第42話「信じられるのは」(デュランダルの過去編)
【デュランダル視点】
「この効果は好きなタイミングで使える……。自身の素材を全て墓地に置くことで、1枚につき500のダメージを与える!」
「なん……だと!」
爆炎が私の周囲を覆い始める。
(終わりか……)
俺は
そうだエレナ。お前の未来を乗り越えてまで……。
第42話
「信じられるのは」
【デュランダル。ずっと昔】
何年前のことだろう。もう覚えてもいない。
俺はドワーフ族としては珍しく背が高く、細身だった。
その見た目のせいで周りからは何かと疎まれ、それは家族ですら例外ではない。
だから家を出た。あそこにいては俺の人生はうまくいかないと思ったから。
が、現実はそううまくいかない。成り上がる人生は夢物語の中にしかなかった。
人と繋がろうとしてもこの見た目が邪魔をする。繋がれてもどこかでいいように扱われる。
俺は人を信じられなくなった。そうして生きることもやけになった。
そんな生き様で街を彷徨っていた頃、俺はある人と出会う。
「ガキが何やら暴れてると聞いて来てみれば、もう5人も伸しちまって。すげえ奴だな」
その人はある工場の社長――バルムンクさんだった。
「俺んとこに来い。お前にみたいに飢えた奴が欲しくてな」
「あ? 説教かよ」
「デュランダル、だな。ムショで聞いたよ。お前みたいに血気盛んで若い奴がいると嬉しいんだが」
「うるせえ!」
「いい気迫だな。よし。ならまずは手合わせから!」
俺はなりふり構わず奴に飛びかかったが、すぐに殴りを入れられ、気絶した。
素の力が違った。バルムンクさんは鍛えていたのだ。
*
それから少し経ち、俺はその工場で働くことになる。
工場では何やら機械を作っているようだった。蒸気機関という、水蒸気による動作を土台にしたエネルギー機関の1つらしい。
蒸気機関で作り上げた機械は素晴らしい働きを見せた。掃除機なども出来上がる。汚かった街はどんどん綺麗になっていく。
俺はそこである女性に出会う。エレナだ。発明家の娘として、父のバルムンクのために一生懸命働く。
俺たちは共にいる時間が長かったおかげで、すくに思い合う仲になった。
そんなある日、俺はエレナからある提案を受ける。
「実はね。私、蒸気機関とは別のエネルギー機関を作ってるの」
「え?」
「雷あるでしょ。空から落ちてくるあの光。あれと同じエネルギーを動力に換える機関をね」
雷を? 全く突飛な考えだった。
「今この街の常識は蒸気機関だけど、出来ないことがたくさんあるわ。あなただから言えるの。一緒に来て!」
俺は深夜、エレナに連れられてその秘密基地に訪れる。それは地下にあった。
「凄い……」
そうとしか言えなかった。鉄が鉄とひしめき合う部屋だった。
「凄いな……。この、なんだ。からくりか? これも君が作ったのか?」
犬や猫を模ったからくり――彼女が言うにはロボットがそこではたくさんあった。どれも全自動で動いている。
「試作ばかりだけどね。でもエンルギー効率は蒸気機関よりもいいしクリーンよ」
「蒸気機関は嫌なのか?」
「嫌じゃないわ。でも父さんはそれに凝ってるでしょ? もし電気が国に認められたら父さんの努力は無駄になるわ」
「でも、娘さんが作った技術なら彼も認めてくれるんじゃないか? 一緒に協力してもらうって手はだめなのか?」
「お父さんは職人気質だし、認めさせるのは難しいわ。それに協力してくれたとしてもこれを1から学ぶのは難しいの。生半可に覚えればミスが続いて、人の命を奪っちゃう」
「はあ……」
「でもあなたは覚えがいいわ! ここに来て1週間くらいで蒸気機関の構造を学んで、1ヶ月自分で機械を作ったりした。あなたは天才よ。だからここを任せられる」
「任せる?」
「私、病気にかかってるの。誰にも言わなかったけど、ずっと筋肉が衰える病にかかってる」
「なっ……。なぜ医者に見せない!」
「そんなことしたらここがバレちゃう。病気も『電気がもたらしたもの』だーらなんてうわさされたらこの技術も闇に葬られるわ」
「そんな」
「だから約束して。これから1ヶ月、あなたに電気工学の全てを叩き込む。それを覚えたら、あなたは電気で私を殺して」
「はっ?」
「あなたに罪を着せたくはないわ。これは全て私の不出来が起こしたポカにしたいの」
「だ、だが」
「電気の危険性は痺れることだけで、扱いさえ気を付ければ問題ない。病気なんか運ばないって国に示しておきたいの。そうすればこれを扱う人も少しは出てくる。お願い、もう時間がないの!」
「…………」
それから少し問答はあったが、結局俺は受けることになった。
工場勤務が終わった後、俺たちはバルムンクさんに隠れて共に電気をいじり、学ぶ。
1ヶ月。それが動ける期間なのだとエレナは言う。
曰く「なんとなくわかる」らしいが日に日に衰えていく彼女の様子を見て、そのリミットが確かなもなであることを悟る。
