第33話「害虫蠢く危険なデュエル」(デュエルパート1)

【夢藤の後攻】


 デュエルが始まった。


「俺のターン、ドロー!」


 見せてやる。新たなドレイクデッキの戦いを。


「俺は単発魔法『アサルト・ドレイク』を発動! この魔法はモンスターとして召喚される!」


 ドレイク型の雲が上がり、やがて肉付けされる。

 2000/0。


「魔法モンスターとはまた珍しい」


「おかげでドレイクがいないと始まらない、という弱点は克服出来たZE」


「だが今の君の召喚権と詠唱権は共に後2回だ。大量展開が常のカードゲームでこのデメリットは重いよ?」


 確かに。魔法モンスターのデメリットは召喚権と詠唱権を同時に1つずつ使うこと……。


「ならその負担を食うくらいのアドバンテージ差をつけるまで! 俺は単発魔法『双竜の宝札』を発動! ドレイクがいれば2枚ドローする!」


 アサルトの頭上が光り始める。来い来い切り札。


「甘い! 僕は手札のモンスター『籠絡するG』を発動!」


「なっ。手札誘発!」


 手札誘発。相手の動きに合わせて手札から動くカード群だ。非公開領域からのカード使用は情報戦において一手先を行く。


「こういうカードは君がいた世界でよく見たろ?『葉流はる一卍いちばん』とかさ」


 その時、ユーゴは俺をまじまじと見た。


「元いた世界だって? ショーブ、あなた」


「…………」


 俺はそれに目を逸らした。


(話す時が来たか。俺が異世界人であることを)


「……後で話そう」


 その時、ハガーが手をパンパンと叩く。


「相手モンスターがいる状態で相手が魔法を発動した時、こいつを捨ててその発動を打ち消す。よろしいかな」


 黄色いゴキブリが現れ、光を吸い尽くした。ドローは出来なくなったか。


「なら俺は『ライト・ドレイク』を召喚!」


 2000/0。

 相棒は未だ健在だZE。


「この時アサルトの効果発動! 魔法でないドレイクモンスターが召喚された時、デッキから『ドレイク』魔法または『双竜』魔法を手札に加える!」


 ひとまず奴は手札誘発デッキと見ていいな。前のターンにほとんど動かなかったのがいい証拠。


(攻撃時やダメージ発生時、何らかのカードを使うだろう……)


 ならばこいつだ。


「俺はデッキから『双竜の咆哮』を手札に!」


 こいつは相手のカードの効果を打ち消す魔法だ。これで準備万全。


「バトル! 俺はカードを3枚伏せ、アサルトでダイレクトアタック!」


「この時『阻止するG』の効果発動! 相手の攻撃時、このモンスターを捨ててその攻撃を無効にし、バトルフェイズを終わらせる!」


 今度はオレンジのゴキブリが現れ、ドレイクの前に迫る。


「来たな! 俺は双竜の咆哮を発動! ドレイクモンスターがいれば、相手のカード効果を打ち消す! 俺が選ぶのはもちろん、今お前が発動した効果だ!」


 アサルトがゴキブリに突進する。打ち消しが成功すればこのままそれを潰す。

 はずだった。


「……どうした?」


 咄嗟にフィールドを見る。その時、ワームキングダムが光っていることに気付いた。


「ワームキングダムの永続効果が適用されている。こいつがあれば種族『ギガント・バグ』の発動は打ち消されない!」


 くそ。カードは既に全て伏せた。対応したくても出来ない状況……。


「俺はこれでターン――」


「この時ワームキングダムの効果発動。このターン墓地に送られたギガント・バグの数だけドローする!」


 おいおい。あのカードはリソース源でもあったのか。


「使ったのは籠絡するGと阻止するGの2枚。よって2枚ドロー。さて君のターンは終わりだね?」


 うるさいZE少し黙ってろ!






【ハガーのターン】


「僕のターン、ドロー!」


 これで奴の手札は再び4枚に。だが奴のデッキは――。


「手札誘発だからあまり動かない。そう思ってるね?」


「何?」


「虫は巣を攻め込まれれば確かに守りに回る。だが1度群れとなればその牙は竜すら葬る」


「何が言いたい」


「僕は手札から『コール・アント』を召喚!」


 場に巨大な蟻が現れた。

 1500/0。


「『ワーム』と『アント』、2つのテーマを混ぜていたか!」


「種族同士の横の繋がりにあずかるのも一興だろう? さあ効果発動だ。場に出た時、デッキからアントモンスターを1枚加える!」


 コールアントが「キシャア」と鳴き、その体を光らせる。


「僕はデッキからもう1枚のコールアントを手札に。そして今加えたコールを召喚し、効果発動!」


(デッキ圧縮まで……!)


 デッキの枚数を減らすことで、ドローの際に目当てのカードを引き込みやすくする戦術だ。こいつ出来る。


「僕はデッキから『ジャイアント』を手札に加える」


 ジャイアント? 巨人を意味する言葉だが一応アントの名前を含むか。


「くく。君の負けが決まった」


「何?」


 ハガーは今加えたジャイアントを見せる。


「このモンスターを召喚するには僕の手札と場にある全てのギガントバグのモンスター全てを墓地に送らなければならない」


 俺は久しぶりに背筋を凍らせた。

 通常、モンスターというのは召喚権を使うのみで場に出せる。だが中にはコストを要求するモンスターがいる。負担がかかるだけデメリット。だが――。


「僕は手札と場のギガントバグ6枚全て墓地に送り、現れろ! ジャイアント!」


 そのデメリットをひっくり返せるほどの効果を持っていれば別。

 6000/0!


