第9話「ドロー!決闘魔法!」
事務室に戻り、扉を開ける。
俺を案内した事務員はしっかり書類仕事をしていた。
だが。
「くく。儲けたもんね」
にやついている。
「戻ったZE」
「ハンデッドが相手なんだ。どうせ――」
「戻ったZE!」
「うおお!」
事務員は俺の声で席からずり落ちた。やっと気付いてくれたか。
「あ、ああ。ショーブ様。お疲れ様です……」
こいつ確かキースの買収されていたんだったか。呆れるZE。
とはいえ先攻だったらどうせカードは全部使い切ってただろうし。責め立てるのも柄じゃない。
俺は知らんぷりをし、キースからもらったカードを見せる。「デュエリストの証」だ。
「キースに勝ってこれをもらいました」
「あ、はい。今確認いたします……」
事務員は自らのよからぬ行為を誤魔化すかのごとく証を確認。
「本物ですね。少々お待ちください」
そこまで言うとそそくさと封筒を書類ごと机に隠し、部屋を後にした。
すると先ほどの事務員と入れ替わる形でまた別の人がやってきた。
「ショーブ様お疲れ様です。私が決闘魔法を授ける祭司です」
細目で線の薄い男だ。服には宗教的モチーフと思われる意匠が散らばっている。
「試験の様子、見させていただきました」
「様子を?」
「はい。あなたはこの試験で常に最良手を取り、計算やトリックを巧みに操るデュエルをしていました。そういった手数の多さに加え、さらにデュエルを楽しみ相手をリスペクトする心。強く良識のあるデュエリストには欠かせない要素です」
「ということは」
「試験合格です。おめでとうございます」
お、お、おお!
これで俺も人権を得られたZE! ドロー、人権カード!
「ありがとうございます! 試験官は強かったですが楽しかったです!」
「それはよかったです。では試験会場に戻りましょう。そこで決闘魔法を授けます」
「よろしくお願いします」
俺はそう会釈をしつつ、会場に入った祭祀の後ろを行く。
(……あ)
会場にはもうキースはいなかった。退室したのだろう。
その代わり、会場の真ん中には既に祭祀が立っていた。
「こちらへ」
俺は頷き、祭祀の下に行く。緊張するZE。
「ではこれより決闘魔法を授けます。目を瞑ってください」
祭祀は俺の頭に手を乗せ、何やら呪文を唱えた。
すると、全身が沸き立つような気力に包まれる。
「終わりました。これであなたも決闘魔法が扱えるようになりました。言い知れぬ力がみなぎっているはずです」
確かに、冷たい手にお湯がかけられた時のようなあのむず痒い温かさが全身に包んでいる。
「本当です。さっきのデュエルの疲れが全くありません」
「それもそのはず。決闘魔法は聖なる力なのですから」
「聖なる力?」
「はい。元々デュエルは創世神話の時代からある神聖なる決め事です。決闘魔法はデュエルをこの世にもらたした神への忠誠心や敬意を示すもの」
「神聖な決め事……」
「はい。ですのでくれぐれもその力を悪用せぬよう。神は常にあなたを見ているのですから――」
*
ギルドに戻った俺は、ユーゴに声をかけようとした。
ユーゴは冒険者に色々と聞いている。アンセルの情報を集めているのだろう。
「ユーゴ。戻ったZE」
「ム、ムトー!」
ユーゴは振り向き、俺に駆け寄る。しかしその顔は青ざめていた。
「どうでしたか試験は!」
「ゑ? 受かったけど」
ユーゴは俺から離れ、大きなため息をついた。
「ああよかった! 受かったんですね! よかったよかった!」
一体なんだ? 心配してくれたのはありがたいが。
「ど、どうした? ちょっと心配性なんじゃないか?」
「冒険者から聞いたんです!『試験に受かったら2度と再試は出来ない』って!」
「何! 俺はそんな危険な橋を渡っていたのか!」
しかし俺は笑う。何せ結果オーライなのだから。
「でも受かったからいいじゃないか。これで俺も人として認められるってもんだZE」
「う、うん! そうだね!」
その時、俺は少し引っかかることがあった。
聞いてみよう。
「そういえばユーゴ。お前はなんで決闘魔法が使えるんだ?」
「ああ。僕は初等教育で教わったんですよ」
「それって義務教育か?」
「いえ、残念ながら……。経済的な問題で子供をそこに通わせられない親もいますから」
「なるほど。じゃあギルドはそういった社会的恩恵にあずかれない人たちにとっては救いの手ってことか」
「ええ。それにギルドのおかげで悪質デュエリストも減りますしね。僕みたいな市民にとってはありがたいですよ。あなたもこれからそんな冒険者になるんです」
「デュエルで人の役に立てるのは嬉しいZE」
「そうですね。さて、それじゃ行きましょう」
ユーゴは俺の手を取って歩き始める。
「どこに行くんだ?」
「住民登録ですよ。 急がないと失効しますよ」
「あ、そうだ! 急ぐZE! 全速前進DA!」
俺はユーゴに引かれて歩く。
ユーゴ。
お前がいてくれてよかったZE。お前がいなかったら俺はきっと……。
俺は物思いに耽りながらギルドで住民登録をし、ついでに冒険者としての人生をスタートした。
書類のあれこれはほとんど事務員やユーゴがやってくれた。助かるZE。
(ようやく落ち着ける身になったかな……)
さて、俺は明日から冒険者として稼いで行く。そのついでアンセルの情報も集める。当分はこのスケジュールだ。
住居についてだが、しばらくはユーゴのいる下宿でお世話になる。ほんと世話になってばかりだ。
そこに向かう道中、ユーゴはやけににやついた笑顔を見せていた。
「なんだお前。気持ち悪い笑顔だZE」
「え? いやあ、まだかなって」
「ゑ。何が?」
「またそんなこと言って。わかってるでしょ? お土産ですよ」
「ああ、悪いな。俺は特に何も――」
「ちがーう! 話です話! 試験のデュエルがどんなんだったかって話!」
ああ。そうだな。
「聞かせてよ!」
「……いいZE! その代わり、お前の集めた情報も聞かせてくれよな!」
「もちろん!」
【作者より】
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