第43話「巨悪目前」
【バルムンク視点】
炎がデュランダルを包む。
「デュランダル!」
俺は奴に抱え、その炎からなんとか助け出す。
「怪我はねえか」
「なぜ怨敵の心配をする……。私はお前の娘を葬ったのだぞ」
「うるせえ。弟子は弟子だろうが!」
「何」
「だいたいその硬い口調、慣れてねえんだよ。一人称もえらっそうに『私』なんて畏まりやがって。わざと敵になろうとしてんだろ?」
「バカが……。私はお前の娘が
「ならお前、なんで電気のデッキ持ってんだよ。あの時エレナ抱えて泣いてたんだよ」
「それは」
「話せ。つか話してくんねえと納得いかねえことばっかだ」
「…………」
デュランダルは覆面を外した。
顔の右半分は火傷にただれていた。
「……相当にどん詰まった過去、って感じだな」
俺はデュランダルから全てを聞いた。
あれやこれがあって、結局はアンセル一派に加担するようになったとか。
どうしてお前はそこまで狂ったのか。色々聞きただしたかったが、俺の言いたいことは1つだけ。
「大バカ野郎だぜ、お前もエレナも。発明なんざ許すに決まってんだろうがよ。なんで話さねえんだか……」
それを聞いてデュランダルは元の弟子らしい顔に戻った。硬い表情も消え――。
「すみません、親父さん……。これは俺は人を信じられない性を背負ったゆえの末路です……」
口調も態度も元通りになっていた。
「もう言うな。それより過ちなら償える。綺麗になって、また俺のところを顔を見せに来いや……」
「親父さん」
「電気、か。面白そうじゃねえか」
デュランダルはしばらく黙っていた。
しかしすぐに「親父さん」と叫び、恐らく幾年と堪えていた涙を流した。
その時、地響きが鳴り始める。俺たちは立ち上がり、壁に手をつく。
「なんだあ?」
「しまった……。デュエルの衝撃で施設が崩れ始めている!」
「なんだと! 中にいる奴らはどうなる!」
「早く逃げないと手遅れになる……!」
「くそ!」
悪態はついたが、この施設の脆さに対してではない。どちらかと言うと、俺はここに都を構えていた古代のドワーフに対して若干の忌々しさを抱えていた。
古代、戦争があちこちで吹き荒れていた時代。ドワーフはオークからの侵攻を受けていた。
ゆえにドワーフは地上を追われ、地下に都を構えることになる。
オークはここを攻め込めれなかった。自身の体重ゆえ、軍単位で攻めれば必ず崩れ去ると知っていたからだ。
一方ドワーフは体が小さかったため体重もさほどなく、十分に暮らしていけた。
その後、地上は戦争によって奪還。都もそこに遷し、ここは遺跡となった。
「今から声かけで全員地上に移せるはずもねえ……」
愚痴じみた言葉に、答える者がいた。
「ならその役目、私たちが負うとしよう」
バッ、と俺たちは振り向く。
「あんた……」
細い体。尖った耳。エルフだ。初老のエルフがそれらを率いている。
「ガレア家当主、パンゲアだ。事態を聞きつけてやってきた」
「な……。エルフ? た、頼っていいのかよ?」
「元来エルフは戦を主とする種族。裏口から入るのは容易かったわ」
裏口? まさか。
「おいおい、あの道を通ったってのか?」
「ふっ。坑道にあちこち連なる崖を飛び越えるなど造作もない。これで信じてもらえたかな」
「う……」
俺たちは結局、兵士たちに運ばれる形になる。
「ま、待ってくれ! 奥にはまだ仲間がいる!」
「ジョーブくんの仲間たちだろう? メンバーはショーブくんにフィアナ。ユーゴくんにカルトくんだったか」
「カルト? その少女までどうして」
「神都に少しばからの恩を着せた。ショーブくん一行を介して稀少な宝石などを譲り、彼らについて情報をもらったのだよ」
「うう……!」
抜け目ない男。さすがだ。
「信じていいんだな!」
「無論だ。そして無論、彼らは我らが助け出す」
その時、デュランダルが苦しそうに言う。
「アンセル様は……? 他の混沌のデュエリストたちは?」
「心配するな。全員は助け出すさ。だから息子含め、一派には死んでもらうわけにはいかん。罪を償う機会は誰にだってある。が、アンセルにはこのまま死んでもらう」
俺は背筋が立つ。戦闘部族らしき冷たさを一瞬覚えた。
「おっと呑気にしている場合ではない! 任務開始だ!」
その時、隣によく見知った人物たちがいた。
「お前たちは私たちが受け持とう」
その人物が俺たちを担ぎ、走り出す。
「あんたら……」
町長のノートゥングとその娘さんだ。
「久しいなバルムンク。そしてその弟子分。よく監禁してくれた。……が、その恨みの今はあとだ」
「助け出してくれたパンゲア王ひいてはエルフ族の頼みで、あなたたちを外に運びます!」
「そういうわけだ。とりあえずここは安心せよ」
「す、すまねえ……!」
娘さんも元気ハツラツだ。どたどたと抱えられて忙しい中、それが気になる
「あんたらドワーフの力量超えてないか!? そんなに早く走れたかよ!?」
「当然だろう。エルフの薬を飲んだのだが! 全くパンゲア王も太っ腹だ」
……はは。そういうことですかい。
「あとで恩返しせねばな。頼むぞ名主たちよ。特に弟子分。彼らに機械の素晴らしさを伝えてやれ」
その時、俯いてばかりいたデュランダルが声を上げる。
「名主たち……? 機械?」
「ああ。後で調べたぞ。電気か。素晴らしいエネルギーではないか。バルムンクと共に工場でも開くといい」
「……信じて、いいんですか?」
「無論」
聞いて、デュランダルは嗚咽と共に運ばれた。
「工場か。お上の命令なら仕方ねえ。老体に鞭打つか! 罪償ってからしっかり来いよ」
デュランダルは何度も、何度も頷いた。
(ショーブの旦那たち。生きて戻ってこいよ……!)
