第12話「混沌のデュエル」

「実体化したデュエル。それってさっきフィアナさんが言った……」


「うむ。フィアナの受けたデュエル。それは混沌のデュエルだ」


 パンゲア王は、混沌のデュエルについて話し始めた。











 ――混沌のデュエル……。それっていつからあるんですか?


 詳しい時期はよくわかっていない。だが、その起源はエルフ族にあると伝えられている。


 ――デュエルのことですか?


 ああ。かつてのエルフ族は野蛮でな。他種族に幾度となく侵略を仕掛けていたのだ。

 もっと戦いたい。もっと奪いたい。そう思った彼らは、自らの魔力をモンスターや魔法として、石板や粘土版などの記録媒体に記した。


 しかしその戦い方はすぐに封印された。平和を愛される神の怒りに触れたからだ。

 だが、神は同時にその戦い方に関心をお寄せになられていた。


「この戦い方、面白い。これは世に残すとしよう」


 こうして神はあらゆる生命から魔力をお取り上げになられた。

 戦い方を1つ失ったエルフたちは初めこそ失意の底に沈んだ。

 しかし彼らは無用の長物と化したその戦い方にルールを定め、それを遊びとして楽しむようになった。こうしてエルフは戦いよりも平和や遊びを楽しむ心を手に入れたのだ。

 これには神もお喜びになられた。


「素晴らしい。遊びこそがこの世に平和をもたらす。ならば私からも1つ贈り物をやろうではないか」


 神はその戦い方を2度と争いの道具にさせぬよう、エルフたちに「決闘魔法」を授けた。さらにあらゆる生命からお取り上げになられた魔力は「決闘魔法」を扱う範囲でのみ解禁なされた。


 こうしてエルフが生み出した戦い方は「デュエル」と名付けられ、世界中に広まった。

 それに伴い、かつて争いの道具として使われた戦い方はルールも秩序もない「混沌のデュエル」と名付けられ、今に至るのだ。











「デュエルは平和の象徴だ」


 話を終えたパンゲア王はさらに続ける。


「事実、諍いや揉め事はデュエルで解決するのがこの世の法だ。混沌のデュエルはこの認識を崩す悪しき解法。復活すればこの村も当然ただでは済まないだろう。何か手はないものか……」


 フィアナもようやく話に加わる。


「そういえばあいつ、今の混沌のデュエルでは魔力が足りなくて、デュエル中でしたカードを実体化出来ないとか言ってたわ」


「む、そうだったな。フィアナ。魔力は奪われたか? 体調は?」


「大丈夫よ。決闘魔法も使えそうだし全然元気だし」


 それを聞くと、パンゲア王はフィアナの頭に手を置く。

 少しするとその手を離す。


「ふむ。取られてはいないようだな。何かしら条件があるのだろう。今回は無事に済んだが、その輩はこういったことを他の者にもしているわけか……」


 パンゲア王は悩んでいた。俺も同じだ。

 混沌のデュエルが蘇れば、この世は争いの絶えない世界となってしまう。


(それに元の世界で俺は、実体化したデュエルが元で仲間を失ったことがある……)


 何よりデュエルで通い合った仲間がいる。絆がある。俺はそれを切りたくないし、切られたくもない。

 俺は机に手を乗せて進言する。


「パンゲア王。混沌のデュエルの復活阻止、俺が率先して動きます」


「何?」


「この世に混沌をもらたし、仲間との絆を断ち切るデュエルなんて俺は許せません。デュエルは人と人を繋ぐものだから」


 ユーゴも前に出た。


「ぼ、僕もショーブと共に行きます。平和を乱されるとわかって黙ってはいられません。それにこの件、アンセルが1つ噛んでいるならなおさらです」


 俺たちの答えに、パンゲア王は顎を撫でた。


「む……。君たちの勇気には感服するが、しかし危険だぞ。万が一のことがあったら」


「それでもです。どうかやらせてください」


 パンゲア王は俺にまじまじと見つめて言う。


「ショーブくん。確か君、その覆面にデュエルを仕掛けようとしたんだったかな」


「はい。逃げられはしましたが」


「腕に自信は?」


「決闘魔法はギルドの試験でクリアしました。あそこはそれなりに狭き門ですので、買ってもらえるだけの力はあります」


 ユーゴも咄嗟に言う。


「ぼ、僕もそのムトーをギリギリまで追い詰めました!」


 パンゲア王は机に肘について悩んだが、ついに結論を出した。


「わかった。君たちの勇気、私も賭けよう」


 その言葉でパンゲア王はようやく顔を上げ、笑顔を見せた。

 すると、フィアナが泣きつくような顔で言う。


「お父様。あたしもついていきたい!」


「フィアナ。お前はだめだ。王族としてこの村に残らねばならん」


「でもあたし、この人たちに恩1つ返せてない!」


「私と共に後方支援に回るのが1番の恩返しになる」


「それじゃ納得行かない! 1番近くで戦うのが――」


「この放埒者めが! 王家の恥晒しとして名を残してもいいのか!」


 パンゲア王は毅然とした口調で、しかし論理的に説き伏せた。

 すると、フィアナは肩をすぼませて呟く。


「……誰が好きで放埒者になったっていうのよ」


「何?」


「お父様なんて大っ嫌い!」


 フィアナはそう声を張ると、応接室を飛び出した。

 俺たちもパンゲア王は呆気に取られ、しばらく黙っていた。

 口火を切ったのはパンゲア王だった。


「全くあのデュエルバカめ。デュエルのことしか頭にないのか……」


 しかしパンゲア王はすぐに俺たちに向き直った。


「すまないな。あの子は昔から何かとわがままでな。許してやってくれ。あとで説得するよ」


 あれはわがままの範囲だろうか。確かに身近にいて俺たちのらために動きたいと願うのはわかる。だが、どうも引っかかる。聞いてみよう。


「何かあったんですか?」


「今年で14。若いだけだよ」


 若いだけ、か。

 仮にそうだとしてもあの子は実際に混沌のデュエルを体験したのだ。その恐怖を押してもなお俺たちについて行こうとする理由が見えない。


(親子関係……)


 それ以外にない。俺は席を飛び出した。


「パンゲア王! 俺ちょっとフィアナさん探します!」


「あ、待ってください僕も!」


「おい君たち!」


 なんだユーゴ。お前もついて来るのか。別に構わないが、お姫様探しは手伝ってもらうぞ。






【作者より】

 ここまで読んでくださりありがとうございます。

 デュエルの起源もうちょっと引っ張るつもりでしたが流れ的に仕方ない感じになりました


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 次回は本日17:00〜20:00頃に投稿します。よろしくお願いします!

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