第37話「悪魔の契約」(デュエルパート2)

【フィアナ、ターンの続き】


「手札から単発魔法『第二の矢 アクアショット』を発動。緑の回廊をデッキに戻す」


 その発動で貴重なリソース源が奪われた。


「くっ! なら墓地の『グリーン・コリドー 突撃のファルコン』の効果発動! 墓地に送られた次の自分のターン中、自身をデッキに戻すことで、デッキから緑の回廊を発動する!」


「単発魔法『第四の矢 ダーク・ショット』発動。墓地の発動と適用を打ち消し、同名カードの使用を禁じる」


「あ……」


「さらに追い討ちだ。永続魔法『悪魔の契約』を発動。カスパールが場にいれば、詠唱権を無視して『矢』を発動出来る」


 緑の一面が闇に覆われる。

 今ので魔法の詠唱権はなくなったが、これで矢の回数制限は消えた。

 次々対応される。これがエルフ族の英雄の力……。


 だが、あたしは笑った。


「ふふ。発動をすれば対応する。それがコントロールデッキの戦略よね?」


「それがどうした」


「押さえていたのよ! 発動、緑の回廊!」


 あたしはフィールドを再び緑に染める。


「チッ。お前もこちらのリソース源を枯らすプレイングをしていたか」


「当然! 予想出来る動きは常に頭に入れ、最善手を尽くす! これがあたしのデュエルよ!」


「……少しは成長したか」


「さあ行くわよ! あたしは『グリーン・コリドー 親愛のカカポ』を召喚! 緑の回廊の効果で『グリーン・コリドー 神緑のガルーダ』を手札に!」


 発動制限が消えたとはいえ、今のお兄様の手札は1枚。


「これで決める! 場のストリクスとカカポを墓地に送り、神緑のガルーダを召喚!」


 フクロウと大きなオウムが光となって混ざり合い、巨大な猛禽として姿を現した。

 緑がざわめき、雄大さを物語る。


「この時、ガルーダの効果発動! 相手のカード2枚を破壊する! 破壊するのはもちろん、悪魔の契約とカスパール!」


 ガルーダの羽ばたきが緑を巻き上げ、お兄様を襲う。


「お兄様に闇のカードは似合わない!」


 だが、お兄様は不気味に笑った。

 うつむき、手札に持っていた最後の1枚をゆらりとかざす。


「こちらのリソースを枯らし、手数を最小にさせるプレイング、見事だった。ご覧の通り私の手札も残り1枚――」


「……?」


「だが、もしそのカードがだったら?」


 リソースを回復……。今その発言ということは。


「まさか!」


「そのまさかだ! 手札から単発魔法『第六の矢 ストーム・ショット』を発動! 墓地に存在する矢の数だけカードをドローする!」


 お兄様の墓地カードが明かされる。

 内訳はデザート1、ネイチャー1、フレイム1、アクア2、ダーク1。

 合計6枚のドロー! お兄様のデッキが巻き上がるかのごとく、6枚めくれて手札に加わる。


「で、でもガルーダの効果は――」


「6枚ドローしておいて、私が対応カードを引いていないとでも思ったのか?」


「うっ」


「単発魔法『第五の矢 デザート・ショット』を発動! ライフを1000払うことで相手のカードを1枚手札に戻し、その後相手の手札を見て1枚捨てる! 戻すのは当然ガルーダ!」


 あれは前のターンに『漂白』で無効にしたカード。カスパールがいた場合はそんな効果があったのか。

 手札にガルーダが……! しかもこの後にハンデスまで。


「さあハンデスだ。フィニッシャーを潰させてもらう」


「うう……」


 処理によりガルーダが捨てられた。

 ガルーダ本体も姿も砂嵐に巻き込まれ、放っていた暴風もかき消える。


(召喚権は使い切り、詠唱権は残り2回……)


 場には緑の回廊がある。

 ただ、いけないわけではない。お兄様のあの豊富な手数を越えるという危険は伴うが。


「2枚伏せ、ターンエンド!」


「私はこのターン矢を4枚使った。カスパールの効果により4ドローだ」






【ダヴィンチのターン】


「私のターン、ドロー」


 引いた。手札はもはや数える気にもならない。圧倒的な手数だ。しかも悪魔の契約の効果で矢に発動制限がない。


(あの手札全部が矢と思うべきね……)


