第44話「今明かされる衝撃の真実」

 意識が戻り始めてきた。どこだここは。

 世界が白い。病院か? いや、そんなはずはない。

 そうだ。目を開けなければ。俺たちはアンセルの目の前にして……。


「アンセル!」


 俺が叫ぶと、緩んでいた体に力が入り始める。いける。動け。

 動け!






第44話

「今明かされる衝撃の真実」






【復ッ活ッ!】


 俺はバッ、と目を覚ました。


「あっ……?」


 どこだここは。目覚めるなら俺は今、瓦礫の中のはず。


「ショーブ!」


 カルトに声をかけられる。


「カルト大丈夫だったか! 俺たちはどうしたんだ?」


「エルフさんたちがギリギリで助けてくれたのよ」


「え!」


 辺りを見回す。そこには仲間たちがしっかり揃っていた。他にも見たことのない人たちがちらほら。遺跡の中にいた人たちだろうか。ハガーもいる辺り、混沌のデュエリストも救助されているらしい。

 が、すぐに違和感を覚える。


「フィアナは……?」


 すると、その奥からボロボロの男が現れる。


「フィアナは気を失っている」


 男は俺の見知った顔だった。


「パンゲア王!」


「ドラゴン退治にデュエルと、かなり力を使ってしまったらしい。持ってきた薬も試したが起きない」


 パンゲア王はフィアナを抱えている。


「アンセルの手に落ちた私の息子とデュエルをしたそうだ。だな、ダヴィンチ」


「はい……」


 パンゲア王の奥からエルフの青年が現れ、俺の前で膝をつく。


「君がフィアナたちのリーダーと聞いた。このようなことにさせてすまない……」


「あなたは」


「ガレア家長男、ダヴィンチ・ガレアだ。心弱くも混沌の手に落ちてしまった男だ」


「…………」


「思い返せばアンセルに唆されていただけだった。なんてことをしてしまったのか、と後悔するばかりだ」


 だが、その肩に手が置かれる。


「どうかダヴィンチを許してやって欲しい。元はと言えば私がこの子の心の闇に気付けなかったのが原因だ」


 ダヴィンチは動かない。


「この子は昔から病気がちでな。だから色々な国と交易を図り、この子の体質に効く薬を作ろうとしていたが見つからず。焦るあまり子供たちに疎かにであった……。それがこのような事態になり、フィアナまで巻き込む自体に――」


「お、俺に謝っても仕方ないですよ! それよりもアンセルについて聞きたいです」


「アンセルは出てきていない。が、カルトくんによれば混沌のデュエリストはデュエル以外では死なない、とのことだった。奴だけは瓦礫に埋もれさせるはずだったが」


「やがて出てくる、ですが……」


 ダヴィンチが顔を上げて言う。


「ああ。だから奴との決着はデュエルで決めなければならない。ただ私も歳でな。救助に力を使ってしまっしまった。混沌のデュエルも体力を使うため、参加は出来ないだろう……」


 俺は起き上がり、デッキを握り締める。

 体力はある。寝ている間に怪我なんかも治ったのかな。さすがエルフの薬だ。


「なら俺がやります。ここまで来たんだから。倒さなきゃ嘘だ」


 パンゲア王は頭を下げて「すまない」と漏らす。

 その時、遠くから爆発音が響く。土煙が舞った。


「……なんだあの光は」


 瓦礫を飛ばした場所が5色に輝く。その真ん中には人影が浮いていた。

 ユーゴが歯軋りをする。


「アンセルだ……! やっぱり生きていたか!」


 ユーゴがデッキを構える。俺も咄嗟に構える。

 人影は少しずつこちらに近づき、言う。


「これはユーゴくん。久しぶりですね」


「御託はいい! 僕とデュエルしろ!」


「血気盛んでいいことですね」


 アンセルはそう言いながら、右目のまつ毛をいじる。


(なんだあの右目……。黒目が妙に輝いている。見間違いか?)


 服装は宗教的な装いにたくさんの装飾があしらわれている。一見すると人畜無害かつ人徳のありそうな男だ。


「また会いましたね。ショーブ・ムトーくん」


 俺は固まる。


「何? また会った、だと」


「ええ、確かにお会いしました。私はよく覚えていますよ。君が決闘魔法を覚えた時のことを」


 俺は全身に痺れた。まさかこいつ。

 いや、思い出したぞ。こいつ、そうだ。あの時。


 ――さらにデュエルを楽しみ相手をリスペクトする心。強く良識のあるデュエリストには欠かせない要素です。


 ――くれぐれもその力決闘魔法を悪用せぬよう。神は常にあなたを見ているのですから。


「ギルドで俺に決闘魔法を授けた祭司か……!」


「思い出してくださりありがたい限り。あの時は実体化したカードで顔、匂い、姿、年齢、名前まで全て偽っていましたからね。思い出すのに苦労しても仕方ないというもの」


「どうしてギルドにいた」


「ギルドにはたくさんの情報が集まりますからね。祭祀を偽って決闘魔法を授ける立場にあれば、たくさんのデュエリストの動きを把握出来ます。無論そのようなことが出来るのは魔力の豊富な私くらいのものですが」


「くっ……」


「ともあれ、これでなぜ君たちの元にカルトくんやマクシムくんが都合良く現れたか、ご納得いただけたはずです」


 こいつ……。

 確かに疑問に思わないわけじゃなかった。なぜ刺客が図ったかのように現れたことに。

 ならそれはそれで。


「……なぜ俺を選んだ。刺客を送った。他の誰でも良かったはずだ」


「愚問。あなたは他とは違います。最高の素材だった」


「違う? 最高の素材だと?」


「あなた、転生していますよね?」


 ……!

