第13話「籠の中の鳥」

 俺たちがフィアナを助けたことは既に村にも知れているようで、聞き取りは意外にもスムーズに進んだ。地図ももらえた。

 その地図を印としつつ、俺たちは目的地に辿り着いた。

 だが。


「ねえショーブ。あなた方向音痴だったりします?」


 ……王族の家だから豪華でわかりやすいと思っていた。これは明らかに村の家の作りと同じだ。

 しかし窓からフィアナが見えた。ここで間違いないらしい。


「ここっぽいZE」


「ミスったらやり直しですよ」


「大丈夫だろ」


 ドアノブを回すと無抵抗に開いた。そっと扉を開けて様子を見る。


「フィアナ」


 フィアナは部屋の隅で泣き腫らしていた。

 俺は静かに入る。


「ショーブくん」


 フィアナは部屋の隅で縮こまっていた。


「どうして出ていってしまったんだ」


「お父さんはあたしを何もわかってない」


「わかってない?」


「あたしは3人兄弟の1番下で、唯一の女なの」


「兄弟がいたのか」


「2人目のお兄様とは双子で生まれたわ。跡継ぎは2人の予定だったけど、今はもういないお母様からの頼みで、義理で王族の身分はもらってる。でも」


「それにそぐわない扱いを受けてる」


 部屋に入ったユーゴが言う。


「別にふんぞり返りたいわけじゃないわ。あたしだって村のために役に立ちたい。なのにあたしがお父様から教わるのは――」


 するとフィアナは立ち上がり、少しばかり踊った。


「こんな役立たずの教養だけ。身分は王族。扱いは市民。変でしょ。これじゃ教養なんて意味ない」


 フィアナは座り直す。


「おかげで村の人たちはあたしと仲良くしてもどこかで壁を築くわ。こっちから歩み寄ってもそれは同じ。身分を気にしてるのね。あたしは誰にもどこにも属せない」


 フィアナは続けて「だからかな」と笑う。


「見えない責任と振り払えない緊張が付きまとう日々の中で、デュエルだけはあたしを解き放ってくれた。自由にしてくれた。デュエルをする時、あたしは1番の喜びを感じる。村を出たのも『知らないデュエリストと出会えるからかもしれない』って。半分はそれが理由よ」


 そういうことだったか。

 フィアナは他の誰よりもデュエルをしたかっただけなのだ。自分らしくいられるところが他になかったから。

 フィアナは続ける。


「どうせ威厳ある立場にも市民にもなれないなら喜んでデュエルバカになるわ。そのためなら命だって惜しくない」


「じゃあ、混沌のデュエルを止めたいっていのは本当に……」


「うん。あたしもそれを止める旅に出たい。人の心を解き放つはずのデュエルで人を傷付けるなんてあたし許せない。それに、それが蘇ったら村だって危ないし」


「でも」


「怪我なら平気よ。エルフの特性ですぐに治る。それに体の痛みなんて今ある辛さに比べればどうってことない」


 俺は何も言えなかった。


「だからショーブくん」


 ただ、この少女を単なるデュエルバカと軽んじた自分を恥じた。


「あたしを世界一のデュエルバカにして」


 フィアナは涙ながらにそう言った。

 俺は静かに「そっか」と呟いてから言う。


「ならなろうZE。世界一のデュエルバカに」


 するとようやくユーゴが話に入ってきた。


「僕も応援します。デュエリストはたくさんいるほうが楽しいんです」


「そういうことだZE」


 そう言って俺はフィアナの頭をぽんぽんした。


「何それ?」


「ショーブそれまたやってる」


 うーん。異世界には頭ぽんぽんの理解がないのか……。


「でも嬉しい」


 フィアナは笑いながら涙を拭った。


「元気が戻ったみたいで嬉しいZE」


 その時だった。扉が開かれる。そこ場にいた全員が振り返った。


「話は聞かせてもらったよ」


「お父様」


 パンゲア王。話を聞いた今では、正直彼にはあまりいいイメージはない。

 俺は言う。


「どこまで聞いてましたか」


「最初からだ」


 なら話は早い。もう少しこの子を自由にしてあげてください、と。そう言おうとした。

 しかしパンゲア王は座り込むフィアナに寄る。


「フィアナ。私はお前を――」


「どうせお前には王族としての責務が、意識が、でしょ」


 フィアナはパンゲアを突き飛ばして言う。


「もう聞き飽きたのよ! あたしがそんな立場にないのをわかってるくせに、権威のために玉座に縛り付けるのがそんなに楽しい?」


 黙り込むパンゲア王をそよに、フィアナは気持ちを爆発させた。


「あたしはただ誰かの役に立ちたいだけなの。お父様やお兄様たちみたいに、村や人たちのために何かしたいの。そんな願いを叶えるのかだめなことなの?」


 その時、パンゲア王がフィアナを抱きしめた。


「そうか。私はお前にそんなに悲しい思いをさせててしまう親だったのか」


「お父さん?」


「身の振り方は、確かに王族として示しを付けさせる意味があった。だがそれ以外は別だ」


「何があるの?」


「例えばお前の家を城から切り離しているのは、王家の誰よりも民の心をわかってやって欲しかったからだ。政治の場から切り離しているのは、指導者という身分は恨みを買う地位からだ。お前には知らせていないが、お前の母は暗殺を受けている」


「!」


「王家の中で唯一の女として生まれたお前は特に大事に育てたつもりだった。だがその教育方針はお前の心に闇を作ってしまった。それに気付かなかった私は愚かな親だ。本当に、本当にすまなかった……」


 パンゲア王はさらに続ける。


「だが、その上でお前を引き止めたい。旅には出るな。お前の気持ちはわかるが、危険がすぎる」


「なっ。どうして!」


「実力がないからだ。お前は事実、あの覆面に負けた。奴が何らかの組織に属していて、かつ奴がその中で最も弱かったらどうする。戦いについて行けるか? 恩返しをするどころか足手まといになりかない」


 フィアナは唖然としていた。


「その代わり王族としての立場も、自由だっていくらでもやろう。だからフィアナ――」


 その瞬間、フィアナは立ち上がった。


「だったらデュエルよ」


「何?」


「あたしはデュエルする。お父様に勝って実力を認めてもらう」


「フィアナ!」


「強ければいいんでしょ! ならそれを認めさせるのが道理!」


 パンゲア王は「なぜ」と、立ち上がったフィアナを見つめるしかなかった。


「お父様はやる気がないみたいね。そんな状態で勝っても意味ないわ」


 その時、フィアナは俺を見つめた。まさか。


「ショーブ・ムトーくん。あなたにデュエルを申し込むわ! あなたを倒し、お父様の目を覚ませる!」


「何!?」


「怖いの? ならユーゴくんでもいいわ」


 これは止まらない雰囲気だ。俺は立ち上がる。


「待て。そのデュエル引き受けた」


 その場の全員が俺を見つめた。


「フィアナ。君の覚悟はどうやら本気らしい」


「もちろんよ」


「君の本気に俺も答える。楽しいデュエルにしようZE」


 フィアナは不敵な笑みを浮かべた。


「楽しいデュエル? 勘違いしないで」


「ゑ?」


「あたしが求めるのは熱いデュエル! 魂と魂のぶつかり合いよ。やるからには熱くなりましょ!」


 こいつ。意外と熱血だ……。

 だが、熱いデュエルなんて大歓迎だZE!


「行くZE!」


「デュエル!」






【作者より】

 ここまで読んでくださりありがとうございます。

 デュエルバカは主人公ではなくヒロインでした。


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 次回は明日12:00〜13:00頃に投稿します。よろしくお願いします!

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