第32話「この虫野郎!」

 ドラゴン退治。

 そう意気込むフィアナからは確かな熱意を感じた。カルトは面食らい、呟く。


「な、何このオーラ。あなた本当にエルフ?」


 そういえばカルト、あいつの「やばさ」を知らなかったな。

 フィアナ・ガレア。エルフの少女にしてその実、怪力無双。武闘派の怪物出る作品間違えてる奴だ――。

 するとフィアナはオーラを消す。


「大丈夫だよ。あなたは傷付けさせない」


 オーラによる気迫かはたまた異様な説得力か。どちらにしても頼れる。俺は言う。


「任せていいのか?」


「もちろん。誰に言ってんの」


 すんげー説得力。


「わかった。じゃあバルムンクさん。早速ですが薬を」


「お、おう……」


 バルムンクさんは困惑しつつも瓶を飲み干す。


「うおおみなぎるぜ! 全盛期のパワーが戻ってきた! こいつぁすげえや!」


 俺とユーゴも瓶を飲む。

 うん。確かに疲れが飛んだ。


「どうだ?」


「うーん無味」


 俺も飲む。


「うーん無味」











【坑道85番】


 俺たちはドワーフたちから声援を受け、トロッコに乗り込んだ。


 ――俺たちは情報集めてます!


 ――頼むぜヒーローたち!


 ――旦那! 成功したらまたボロい話頼むぜ!


 俺たちはここまでついてきてくれたドワーフたち3人に手を振る。


「じゃあ乗り込むぜ」


 バルムンクさんはトロッコの先頭に座り、レバーを手に取って言う。


「このトロッコも開発が頓挫してからしばらく使ってねえが、果たして動くかどうか。ふん!」


 バルムンクさんはレバーを掴む両手に血管を立たせ、トロッコを進めた。

 車輪と線路と擦れる音と共にゆっくりと進む。バルムンクさんは「しっかり点検されてたようだな」と口角を上げ、続けて言う。


「しっかり掴まってなよ!」


 トロッコはゆったりと、しかし少しずつスピードを上げていく。


「おおっ!」


 歪んだ道に進むたびバルムンクさんの両腕が唸る。巧みにレバーを回して軌道を安定させる手腕は現役時代の覇気を感じさせる。現役知らないけど。

 俺はトロッコに乗るのは初めてなので言葉1つも発せない。ユーゴもトロッコの端という端を掴み、縮こまっている。

 その時。


 ブン。

 ブウン。

 ブウン、ブウン、ブウン


 嫌な音が耳に飛び込んだ。ユーゴは咄嗟に言う。


「バルムンクさん。この音!」


「ああ毒虫だ! 針を受ける覚悟をしな!」


「「ええ!?」」


 針ファイバーって……コト!?

 その時、バルムンクさんの腕がより一層唸る。


「分岐だ!」


「「うわあ」」


「ここはスピードを上げる!」


「「うがあ!」」


「パゥワー!」


「「ひぎい!」」


 毒虫をよけるためにバルムンクさんが安全をガン無視した運転のせいで俺たちは酷いリアクションを取ってしまう。おかげで食らう毒虫の数も最小限で済んだが。


「毒虫の巣は抜けた! 後は外に向かって進むだけだ!」


 そうすか……。いや酔いそう。しかも針が割と痛い……。

 その時だった。


「また虫ですか?」


 ユーゴがトロッコの右側を指差す。俺もそこを見ると、確かに洞窟の奥から何かが光っている。


「バルムンクさん。あれは?」


 バルムンクさんは目線を右に逸らし、やや冷や汗を浮かべる。


「……バカな。ここは開発が頓挫してるから人が通れるのはこの坑道だけはず」


 何? バルムンクさんでも知らないだと? じゃああの光は。

 というか待て。どんどん近づいてないか?


「久しぶりだね。ショーブ・ムトーくん――」


 俺はその声に震えた。忘れるわけがない。


 ――よく聞くんだ。このボヤは君のせいだ。


 ――いいかい。これは間違っても僕のせいじゃない。僕は善良な市民なんだ。


「ハガー・ジャバン!」


 俺の家に火を点けて家族を皆殺しにした男だ。ついでにカルトの元カレらしい。年は俺と同じくらいか?

 しかしどういうわけか、ユーゴも奴を睨んでいる。


「お前、アンセルに同行していた……!」


 なんだと。


「へえ僕を覚えてくれたの。ついでにショーブ君に至っては名前まで」


 野郎この世界でも罪を重ねやがって。


(それにしてもあれはなんだ?)