「こいつは今墓地に送ったモンスター1体につき攻撃力が1000上がる。僕は6体送っているな?」


「くっ」


「それだけじゃない。こいつが出た時、相手のカードを全て破壊する!」


 巨大な蟻が叫び声にも似た声で威圧する。

 やはりそれくらいはしてくるか。


「永続魔法『双竜の火炎』! ドレイクモンスターがいれば相手のカードを1つ破壊する! 俺はジャイアントを破壊だ!」


 破壊をすれば処理前に場を離れたカード効果は失われる。これはルールによる処理のためカード効果に優越する。つまりワームキングダムでも止められない。

 だが。


「無駄無駄! ジャイアントの効果発動! 墓地のギガントバグを1体取り除き、その発動を打ち消す!」


「くっ! なら単発魔法『双竜の錬成』! 俺の場のドレイクを2体墓地に送り、アシストモンスターを召喚! 俺はアサルト、ライトの3体を墓地に!」


「無駄なあがきを」


「現れろ『ライジング・ドレイク』!」


 空間に青光りする稲妻が現れ、竜の姿を形取る。

 3000/2000。大型モンスターだ。


「この時ライジングの効果発動! 相手のカードを全て破壊する!」


「おいおい。僕が一体どれだけのコストを払ったと思ってるんだ?」


「なんだと?」


「ジャイアントの効果! 同じ打ち消し効果をもう1回使ってやるよ!」


「こいつターン制限なしか!」


「まさか。こいつを召喚するために墓地に送ったモンスターの数だけさ」


 十分すぎるっての……! 仕方ない。


「単発魔法『双竜の防壁』! このターン、ドレイクは破壊されない!」


 伏せは全て使った。処理が行われる。

 凄まじい爆風と共にあらゆる処理が繰り返され、トロッコが激しく揺れる。

 バルムンクさんは青筋を立てて張り切る。


「しっかり掴まってろ!」


 金属音が耳にうるさいがトロッコは一気に加速。その甲斐あって爆風から抜け出せた。

 だが盤面は劣勢だった。結局俺は奴の動きに対応出来ず、ジャイアントとワームキングダムが鎮座する。


「バトル! 僕はジャイアントでライジングに攻撃!」


 ライジングは防壁で破壊されない。だが攻撃力3000に対して攻撃力6000はかなり痛い。

 ライフ3500→500。

 だが本当にやばいのはここから!


「バルムンクさん!」


「おうよ!」


 バルムンクさんはギアを全開にし、爆風の吹くほうに向けてトロッコを傾ける。


(お、落ちる!)


 トロッコからは「ギイギイ」とえげつない音が鳴る。バルムンクさんも思わず叫ぶ。


「角度43.8度! 鈍ってくれるなよ俺の勘!」


 爆風がトロッコを襲い、吹き飛ばそうとする。

 しかし勝負はバルムンクさんの勘が勝った。トロッコはなんとか走り続ける。

 ユーゴはすっかり青い顔だ。無理もない。


「ありがとうバルムンクさん」


「いいってことよ」


 ハガーは虫使いだけに苦虫を噛み潰したかのような顔を見せる。


「チッ。僕はこれでターンエンド。だがワームキングダムの効果で6体の生け贄分――よって6枚ドローだ」


 もうトロッコにもバルムンクさんにも負担はかけたくない。もちろんユーゴにもな。


 ギリギリもいいところだが、後は追い詰めるだけ!


「俺のターン、ドロー!」






【今日の最強カード】


【ライジング・ドレイク】


生息地:光の国

種族:ライトニング・ドラゴン


攻撃力:3000

守備力:2000


アシストモンスター

召喚条件:「錬成」と名の付く魔法を発動し「ドレイク」モンスター3体を手札、フィールドから墓地に送る。


効果

①このモンスターが召喚された時に発動する。相手のカードを全て破壊する。


②このモンスターは自身のより攻撃力の低いモンスターの効果を受けない。


【フレーバーテキスト】

温かな朝日。轟く咆哮。燃える街。






【ジャイアント】


生息地:緑の国

種族:ギガント・バグ


攻撃力:0

守備力:0


①このモンスターは自身の手札、フィールドに存在する種族「ギガント・バグ」を全て墓地に送らなければ召喚出来ない。このモンスターは手札からしか召喚出来ない。


②このモンスターが召喚された時に発動する。相手のカードを全て破壊する。


③相手のカードが発動した時に発動してもよい。自分の墓地に存在する種族「ギガント・バグ」のモンスターを1体ゲームから取り除き、それを打ち消す。この効果はお互いのターンに2回まで発動出来る。


④このモンスターの攻撃力は、このモンスターを召喚する時に墓地に送った種族「ギガント・バグ」1体につき1000上昇する。


【フレーバーテキスト】

その個体は社会性を持つアリの中では異端中の異端である。敵も味方もなくいたずらに貪ることしか考えないその性格は同種すら遠ざけた。

――緑の国博物誌より抜粋






【作者より】

 ここまで読んでくださりありがとうございます!

 カードパワーのインフレが激しくなって参りました!


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 次回は明日12:00〜13:00頃に投稿予定です。よろしくお願いします!

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