「行くぞフィアナ。これでゲームを終わらせる。私は手札を全てのカードとカスパールを墓地に送ることでこれを発動、単発魔法『第七の矢 デビルズ・アドベント』!」


「デメリットカード!」


「この魔法はデッキから『ザミエル』を呼び出す。 契りの下、混沌吹き荒ぶ世界に蘇れ!『ザミエル』!」


 放たれた弾丸がカスパールの心臓を貫き、滴る血が悍ましい怪物を形取る。


「何、こいつ……」


 4000/2000。

 悍ましくも、しかしどこか高貴さをまとう姿は正しく悪魔の雰囲気を感じさせる。


「ザミエル。お前は初めてその名を聞くだろう。それも当然。これは執権を持つ王族のみにしか知らされていない、エルフ族の歴史の闇、真の歴史そのものなのだから――」


「真の歴史……?」


 ザミエルが緑を踏み荒らして降り立った時、お兄様は語り始める。











 エルフがあらゆる種族の中で絶大な生命力と魔力を誇っていた理由。それはこのザミエルなる悪魔にある。

 ザミエルはこの世界を自分のものにしたかった。だがそれには膨大な魔力を持つ個体を食らう必要があった。

 そこでザミエルはあるエルフの男を選んだ。

 ザミエルは彼にこう言った。


「お前たちに絶大な生命力と魔力をくれてやる。さすればエルフ族にも繁栄がもたらされよう」


 当時のエルフは弱かった。それこそ今と同じくらいにな。


「だがこれは契約だ。お前たちの魔力が満ちた時、最も魔力の濃い個体の魂を食らい、自らのものとする。その代わりエルフ族には手を出さんと約束しよう」


 生贄として手をあげたのはカスパールだった。

 ガレア家開祖かつ弓の名手であるカスパール。彼は何よりも民の命を重んじる男だった。


「今や滅びつつあるエルフ族に繁栄がもたらされるならば、悪魔ザミエルよ。私はその契約を受け入れよう。私は魔力を発展させ、お前の望み通りの個体となってやる」


 こうしてエルフは他を圧倒する生命力と魔力を手に入れた。

 溢れんばかりの魔力はカスパールの手によって記録媒体に記せるほどになり、それがのちのデュエルの原型となった。

 そうして長い年月が経った。カスパールは契約の時を迎え、ザミエルは世界を治める。


 はずだった。


 ザミエルの野望に目をつけた5体の「起源神」が彼を滅ぼしたのだ。世界の平和を乱す者は許さぬ、とな。

 こうして魔力を「デュエル」として代替する時代がやってきた。だがエルフ族には「約束」が授けられた。


「悪魔と契約した悪しき種族だが、我らは慈悲深い。悔いの機会を与えよう。お前たちには平和に生きる感性を与え、命を奪うことの重みを知るがよい――」


 神の教えと言えば聞こえはいいが、要は体のいい呪いだ。

 既にザミエルによって魔力を争いに使うことに慣れてしまった体は平和に生きる感性とは相反する。

 次第にエルフは衰え、誇りある種族としての面影は今や――。











【ダヴィンチのターン】


「だが、混沌の力を手にした私の体は、衰えた肉体を元通りにした。ザミエルの姿を模した紛い物もこの世に顕現出来るほどにな。この力があればエルフ族を再興出来る」


 初めて知った話だった。古のエルフ族の凶暴性は悪魔によってもたらされたものだったのか……。でも。


「……わかんない」


「何?」


「わかんないよお兄様! お兄様はどうしてそこまでエルフ族の繁栄に拘るの? それは人を傷付ける力を得てまで欲しいものなの?」


「……当然だ。それにこれは父上の悩みを解決する意味もある」


「お父様は混沌のデュエルに満ちた世界なんて望んでないよ!」


「フィアナ……」


「エルフが弱くなったのは契約前に戻るだけ。それで十分じゃない! 争えば憎しみを生んで、憎しみはまた新しい憎しみを生む! お兄様はそんな連鎖に手をかけようとしてるのよ!」


 その時、お兄様は退いた。説得出来ているだろうか。追い討ちをかける。


「あたしは元の優しいお兄様に――」


「貴様に!」


「!」


「望んだわけでもないのに幸運だった貴様に何がわかる!」


「なっ……」


「なぜ」


 お兄様は勢いよく指を動かして、ザミエルに命じた。


「ザミエル! 我が憎き妹の息の根を止めろ!」






【今日の最強カード】


ザミエル


生息地:闇の国

種族:アーク・デーモン


攻撃力:4000

守備力:2000


①このモンスターが攻撃する時に発動してもよい。墓地に存在する「矢」と名のつく魔法1枚につき攻撃力を1000ポイントアップさせる。


②このモンスターは相手のカードの効果を受けない。


③このモンスターがフィールドに存在する限り、自分は「矢」と名のつく魔法を発動出来ない。






【作者より】

 ここまで読んでくださりありがとうございます!

 お兄様戦、いよいよラストです!


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 次回は明日12:00〜13:00頃に投稿予定です。よろしくお願いします!

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