロー、ドレイクカード!」


「ひぎゃああああああ!」


「ドロー、ドレイクカード!」


「ぐおあああ!」


「ドロー、ドレイクカード!」


「ああああ……」


「ドロー、ドレイクカード!」


「ああ……」


「ドロー、ドレイクカード!」


「はああああああ! お、おおう……」


「ドロー、ドレイク――」


「もうやめて! ショーブ!」


 ユーゴが涙ながらに俺に抱きついた。


「離せ!」


「ハガーのライフはもう0です!」


「はあ、はあ……」


「もう勝負はついたんだよ……」


 ゲームは、終わった。


「ドロー」


 引いたのは「床掃除」。処理も終わった。


「ぐっ……」


「ショーブ!」


「ショーブの旦那!」


 2人に呼ばれるが、心の中は既に凄まじい達成感で満たされていた。

 しかし同時に強烈な虚脱感もあり――。


(デュエルで人を……)


 俺は意識を失った。






【今日の最強カード】


竜戦士の魂ドラゴニック・ソウル


単発魔法


効果

①このカードはバトルフェイズ時にしか発動出来ない。


②自分「ドレイク」または「双竜」以外のカードが出るまでドローし、墓地に送る。この時引いた「ドレイク」または「双竜」カードの数だけ自分の「ドレイク」モンスターは攻撃する。


③自分のモンスターは①の効果で墓地に送られた「ドレイク」または「双竜」カード1枚につき、攻撃力を1000ポイントアップする。


フレーバーテキスト

もうやめて!オークのライフはもう0よ!






【作者より】

 ここまで読んでくださりありがとうございます!

 ついに「あの回」をやれて、嬉しくてチームサティファクションです……!


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 次回は今日17:00〜20:00頃に投稿予定です。よろしくお願いします!

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