第45話「おい、異世界でもデュエルしろよ」

 アンセルはカルトの約束破った。


「アンセル!」


 カルトがアンセルに掴みかかったが、すぐにそれを払う。


「しつこいですよ。友達が死んだからなんだと言うのです。全ては過ぎたことと受け止め、しっかりと先を見据えた生活をしていればこんなことにもならなかったのです」


 こいつ、根っこの根っこまで腐ってやがる。


「このクソ野郎!」


 俺もアンセルに襲い掛かったがすぐに払われる。疲れもあるだろうが、それ抜きでもこの強さ。


「お怒りのところ申し訳ありませんが、早速発動しましょう」


 アンセルが「死者蘇生」を天に掲げる。まずい。来る!


「総員、構えよ!」


 パンゲア王が兵士たちに命じて矢を無数に飛ばす。しかひアンセルはすぐに再生し、びくともしない。


「無駄ですよ。混沌のデュエリストはデュエルでしか死にません」


 その瞬間、アンセルの右目が輝く。


(なんだ? 奴の目、さっきから何かある……)


 もしかしたらあれは義眼なんじゃないのか?

 わけありで隻眼なのか? いや――。


「時の扉を突き破り、今こそ蘇れ! 起源――」


 迷っている暇はなかった。俺は一気に駆け出した。

 隙のない奴だが、今はカードの発動に専念している。この時だけは!


(食らえ!)


 アンセルの下に走り込み、爪で「それ」を攻撃した。


「不躾な……!」


 俺はアンセルに殴られて飛ばされるが、笑っていた。


「ぐっ……。ふふ、一石は投じさせてもらったZE、アンセル」


「無駄なあがきを。死者蘇生は既に発動した。止める術はない!」


 言葉通り、地響きと共に5体の神が現れる。

 それぞれ竜の形をしつつ、凄まじい威圧感だ。

 その額にはそれぞれのカードが。


「ふふ、ははは! 素晴らしい力です! これで我が悲願が満たされる!」


 地響きが俺たちの足元を揺らす。


「さあ起源神よ! 共にこの世界に平和をもたらしましょう!」


 ユーゴが寄り、俺に叫ぶ。


「ショ、ショーブ!」


「落ち着け! 考えがある!」


「考え?」


「もし俺の考えが正しければ、あのモンスターたちは何もしてこない」


「えっ……!?」


 地響きが収まったかのようにも思える集中。


「アンセル。そいつらで俺らを攻撃してみろ」


「ショーブ何を!」


「大丈夫さ。だが動き出したらすぐに逃げろ。あのモンスターたちから目を離すなよ!」


「は、はい……」


 アンセルは一瞬固まったが、すぐにほくそ笑む。


「ふ……。そう、お諦めになるのですね? でしたらお望み通り消えていただきましょうか。やりなさい、起源神たち!」


 しかし場はアンセルの声が遠く響くのみだった。


「起源神……?」


 そのモンスターたちは動かなかったのだ。


「どうしたのです! なぜ動かない!」


 勘は当たったな。


「どれだけ命じても無駄だZE。アンセル」


「どういうことです?」


「あんた、今までどうやってカードを実体化させてきた?」


「何を……。そのカードに必要な以上の魔力を注いだまで」


「だろうな」


 質問の意味に気付いたからか、アンセルは自らの右目を押さえる。


「傷が……! いや、欠けている?」


「削らせてもらったZEその義眼。さながら魔力貯蔵庫ってとこか!」


 俺は握りしめた銀色の欠片をパラパラと落とす。

 パンゲア王は感心したような顔で言う。


「なるほど魔力が足りていなかったのか。とすると今起源神は今……」


「その通り。木偶の坊です。魔力貯蔵庫たる義眼が傷付けられたら、魔力だって少しは漏れ出るもの」


 バルムンクさんは俺の後ろから現れて言う。


「そうか。カードは1度発動させると止められねえ。それがデュエルのルール……」


 アンセルはようやく苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた。

 俺はさらに追い立てる。


「カードの効果は通常、テキストの範囲でしか使えない。だからお前はカードに過剰な魔力を注ぎ、そのストッパーを取り外してきたんだろう。デュエル以外で、しかも実体を持たせるレベルまで」