 ハガーは背中に鉄の翼をつけ、俺たちを同じスピードで進んでいる。バルムンクさんは訝しむ。


「けったいなもん付けてんな」


 確かに。中世ヨーロッパの雰囲気を持つこの世界にしてはオーバーテクノロジーが過ぎる。元の世界でも過ぎた技術だ。


「この羽根は仲間から授けられたものさ」


「仲間だと?」


「そう。で、何やら外が騒がしいから担当区域を見て回れとアンセル様からの命令だ。なんだなんだと思いつつ来てみれば皆さんトロッコでご旅行中とは」


「もう嗅ぎ回っていたか」


「スパイがいるのさ。買収したドワーフが街のあちこちにいるよ」


「くそ……」


「それよりもどういうことかな。僕は実体化したカードを取り込んで毒の耐性を得ているのに、君たちはあの巣を抜けてどうして死んでない?」


 俺は口をつぐんだ。誰が教えるものか。フィアナたちの動向は探らせない。


「まあいいや。どちらにしてもこれで爆撃するまで」


 ハガーはそう言い、羽根の関節からミサイルを飛ばした。実力行使とは卑怯な。


「お前それでもデュエリストか!」


「リアリストだ!」


 ここはバトル漫画クラッシュタウンじゃないんだぞ……!

 俺はトロッコの端に立ち、それをモロに食らった。


「はは! 改めて夢藤勝武死す! デュエルスタンバイ!」






「何勘違いしているんだ」






 俺は煙を払う。


「ひょ?」


「まだ俺のバトルフェイズは終了してないZE!」


 俺はハガーを指差す。


「俺がどこで生きて来たと思っている!」


「……僕が叩き落とした地下だろ?」


「そうだ。粉塵舞う環境で肺は常にやられ、休みのない環境で足腰は痛め、滑落事故で山ほどの怪我を負ったさ。嫌でも鍛えられる」


「何。ショーブの奴、そこまで鍛えて……」


「残念だったな。ミサイルなんて効かないZE!」


 加えてエルフの薬で治りも早いしな。


「……いい気になるなよ。だったら何度でも食らわせるまで!」


 ハガーはミサイルを連発する。無茶苦茶しやがる。

 だがライフで受ける!

 俺は鬼神の連劇ラッシュでそれらを全て撃ち落とした。


(ぐっ……)


 爆発の痛みはあるがさすがエルフの薬。すぐに治るZE。

 するとハガーもミサイルを尽かしたようだった。


「チッ。ならこいつで仕舞いだ」


 ハガーはデッキを構えた。デッキは光っている。混沌のデュエルか。

 おいまさか。


「今やるつもりか!」


「その通りさ! 混沌魔法、発動!」


 その時、俺のデッキが闇に包まれる。


「バカな。デュエルには同意してないはず!」


「ぬるいね。混沌の力を得た決闘魔法は対戦相手の意思に関係なくデュエルに引きずり込めるのさ。僕のターン!」


「ハガー!」


「僕は単発魔法『Gの怒り』を発動! 手札のGモンスターを1枚見せ、相手に500ダメージを与える!」


 ハガーの前にゴキブリ型の炎の玉が現れ、俺に襲い掛かる。きもい!


「このゴキブリ野郎!」


 俺は裏拳でそれを弾き飛ばした。


 4000→3500!


「ぐっ!」


 火傷で手から煙が上がる。精神的にダメージもなかなか。


「どうする? デュエルするかい?」


「まさか。トロッコから降りたら落ち着いたところでやろう」


「ここでやるほうが得だよ? 降りたらしばらくはここより崖の多いところが続く。実体化したカードの勢いで崩れるかもね。まあ僕は飛んでるから平気だけど」


「なぜそこまでデュエルにこだわる!」


「デュエルで生き生きとした君が、デュエルで死ぬ様を見たいから!」


 野郎……。しかし思わずバランスを崩す。


「ショーブ!」


 俺はユーゴに咄嗟に押さえられ、落下を免れた。


「す、すまないユーゴ」


「いえ。この不安定な場であなたを押さえるのは僕の役目だ」


 その時「そして俺は」とバルムンクさんが笑う。


「このトロッコをしっかり運転する役目だ!」


「き、危険なのにみんな」


「気にしないでください。奴に仇を討てないのは悔しいですが、始まったら仕方ない。支えます!」


「その通りだぜガキンチョ! ショーブの旦那をしっかり押さえてな! 俺はトロッコを舵取る!」


「ユーゴです! ガキじゃないもん!」


 みんな……。


「くく。お仲間は覚悟が座ってるようだぜ? 僕は手札から永続魔法『ワームキングダム』を発動し、ターンエンド」


 くそったれ。だが悩んでいられるか。後押しされて、当の俺が足踏みしててどうする。


「わかったZEみんな……」


 よし。


「じゃあ行くZE――」






「「デュエル!」」






【作者より】

 ここまで読んでくださりありがとうございます!

 覚悟しろよこの虫野郎!


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 次回は今日17:00〜20:00頃に投稿予定です。よろしくお願いします!

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