第4章「栄光の呪縛(スペル・オブ・グローリー)」
第30話「デッキ強化、そしてドワーフの街へ」
【これまでのあらすじ】
勝武、ユーゴ、フィアナの3人は混沌のデュエリスト、カルトに遭遇。一味は戦いを通じ、彼女と一時的に協力体制を敷くことに。
彼女の口から勝武の仇、そしてアンセルのアジトがドワーフの街であることを知らされた彼らはついに決戦の地へ赴く。
第4章
【3章終了直後から】
このまま直行、と行きたかったが先にユーゴのデッキを強くしておく必要がある。
本人は強化に賛成とは言っていたが、少し浮かない感じだった。
「どうした?」
「……いえ。このデッキ、家族から受け取ったものなんです。改造もしていない。強化はしたいけど少し心の準備が出来てなくて」
「そうか……」
デッキ。それは命にも変え難い代物だ。ましてや家族からの形見とあっては。
「ただ、時折扱いが難しいと感じるカードもちらほらあります。皆さん、僕のデッキの改造手伝ってくれませんか?」
なるほど。一応改造の余地はありと考えていたか。確かにユーゴとデュエルした時、いまいち強さがピンと来なかったカードも見受けられた。いいだろう。
俺たちは一旦宿に戻った。部屋に戻り、ユーゴのデッキを種類ごとに広げる。
フィアナは本人の希望で、門番になってくれた。
テーマは「屍界」。闇の国、種族リビングデッドで統一されている。
墓地肥やし、回収、蘇生など墓地を操る戦術は一通り揃っているな。長期戦向けなデッキだ。
フィニッシャーは「屍界竜 ライオット」やアシストモンスターの「屍界のケルベロス」でゲームを決めにいく構成か。かなり完成度が高いが……。
「とりあえず俺から気になるカードをいくつか選ばせてもらうZE」
俺は並べたカードから1種選んだ。どうやらこれが3枚も入っているらしい。
「『屍界の毒』ですか?」
自分の場にある屍界モンスター1体につき相手に300ダメージを与えるカードだ。
「ダメージを与えるカードは経験上、あまり役立った記憶がない」
「どうして?」
「例えば手札が0かつ、場に屍界モンスター1体がいる状態で引いたカードが『屍界の災い』か毒だったら、どっちが強そうだ?」
ユーゴはハッとした。
「……そうですね。災いならカードを2枚まで破壊出来るのでどんな時でも強いです。逆に毒は有効打になり得る状況がピンポイントです」
「そうだ。引導火力には出来るけどそこまで相手を追い詰めていられる保証はないし、大量のダメージを狙うにしてもこちらの盤面に依存する」
「墓地に干渉するカードでもないですしね。わかりました」
ユーゴはそう言って、屍界の毒を広げたデッキのリストから外に置いた。
「割とさっぱりいくんだな」
「まあ、ね。心残りがないと言えば嘘にはなりますが、強くなることはきっと僕の家族が望んでたことだから」
そうか。抜く決意を決めたらしいな。
「うまく言語化出来ました。ありがとうございます」
「いいさ」
さて、これで37枚。
「カルトのほうから指摘するカードは?」
「そうね。レムちゃんは『これは1枚で良いんじゃない?』ですって」
ふむ「屍界の妖精」か。墓地から自身を取り除き、このターンのバトルを終えるカードか。これも3枚投入。
「理由を聞いても?」
「1枚で大きな仕事するからね。必要ならピンポイントで落とせばいいし、このデッキはカードをたくさん落とすからそれで1枚落ちる可能性も高いでしょ?」
「確かに……。墓地で持て余してたデュエルはたまにありました」
これで36枚。早速だがいいカードをやろう。
「ユーゴ。これを入れてみな」
俺はあるカードを渡した。これは俺が昨日と今日のパック開封スキルで引き当てたつよつよカード!