*
【夢藤勝武視点】
バルムンクさんと別れて数分。俺たちは最奥に向かっていた。
ちなみに体調についてはもうほとんど大丈夫だ。さすがエルフの薬だZE。
その時。
「おっ。なんかそれっぽいところが見えてきたZE」
「大きな扉ですね」
その通りだった。まさに王の間と言うべきか。侵入者に優しいな。
その時、空間全体に声が響いた。
――緊張しなくてもいいですよ。ショーブくんにユーゴくん。
「「!」」
――素晴らしいですね。監視カメラ、ですか。デュランダルくんの働きは全くありがたい限りです。
監視カメラ……。あの覆面こんなものまで。
「この声、アンセルだな?」
ユーゴが聞く。そうか、この声の主が……!
――ええ。確かめたいならどうぞお入りください。空いていますよ。
俺たちは見合わせる。罠ではなさそうだな。
その時。
「あっ。いた! ショーブくん、ユーゴくーん!」
フィアナとカルトが到着する。
「無事だったか! カルトもよく頑張ったな!」
「ちょっとデュエルしてきたけどね……!」
フィアナはそう言いながらカルトを降ろす。
「心配ありがとうねショーブ」
へへ。なんだかもうすっかり仲間の勢いだ。
「それからフィアナさんも運んでくれてありがとう。もうアンセル様の部屋だから十分よ」
カルトが言った。全員の視線が集まる。
「そう。ここがアンセル様の部屋よ。混沌のデュエリストの気配でわかるわ。ここにいるってね」
カルトは「ようやく役に立てた……!」と小声で小さく喜んだ。
ああ、悪いなあ。
「本人、もう名乗ってたZE」
「……マジ?」
「「マジ」」
俺とユーゴが重なるが。
「すっごーい! わかるんだね!」
フィアナはカルトを抱きしめた。
「緊張感! 親玉の前なんですよ!」
ユーゴありがとう! そうだよな。なんか緩い雰囲気だったZE。
その時、空気を正すかのようにアンセルの声が響く。
――久しぶりですねカルトくん。どうですか、お仲間といる気分は。
扉越しに声が聞こえる。
「そんなことより聞きたいことがあるわ」
――なんでしょう?
「レムちゃん、生き返らせてくれる?」
アンセルは黙るが、すぐに話す。
――それについてなら、生き残れたらお話しますよ。
「生き残れたら?」
その時、ガクンと地面が揺れ始めた。ユーゴは真っ先に倒れる。
「じ、地震ですか!?」
「落ち着けユーゴ! くそ、アンセル! お前何かやったか!?」
――さあ? 私は何も。この辺りの地盤は緩いので限界なのでは?
「すっとぼけやがって……!」
――邪魔者もこれで消えます。
「てめえ……! だがお前も沈むぞ!」
――残念ながら混沌のデュエリストはデュエル以外では死なないのですよ。死ぬのはあなたたちだけです。ああ、カルトくんは生き埋めになってしまいますが。
そうだ。確かカルトも折れた首を再生させていた。
「くそ、お前! ただで済むと思うな!」
ユーゴがふらつきながらも叫ぶ。
その通りだ。こんな。こんな終わりがあってたまるか。
巨悪を目の前にして!
「くっそおおおおお……!!!」
俺たちの声も虚しく、瓦礫が俺たちの視界を覆い尽くす。
その時、無数の人影が――。
【作者より】
読んでくださりありがとうございます!
助けてパンゲアマーン!
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次回は今日17:00〜20:00頃に投稿予定です。よろしくお願いします!
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