焦りは俺の脳をより鋭く研ぎ澄ました。
1ヶ月後、ようやく俺は電気工学の全てを覚えた。
が、それはエレナの命が尽きる時だった。
約束があった。俺は彼女の最期を見ないこと。
現場に居合わせれば俺が危険に晒されるし、人殺しの罪も背負う。それがエレナは何よりも嫌だった。
だから俺は工場に戻り、宿舎のベッドで過ごすよう言われた。
ただ、その声を聞くことは許された。俺は2人で作った通信機でその最期を看取る。
『幸せだなあ。あなたの作った機械で死ねるなんて幸せ……』
何度やめようと言っても彼女は聞かなかったので俺から折れる形になった。
だが、訪れた最期に迷いがない、とは言えなかった。
「エレナ。どうしてこんなことを……」
『街は病気に苦しみ、生活は不便が幅を効かせる。蒸気機関で少しはマシになったけどもう頭打ち。何かないかと探してた時に『電気』の天啓が降りてきたの』
「電気……」
『取り組んだら素晴らしい技術だったわ。学ぶのも楽しかったし、新しい発見が毎日ある。これなら世界を平和に出来るって思った。私、根っこが学者さん気質だったのかも』
「でも君が死んだら意味がない。その平和な未来は見られないんだぞ」
『痺れる未来に立つのは私である必要はないわ。だって、私の思いはあなたに繋いだから』
エレナの息が浅くなる。「ごめん。もうそろそろね」と。
『最期の言葉って思いつかないね……。でも、やっぱりあれかな』
ありがとう、かな。
その時、俺がよく聞き慣れた電気が流れる音が、通信機越しに聞こえた。
「エレナ……。エレナ!」
深夜に何度もそう声をかけたが、それっきり通信機は途切れた。
「どうした!」
俺の声にバルムンクさんが駆け寄るが、俺はそれを押しのけて外に出た。
罪の意識しかなかった。
彼女を殺して、その遺産で世界を平和にする。
そんな未来なら俺はいらない。俺も死のうと思い、研究室に入った。
「エレナ」
俺は焼け焦げたエレナの遺体を抱きしめた。
「俺も一緒に行くから……」
研究所に辛うじて残っていたコンセントを頭に向ける。脳に直接叩き込めば死に至るからだ。
さあ、もう迷いはない。
その時だった。
「デュランダル!」
バルムンクさんが入ってきた。
手が滑り、コンセントは頭ではなく顔に叩き込まれた。
「ぐっ――!?」
頭はただれ、電気はショートし、研究所は炎に包まれる。
バルムンクさんは火傷を負いつつも俺を助けようとする。やめろ。助けてなんていらない。
(あんたは巻き込みたくない!)
俺は残された力を振り絞り、バルムンクさんにライオン型のロボットを叩きつけた。
「終わりだな……」
ここまでやった。現場は見られ、研究所は俺が作り上げたことにされる。悪しき計画に彼女を巻き込んだ悪人の烙印は逃れようがない。
全てを説明しようにも時間はない。
というより俺は人が根っこのところで信じられない。人は裏切るものだと小さい頃からよく学んだ。それはきっとバルムンクさんでさえ。
もう全てが終わる。俺にはエレナの遺志を継ぐ資格なんてない。
ごめんな。
それが最期の言葉になるはずだった。
俺は生きていた。神ご加護か知らないが生きていたのだ。
目を開けると、知らない天井だ。
「あなたの技術、素晴らしいものがありました」
そう声をかけられた。のちにアンセル様と呼ぶお方だ。
「電気。あなたの力をぜひ私に分けてくれませんか」
「なんであんたに」
「私はデュエルで世界を平和にしたいのです」
アンセル様はそう言って、カードを実体化させる。カードからかわいいかわいい決闘猫が現れた。
「あなたが生き残ったのはきっと、神の思し召しですよ」
「思し召し?」
「あなたは他の誰よりも優れた頭脳を持っている。あの巨大な複雑な設備を作れる者はあなたしかいない。神はそれに目をつけたのかもしれませんよ」
「…………」
「それは私にとっても同じです。ここであなたを失くしたくはない」
「何を。俺は全部だめにする奴だぞ。恋人も発明も、人生も。もう生きる意味なんてない」
「ならその人生、私にください。生きる意味がないなら私が見つけて差し上げますよ」
もし平和をお望みなら、私の下へ。
アンセル様はそう言って私を仲間に引き入れてくれた。
アンセル様は言った。デュエルの力と電気の力。2つ合わされば無敵なのだと。
そうかな。そうかも……。
それから少しして、俺はアンセル様から顔の火傷と正体を隠すための仮面を譲り受けた。
そうだな。俺はもう少し生きてみようと思う。
信じられるのは、アンセル様だけだ。
【作者より】
読んでくださりありがとうございます!
痺れデブはいません。
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次回は明日12:00〜13:00頃に投稿予定です。よろしくお願いします!
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