第11話「エルフの住まう地、ガレア村」

 デュエル終了と共に、そのモンスターが眩い光と共に消えていく。


「ま、待て! 俺と、俺とデュエルしろおおおおお!」


 目を開けると、その場からは既に男も消えていた。


(くそ。逃したか)


 だが奴に拘っている暇はない。今は少女の安全を確認するのが先だ。俺はユーゴを呼んで少女の体を揺らす。それでも反応はない。


「寝てるだけならいいんですが……」


 その時だった。


「姫!」


 誰だ?

 そちらに目を向けると、2人のエルフがこちらに向かっていた。

 同じエルフだ。助けを呼ぼう。


「あの! この子の付き添いの方だったら――」


 だがエルフ2人は俺たちに槍向けて迫っていた。


「貴様ら姫に何をした!」


「覚悟しろ不埒者どもが!」


「うおお! ど、どうする!」


「と、とりあえず逃げて!」


 俺とユーゴは少女から離れ、左右に散って飛んだ。2人の槍はその間を容赦なく突く。


「待ってくれ! 俺たちは何もしてない!」


「そうです! 僕たちはこの子を実体化したデュエルから助けてあげたんです!」


 まさにその通りなんだが、状況が状況すぎてとても信用されないよな……。


「黙れ! 言い逃れなど見苦しいぞ!」


「大人しく刺されてもらおう!」


 やばいやばい!

 その時だった。


「あ゛ん゛た゛ら゛な゛に゛し゛て゛ん゛の゛よ゛!」


 横たわっていた少女が突然叫んだ。


「フンッッッッッ!!!」


 その場から飛び上がり、怒りの眼をエルフ2人に向けた。


「命の恩人殺そうとしてんじゃないわよこのバカァ!!!」


 その少女は凄まじい速さでエルフ2人に迫り。


「覇ァッ!!!」


 少女はそう声を張ると、エルフ2人の目の前に拳を突き出した。

 拳は入っていなかったが、代わりに「バァン」という音が鳴り響いた。

 ソニックブーム。

 あの少女、拳の勢いだけでソニックブームを発生させたのだ。


「「ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛」」


 エルフ2人は声にならない声をあげてその場に倒れた。


「ふう……。ごめんね2人とも。これでもう大丈夫よ!」


 少女は屈託のない笑みで俺たちに迫る。

 こ、殺される……。


「じゃ行こうか」


 俺は腰を抜かしながら言う。


「どこに行くんだ……」


「ガレア村だけど」


「ガレア村?」


「あたしたちエルフのいる村よ。あ、ちなみにあたしはフィアナ・ガレア。よろしくね」


「よ、よろしくフィアナ……。それよりも怪我大丈夫か?」


「もう治ってるよ」


 ほんとだ……。切り傷がない。


「さて。よいしょ」


 すると、フィアナは大のエルフ2人を軽々と肩に背負った。なんたる怪力……。


「ついてきて!」


 俺たちは流れるまま、ガレア村に行くことになった。











「ただいま! 今日こんなことがあってね――」


 フィアナは俺たちを村のあちこちに連れ回してはその度に事態を話していく。


「あたしは大丈夫! それよりもこの人たちはあたしの命の恩人だから。丁寧に扱ってね!」


(丁重じゃね?)


(丁重ですね)