 冷や汗が一気に垂れる。


「この世界に時折現れる『スキル』なる異能を持つ人間。私はそれを転生者と呼んでいます」


 俺は咄嗟にハガーのほうを見る。ハガーは俺から目を逸らす。


「ああ、彼からはこちら『能力吸収』のカードでスキルを奪っていますよ。ええと確か『先攻ドロー』ですね。全く卑怯極まりないです」


「なぜ俺からは奪わなかった?」


「スキルを奪われると転生者は大きく魔力失い、3日ほど眠ってしまいますからね。そんな異変が私の足跡を掴まないという保証はない。ですので君はそのままにしておきました。が、代わりに――」


「他に何かあるのか?」


「君の脳を少しいじらせていただきました」


「なんだと?」


「君がこの世に生を受ける時、恐らく君をこの世界に召喚した者からある施しを受けたはずです。読み書き、意思疎通が出来るといった形の、ね――」


 俺の体に電撃が走る。


「君の頭に触れ、私はそれが脳に起因することに気付きました。時が来たと思った私はカードを使い、君の脳にある処理を行えるようにしました」


 俺は自分の体が震えていることに気付く。


「それは、デュエルの勝敗に関係なくを魔力を生み出し、それを私に送る――というものです」


「なっ……!?」


「混乱しているようですのでまとめましょうか」











 まず私は混沌のデュエル復活の時を見計らい、祭司として動いていました。

 ですがさすがに念入りすぎたためか、あまり大規模な行動には移せなかった。


 そんな時に君が現れました。君は素晴らしい魔力量とスキル、そしてデュエルを愛する心を持っていた。

 私はこれを利用することを思いつきました。君の脳にデュエルの勝敗に関係なく魔力を生み出し、かつそれを私に送り込む、という形でね。


 それがこちら「魔力生成」と「魔力転送」というカード。

 こちら2枚のカード、対象の魔力量が優れているほどに効果的です。これを袖の内に隠し、決闘魔法を授けている間にこっそりと君に発動させていただきました。

 試験官とのデュエルが終わった後、疲れが消えたのもこのタイミングです。


 その後は予定通りあなたに決闘魔法を授けました。無論これで君の行動を把握していました。

 そして君は私の計画を止めると張り切っていましたね? だからこそ私は君に配下を送り、デュエルをさせました。


 本拠地に侵入を許した理由もお分かりのはず。君にデュエルをしてもらうためです。

 ああ、仲間をそこで暗殺しなかったのも君に絶望してもらわないため。足を止めて欲しくなかったのでね。


 君はそれこそ「手数の多さに加え、さらにデュエルを楽しみ相手をリスペクトする心」で以ってデュエルをしてきた。

 ですがハガーくんとのデュエルが終わった時点で君が送ってくれた魔力は十分でした。

 私の部屋の前に来た段階ではもう用済みでしたので、基地をスイッチで破壊しました。

 ……まさかエルフ族の娘が与してさらにその一族が基地に侵入し、しかも救援を成功させるとは思いもしませんでしたがね。

 対応しようにも基地の細やかな操作はデュランダルくんのほうが明るく、その彼もデュエル中でしたのでね。


 ですがこれで事態は収束します。どうあれ君がたくさんのデュエルをしてくれたのは事実なのですから……。

 その頑張りがこのカードを実体化させてくれました。


 ありがとうございます。

 











 アンセルは懐から何かを取り出す。カードだ。

 見たことのないカードだ。装飾の多い十字架がイラストに大きく描かれている。


「『死者蘇生』。君ほどのデュエリストの腕を借りなければこのカードの実体化は成し遂げられませんでした。改めて、君に心から感謝を――」


 出したカードにカルトは「あ!」と声を上げた。


「そうそうカルトくん。君にはこのカードのテキストを見せませんでしたね? このカードはですね、眠った起源神をこの世に呼び戻す、というものです」


 カルトは唖然とする。


「は……?」


「つまりですね、そのなんとかという子は蘇らないのですよ。ああ、なんて言いましたかね」


 カルトは石像のように動かない。


「レム……ちゃんが……?」


「そうそうレムちゃん。いいお友達だったのでしょう。でも大丈夫。レムちゃんは君の心の中で生き続けているではありませんか。そのぬいぐるみ、レムちゃんと呼んでいましたよね。なら平気ですよ」


 この鬼畜野郎が……!


「カルトくん。死者蘇生のテキストに『人を蘇らせる』なんて書いていないのですよ」






【作者より】

 読んでくださりありがとうございます!

 お菓子食って腹痛いわ〜。


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 次回は今日17:00〜20:00頃に投稿予定です。よろしくお願いします!

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