ユーゴは目を丸くしている。
「『
炎の国、種族リビングデッドのカード。可愛らしい幼女のイラストだ。1枚のシングル価格やばそう。
「つんよ……。いいんですか?」
「もちろん。混沌のデュエリスト相手にこちらが強くなるに越したことはないZE」
さてこれで残り3枚。続いてカード生成所に向かおう。
俺たちは外に出て、先ほど寄ったカード生成所に着いた。
フィアナを仲間に引き入れた時、ユーゴがたくさんカードを拾ってきてくれていたのが助かった。俺たちのカードもそれらを素材に作られたものだ。
「おー着いた。よく覚えてるもんだZE俺」
俺たちは事務員にカード3枚の生成を伝える。
「かしこまりました。ではこちらへ……」
事務員は深めに帽子を被った男だった。怪しみつつも彼の後を行く。
「生成はこちらで行います」
天秤の下には小さな引き出しがあり、ここからカードが生成される。
俺たちはユーゴのデッキが現在37枚であること告げると、事務員は言う。
「左の皿にデッキと、右の皿に3枚のカードを置いてください」
ユーゴはデッキを取り出し、俺は3枚の合成用のカードを置く。事務員は「では」とボタンを押す。
「これで少しするとカードが生成されます。生成されるカードはデッキ全体の完成度から計算された相性のいいものとなります」
俺は2度目だが、相変わらず原理はよくわかっていない。とはいえようやく異世界らしい技術が見られて少しわくわくする自分がいた。
少しすると、天秤の台座の引き出しから煙が立つ。
「完成です。お取りください」
ユーゴはその3枚を取り、目を丸くしていた。
おおこれは強い。俺は聞く。
「入れてみるか?」
「……はい。僕のデッキの弱点を補ってくれます」
ユーゴはそれをデッキに収める。
俺は相変わらず事務員を怪しみつつも、ささっと会計を済ませた。
(今日だけで結構金使ったなあ……)
と言っても今は金を気にしてる場合ではない。
それよりも最後の仕上げだ。俺たちはギルドに向かった。何か新しい情報は来ているだろうか。
俺たちはこの前のクエストの斡旋から報酬まで、色々と世話になっているあの受付さんに顔を見せた。しかし。
「ふう……」
浮かない顔だ。あの豪胆さが薄い。様子を聞いてみるか。
「あの、どうかしたんですか」
「あんたらか。いや、町長からの手紙がパッタリと消えてな。ここ数ヶ月は音沙汰なしよ。出稼ぎの奴に念入りに手紙送ってくれるお方だったんだがな」
俺は受付さんをまじまじと見ながら言う。
「失礼ながら受付さん。あなたの種族は?」
「うん? ドワーフだが」
なるほど。それでがっしりしつつも小柄なのか。
「重ね重ねですが、お名前は……」
「バルムンク・ゴームだ」
それを聞き、カルトが反応する。
「ゴーム家……。確か豪商だったはずよ」
「その通りだ。よく知ってるな。今はカード生成技術の売り込みで出稼ぎ中。受付はバイトだ」
豪商の一家ですら街がアンセルに乗っ取られていることを知らないとは。相当に情報管理が徹底しているらしい。
「バルムンクさん。俺たちこれからドワーフの街に行きます」
「えっ? どうしてまた」
どこまで話すべきか。言葉を慎重に選ばねば。
「この前、俺の決闘魔法の記録をご覧になられたとは思いますが、混沌のデュエルに関する情報がそこにあるようです」
「何。俺たちの街にか?」
「はい」
「わかった。なら神都の調査隊に声をかけよう。昨日俺も事態を上に伝えたんで今は政府は情報集めの最中だが、これで足並みも――」
俺はバルムンクさんを「いえ」と遮った。
「うん?」
「お気持ちありがたいですが、出来れば俺たちで行きたい。送られた彼らが寝返るかもしれない」
「おいおい。奴らは国への忠誠心があるんだぜ」
その時、カルトが口を挟む。
「その一団は人を混沌のデュエリストに出来る力を持ってるわ。送られた兵士がそのまま混沌のデュエリストにされたら目も当てられない」
フィアナも言う。
「神都が混沌のデュエル復活に手を貸すかもしれないよ」
「そりゃあそうだが……」
「俺たちは金目で動いてるわけじゃない。混沌のデュエルを止めたいと思ってる奴らなんです。その信念があればきっと」
最後にユーゴも言う。
「僕は彼らに家族を殺された。乗り込まないで国が彼らを滅ぼしましたなんて、そんなの納得出来ないんです」
バルムンクさんは腕を組んで「うーむ」と唸った。
だが、少ししてため息をついた。
「馬車で送ってやるよ」
「え?」
「あんたらに押されたよ。その代わり駄賃を弾みな!」
【作者より】
ここまで読んでくださりありがとうございます!
若干長めになってしまい申し訳ありません……! いよいよ折り返しの章です!
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次回は今日17:00〜20:00頃に投稿予定です。よろしくお願いします!
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