 フィアナからそうは紹介されたものの、結局は事情聴取を受けることになった。無理もない。俺たちはフィアナと共に応接室に回される。


「フィアナ様の命の恩人方にこのような応対となり、申し訳ありません。事態が事態でして」


「いえ。俺たちも色々気になることがありますので」


「かしこまりました。でしたら今しばらくお待ちを。王がやって参ります」


 姫、フィアナの側近がそう言って退室する。

 聞き取りに応対するのはエルフ族の長、パンゲア王だ。彼の入室を待つ。

 しかしその入室は早かった。彼はゆっくりと扉を開け、物々しい雰囲気で部屋に入る。

 彼は他のエルフと違い装飾を多く身につけており、耳の端もやはり尖っている。

 パンゲア王。彼はフィアナを見るとすぐに顔を緩ませた。


「おお大丈夫だったか! お前が怪我をしたと聞いて飛んできたよ」


「お父様。あたしは大丈夫だよ!」


「それはよかった……」


 パンゲア王はひたすらフィアナを抱きしめ、安堵を噛み締めていた。

 抱擁も終わると、彼は俺たちのほうに向き直る。


「聞いたよ。君たちがフィアナの危機を救ってくれたそうだね。私はこの村の長、パンゲア・ガレアだ。礼を言う」


「あたしからもお礼を言うわ! ありがとうね2人とも!」


 パンゲア王とフィアナはそう言って膝をつき、頭を垂れた。俺は咄嗟に顔を赤くする。


「あ、頭を上げてください! 俺は当たり前のことをしただけで!」


 ユーゴも慌てる。


「お、恐れ多いです王族の方々がそんな!」


 パンゲア王とフィアナは姿勢を直す。


「はは。謙虚だな君たちは。ああそうだ。名前を聞いていなかった」


「ショーブ・ムトーです」


「ユーゴ・べトールです」


「うむ。ショーブくんとユーゴくんか。いきなりで悪いが色々と事情を伺いたい。よろしいかな」


 俺たちは素直に頷く。


「ありがとう。ではフィアナ。まずはお前の見聞きしたことを聞かせてくれ」


「はいお父様」


 フィアナはパンゲア王に向き直り、少しずつ話し始める。











 始まりは、この村の近くで不審者が現れたという話が舞い込んだ時よ。

 あたしは調査に出たわ。村の一大事だし腕にも覚えがあるから。あ、お父様睨まないでよ。心配させたのはあとで謝るから……。


 話を続けるけど、運がいいのか悪いのか。あたしは奴と出会ったわ。


 ――まずは貴様から魔力をいただく。混沌のデュエル復活のためにな。


 戦うしかなかった。ここで逃げれば村の人たち被害が及ぶからね。

 そんなわけでデュエルが始まったんだけど。


 ――えっ傷。どうして?


 ――驚いたか。これが混沌のデュエルの力だ。とはいえ魔力が足りず、デュエル以外では実体化出来んがな。


 そいつはカードを実体化させていたの。使うモンスターや魔法がそのままあたしを傷付けたわ。

 あたしは襲い掛かる攻撃を徒手空拳で弾いてはいたけど、純粋に相手が強かった。結局は負けたわ。

 で、とどめを刺されそうな時にあなたたちが来たってわけ……。











 フィアナが話し終えると、パンゲア王が俺たちに向き直る。


「うむ。事情はだいたい掴めた。して、君たちは?」


「……俺もデュエルで色々聞き出そうとしましたが逃げられました」


「なるほど。ではここに来た理由は?」


 この先はユーゴに任せよう。目配せをする。


「僕たち、ある理由でアンセルという男を探しているんです。なのでギルドという職業組合で情報を集めていたら、それと関わりがあるのではとうわされる覆面がこの辺りに出たと聞きまして。情報提供のクエストとしてやって来たんです」


 次は俺が引き継いだ。


「アンセルの関係者かどうかを聞くと、自身はアンセルの忠実な部下であると残して消えました」


「ふむ。そのアンセルとやらを追う理由は?」


 ユーゴは渋い顔で言う。


「……僕の家族はアンセルに皆殺しにされました。追うのはその復讐のため。ショーブはその協力者です」


「ふむ。アンセルか」


「何かご存じないですか?」


「いや、寡聞にして聞かないな。力になれず申し訳ない。だがフィアナ。確かその覆面は実体化したデュエルを操ったと言っていたな。なら、あれしか考えられん」


 2人は緊張した面持ちだ。聞いてみる。


「実体化したデュエル。それってさっきフィアナさんが言った……」


「うむ。フィアナの受けたデュエル。それは混沌のデュエルだ」






【作者より】

 ここまで読んでくださりありがとうございます。

 武闘派エルフの道を拓いてしまいました。


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 次回は明日12:00〜13:00頃に投稿します。よろしくお願いします!

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