第31話「潜入!ドワーフの街!」

 ドワーフの街は神都からかなり離れているらしい。おかげで神都に来るドワーフは少ないとかなんとか。

 バルムンクさんは馬をしばきながら言う。


「混沌のデュエルを操る一団、なんて言うんだ?」


 えっと。


「確か『光の世界』です」


 カルトは頷く。合ってた。


「光の世界だと? そりゃあまた」


「ご存じで?」


「光の世界。かつて神都にクーデターを起こした宗教団体だ。奴ら神都にとってあまりにも汚点なんであらゆる記録から抹消されてる。上層部でも知ってるのはごくごく一部さ。後は俺はみたいに、ちょうど世代だったんで耳にしてる奴が記憶してるくらいか」


「それって何年前ですか?」


「150年くらい前か? 俺がガキの頃よ」


 150年!? い、一体あなた何歳……。いや今は話を聞こう。


「当時の奴らは目的に活動を?」


「混沌のデュエル復活だな。でも結局規模が小さかったんですぐ鎮圧されたらしい。だが今はそれが現実のものになりかけてるんだよな」


「ええ。完璧ではないですがモンスターを実体化させるデュエリストを何人か目に」


 その時、ユーゴが聞く。


「ちなみにですが、アンセルという名前に聞き覚えは?」


「ねえなあ。恐らく隠し子か何かだわな」


「そうですか……。やっぱり情報は徹底して漏らさないようにしてます」


「わりいな……。あ、ついでにだが奴らどこまで実体化出来るかわかるか?」


 俺はカルトに目をやる。するとカルトが頬を掻きながら言う。


「実体化出来るのはデュエル中だけ。動かせるのもカードとしての処理の範囲のみね。だから攻撃や効果発動に伴う動きはしても『街を壊せ』とか『奴を殺せ』みたいにデュエルの範疇を超えた命令をしても動かないわ」


 バルムンクさんはぎょっとする。


「……お嬢ちゃんやけに詳しいが」


「まあね。私そこに所属してたから」


「はあ!?」


「ごめんなさい。話の流れ的にこんな感じで明かすしかなかったの。もちろんショーブたちやあなたに敵対するつもりはないわ。現状」


「てことはお嬢ちゃんは離反者ってことか? というか現状?」


「アンセル様にね。混沌のデュエルを復活させられるだけの魔力を持ってきたら私の大切な友達を生き返らせてあげるって言ってたのよ」


「ふむ」


「魔力を集めるためには混沌のデュエルで相手に勝ち、額に触れないといけない。そこまで追い詰めるためには人を傷付けるデュエルをしなくちゃならないわ。私にはそれが耐えられなかった」


「なるほどな」


「でもその子の復活を諦めてるわけじゃない。だから今は混沌のデュエル以外でその方法を探るために同行してるの。そういうわけで、彼らとは完璧に仲間であるとは言い難いわ」


「ならいざって時は」


「……敵対するかもね」


 カルトはそう言って、レムちゃんを抱いて顔を隠した。まだ揺れているのだ。

 その時、馬車が止まる。


「着いたぜ」


 俺は席を離れて言う。


「お見送りありがとうございます」


「いいってことよ。それよりここは検問所だ。事情を話してくる」


「いいんですか?」


「街が教団に利用されてるってことはドワーフ族は奴らに反感を買ってる可能性がある。そこを押してみるさ。それに俺の顔は効くぜ。豪商で名が売れてるからな」


「中身までイケメン!」


 あ、フィアナやっと起きた。乗せてもらったのに呑気してんなよ。

 さてバルムンクさんが事情を話し始める。すると検問所の人たちが異様に盛り上がる。

 バルムンクさんが戻ってくる。


「歓迎ムードだ。やっぱ教団は面白くねえとよ」


「ありがてえバルムンクさん……!」


 その時、バルムンクさんが懐から煙草を吹かす。


「乗り掛かった船だ。俺も協力しよう。裏方の仕事なら任せとけ」


「いいんですか!」


「故郷をめちゃくちゃにされて居ても立ってもいられなくなったんでな。それより早く通りな」


(バルムンクさんマジでありがとう)


 そんなわけで検問所も俺たちは全員セーフ。それどころか歓待を受けた。


 ――アンセルを倒してくれ!


 ――混沌のデュエル復活を止めてくれ!


 ――強制労働で腰が痛くてたまんねえよ!