 カルトはレムちゃんを片手に現れた。


「そういえば私が瓦礫の街を彷徨ってる時も、傷はライフ回復カードで治ったわ。でももしそれに魔力が過剰供給されてなかったら……。ということはショーブ」


「そう。死者蘇生は今、その魔力欠乏状態で発動された。結果として起源神は蘇ったが、完璧な調伏とはならなかった」


 置物のように動かない起源神たちを見て俺は言う。


「神も魔力ありきってことだZE」


 ――カルトくん。死者蘇生のテキストに『人を蘇らせる』なんて書いていないのですよ。


 アンセル。お前はカルトにそう言ったな。

 お返しだ。


「アンセル。『この世界に平和をもたらす』なんてテキスト、起源神にはなかったようだな。ルールとマナーを守って楽しくデュエルだZE」


 アンセルは俯くままだった。


「パンゲア王、頼みます!」


「わかった。全員、奴を捕えよ!」


 エルフたちがアンセルに襲いかかるが、その直前、アンセルは何かを呟く。


「この程度で諦めるとでも?」


 !?


「『火源神』の攻撃――」


 その瞬間、起源神の1体が口から炎を吐く。


「しまっ……。全員よけろ!」


 パンゲア王はエルフ含め全員かわした。

 その瞬間、その部分に凄まじい炎が吹き当たる。熱風で俺、ユーゴ、カルト、バルムンクさんは飛ばされた。


「バカな。起源神は動かねえはずじゃなかったのか!」


 アンセルは炎を払い、俺たちに迫る。狂気じみた笑顔で答える。


「かすかに調伏が出来ていたのですよ……! あの程度の欠けだったのが幸いした。どうやら『攻撃宣言』ならいくらでも可能なようです」


 嘘だろ。単調な攻撃とはいえあれを何度も食らうわけにはいかない。


(止める手立ては……あれしかない!)


「お前の義眼、まだ魔力は貯まるか?」


「無論」


「なら話は早い」


 俺はデッキを構える。


「デュエル、ですか。いいでしょう。起源神の力、お見せしましょう」


「ああ……。行くZEデュ――」


 その時、俺の肩に2つの手が置かれた。


「僕を忘れないでください。一緒に奴を倒す契約のはずです」


「私も一緒に戦う。デュエルしないと気が済まないわ。レムちゃんもきっとそう言ってる」


「お前ら……」


 俺の覚悟を待たずにアンセルは言う。


「構いません。どうせあなた1人には手に余る化け物どもです。私も起源神の力を存分に振いたい手前、1対多は好都合です」


 くそ……。

 本当にロクな運命を味わってない。

 生まれた時から貧乏で、何もしてないのに家族を殺され、地下に叩き込まれ。

 師匠が出来たと思ったらそれすら奪われ、デュエルが全ての世界に放り出される。

 その世界の人間は、俺が嫌になるくらいの――。

 ……デュエル脳だ。


「パンゲア王と皆さん。俺たち以外を安全な場所へ」


「むっ……。し、しかし」


「今奴に反抗する意志があって、かつまともにデュエル出来るのは俺らくらいだ。頼みます」


 パンゲア王はかすかに焼けた顔で頷く。


「無理はするなよ」


 パンゲア王はフィアナを抱えて、続けて兵士たちに命じて人員を移動させる。

 よし。続けて――。


「バルムンクさんとその隣の人。武器を頼みます。起源神の攻撃を迎撃できるような高性能なものを」


「そ、そりゃあ力にはなりてえが」


「ここまで来たらもう言葉じゃない。頼むよ、親父」


 バルムンクさんは勢いに押される。

 大きくため息をつくと額を掻いて笑う。


「ヘッ。わけえのはこれだから好かねえんだ。命を捨てるように扱いやがる。でもその燃える心が、いつだって時代を作るんだよな」


「バルムンクさん」


「初仕事だぜデュランダル! 蒸気と電気で神を怯ませてやろうぜ!」


「し、しかし私は奴に与した身――」


「うるせえ! そんなみみっちいこと気にする俺じゃねえ!」


「は、はい!」


 バルムンクさんは親指を俺に見せ、弟子らしき人はその後を追う。

 そして。


「ユーゴ。カルト。2人ともありがとう。お前たちの覚悟、受け取った。一緒に戦おう。これが最後のデュエルだ」


 ユーゴとカルトは静かに頷く。


「アンセル。俺たちの覚悟は決まった」


 俺はその言葉をアンセルにぶつける。


「おい――」






第45話

「異世界でもデュエルしろよ」






【作者より】

 読んでくださりありがとうございます!

 ついにタイトルコールですー!こういうのやりたかったZE!


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 最終章後半はもう少しお休みをいただきます……! 遅筆で申し訳ありません。

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