 ドワーフたちが次々に俺たちを取り囲む。モテ期か? 幸先いいスタートだ。

 中にはバルムンクさんの帰国を喜ぶ声もあった。曰く「街の奴らは大体友達」らしい。名声が高いのだろうな。本当に心強い。


 ――親方! このヒーローたちはあんたが連れて来たんだろ?


「えっ? お、おう」


 ――おっしゃあ! じゃあアジトに案内するぜ!


 はは……。ま、いっか。ここは流れに身を任せよう。

 そんなこんなで俺たちはアジトについた。

 土煙とろうそくの光がぼんやりと灯る、ちょっと広い防空壕という感じ。


 俺たちは簡素な椅子で机を囲む。するとバルムンクさんが切り出す。


「おし。早速だが教団の監視は今どうなってる?」


 ドワーフたちが口々に答える。


 ――ここはまだ監視があまり行き届いてないっすね。


 ――それも時間の問題だぜ。ここは最後の砦だ。


 バルムンクさんは顎を撫でて「教団の場所は?」と聞く。

 ドワーフたちはバルムンクさんに地図を渡した。それを見て本人は苦い顔だ。


「おいおい、開発跡地か。また面倒なとこに……。警備は?」


 ――常に実体化したドラゴンのモンスターが見張ってます。でかいし火を吐くし、そっからの侵入は無理です。


「ま、そんなこったろうと思ったよ。ザルのはずがねえもんな。となるとあれしかねえか」


 バルムンクさんは地図のある場所を指差す。


「坑道85番をトロッコで突っ込む。入り組んだ道で事故りやすいが、操縦なら俺が出来る」


 ――おいおい旦那、そりゃいくらなんでも無茶ですぜ! あそこは毒虫の巣窟! 開発が頓挫した理由だろうがよ!


 ――警備が薄い理由でもあります! 崖も多いから教団入りですからここからは入らない!


「だがルートはここしかねえんだ。街の構造を知ってる俺だからそこらへんよくわかってる。それにマジのガチで突っ走れば虫なんざ追いつけねえさ。俺様の美技トロテクに酔いな」


 ――あんたのは本当に酔っちまうよ! つうか脱線の可能性!


 ――せめて薬があればなあ。運良くエルフの薬とか落ちてねえかな。


 その時フィアナが「ふふん」と笑う。あ、そういえば。


「いやーお父様グッジョブすぎ」


 フィアナは俺の背負った鞄から何かを取り出す。あ、そういえば。

 それを見てドワーフたちは唖然とし、バルムンクさんは腰を抜かしそうになった。


「やるじゃねえかエルフのお嬢ちゃん……!」


「お礼ならお父様に言ってよね! ただこの薬は万能じゃないの。毒虫の種類によっては効き目が薄いから。で種類は?」


 ――毒虫はわくっす。


「おーそれなら大丈夫! でもちょっと使う分多めじゃないとかなあ。その種類となると最低でも1人1瓶分は飲まないと」


 ユーゴが瓶の数を数えながら言う。


「渡されたのはショーブ、僕、フィアナさんの3人分だから1人分足りないですね……」


 ユーゴはそう言って頭を掻く。

 カルトはレムちゃんを端に置いて言う。


「私なら離反はまだ知らされてないはず。多分いけるわ。顔パス狙うわよ」


 その時フィアナが胸を張った。でかい胸を。


「なら薬の振り分けショーブくん、ユーゴくん、それからバルムンクさんにして」


 カルトは驚く。


「あなたは?」


「あたしはカルトちゃんに同行するわ。顔パス出来なかったら強行突破しないといけないから」


 バルムンクさんが座り直す。


「……薬、なぜ俺を」


「バルムンクさんにはトロッコはしっかり運転してもらわないと」


「だが」


 カルトもさすがに反発した。


「ちょっとあなた! ドラゴンにやられるわよ!」


 そう焦るカルトだったが、俺はその肩に手を置いた。


「いや、問題ないかも」


「僕もそう思う」


 ユーゴも頷く。

 知っている。奴の強さを、底知れなさを、俺とユーゴは知っている。

 俺は言う。


「あいつ、最強だから」


 フィアナはそう微笑み、地面の小石を握り潰して砂にした。

 その瞬間、フィアナから凄まじいオーラが解き放たれた。






「ド ラ ゴ ン 退 治 と 行 き ま す か」


♪(ゆずの「表裏一体」のイントロ)






【作者より】

 ここまで読んでくださりありがとうございます!

 いいエルフって奴は筋肉に好かれちまうんだ……。


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 次回は明日12:00〜13:00頃に投稿予定です。よろしくお願いします!

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