第22話「悪夢の人形劇」(デュエルパート)

「「デュエル!」」


 コイントスにより俺は後攻を引いた。






【カルトの先攻】


「私のターン。私は永続魔法『古びたおもちゃ箱』を発動。その時の効果で、デッキから人形と名のつくモンスターを2体召喚するわ」


 カルトの背後から、地響きと共に巨大な木箱が現れる。

 すると、そこから黒い霧と共に2体の人形が現れた。


「来なさい。『霊障人形 アナベル』!」


 木箱から飛び出したその人形はおぼつかない動きで俺を捉える。


(うっ……)


 女の子用のかわいい服を着た布製アンティーク人形だった。それが2体。

 攻撃力1000。


「アナベルちゃんたちの効果をそれぞれ発動。相手の手札をランダムに1枚捨てる。食らいなさいダブルハンデス!」


 俺は手札を見る。何が抜かれる……。


「選ぶのは右の2枚よ」


「くっ!」


 アナベルが血を吐き、俺の右端の手札2枚にそれを吐きかける。するとそれが俺の手を離れて宙に浮き、墓地に送られる。

 選ばれたのは「ライト・ドレイク」と「双竜の革命」だった。


「おもちゃ箱のデメリットでこのターン私はもうモンスターを出せないわ。でもこれだけやれば十分ね。私はカードを2枚伏せてターンエンド」






【夢藤のターン】


 なんてことだ。いきなり手札3枚スタートか。

 しかも撃ち抜かれたのはドレイクモンスター。俺のデッキはドレイクを魔法で支援する関係上、ドレイクが来ない状態=デッキの機能停止を意味する。

 だが、それでも戦わなければならない。

 現れたデッキに指を置く。


「俺のターン、ドロー!」


 引いたのは「レフト・ドレイク」。行ける!


「俺はレフト・ドレイクを召喚し、バトル! レフトでアナベルに攻撃!」


 カタカタと不気味に踊るアナベルに、レフトが突っ込む。


「アナベルちゃんの効果発動。手札を好きな数捨て、その数だけ相手モンスター全ての攻撃力をこのターンの終わりまで500下げる。私は2枚捨てるわね」


 アナベルが「あひゃひゃ」と笑うと、その口から赤黒い血を吐き出す。レフトはそれを真正面から食らった。

 これでレフトの攻撃力は1000。アマンダの1000とで相打ちか。


「そうはさせない! 単発魔法『双竜の闘志』を発動! こいつはドレイク1体の攻撃力を1000上げるカード。こいつで俺はライトの攻撃力を1000上げる!」


「私の人形ちゃんを壊すつもり? なら私は永続魔法『お遊戯会』を発動!」


 おもちゃ箱とアナベルを取り囲む形で、シックな木造の舞台が建ち始める。


「この魔法は私の場に人形モンスターとおもちゃ箱がある時にだけ発動出来るわ。その効果は、デッキから『レムちゃん』を呼び出す!」


 まずい。恐らくあのデッキの主役だ。


「なら俺は『双竜の咆哮』を発動! その効果を無効に――」


「させない! 伏せてあった単発魔法『床掃除』発動! 咆哮を破壊するわ!」


 ライトが雄叫びを上げた瞬間、その口に雑巾が詰め込まれる。


「ライトになんてことを!」


「あはは! 見て見て『レムちゃん』! 楽しいわね!」


 その声に呼応するかのごとく、カルトの抱えていたレムちゃんが笑う。


「あはは。きゃは。きゃはは」


 その時、カルトの前に現れた血の池からモンスターが現れた。


(こいつは……!)


 カルトの抱えているレムちゃんがそのまま巨大化したモンスターだった。

 攻撃力2500。


「うん? レムちゃん何?」


 カルトはレムちゃんを抱きしめて何か言っている。


「うん。いいわよ。やっちゃって!」


 カルトがそう合図すると、レムちゃん(モンスター)の体の至るところから子供の腕が伸びる。

 手は場にあるカード全てを容赦なく引きちぎろうとする。


「まだよまだまだ! レムちゃんはあなたの手札も全部壊しちゃうの!」


 おいおい。全体除去どころかハンデスまで食らわせるのか。これはまずい。

 だが俺にはこいつがある。「双竜の爆炎」。場か墓地にライトとレフトがいれば、俺の墓地の魔法の数だけ相手のカードを好きなだけ破壊出来るカード。


(これを使えばいけるが……)


 使うのにはためらいがあった。カルトとレムちゃん(ぬいぐるみ)は強い絆で結ばれている。

 だから、それを模したモンスターを破壊すればカルトの心に傷を負わせることになる。

 そうしないためにはレムちゃん(モンスター)を破壊するしかない。


(危険だがやるしかない!)


「俺は手札から単発魔法『双竜の爆炎』を発動! 場か墓地にライトとレフトがいれば、俺の墓地にある魔法の数だけ相手のカードを好きな数破壊する!」


 俺の墓地には革命、咆哮、闘志の3枚だ。


「破壊するのは当然レムちゃん!」


「えっ? 今レムちゃんって……」


「うん? ああそうだ。悪いがレムちゃんには退場してもらうZE!」


「うっ……」


 カルトはレムちゃんを抱きしめた。

 瞬間、俺はすぐにレムちゃん(モンスター)のところに駆ける。急げ。炎よりも早く。

 記憶が蘇る。

 炎。俺の全てを燃やした炎。


(あの時、命知らずになってでも家に入っていれば、家族の誰かを助けられただろうか……)


 わからない。今となっては全て遅いのだから。

 でも、今なら誰かを助けられる。まだ殺されていない誰かの思い出を守ることなら、ちっぽけな俺にだって。

 そうだ。そのためなら誰かのために傷付いてやる。

 俺はレムちゃん(モンスター)に飛び上がり、真正面から炎を食らった。


「ぐうっ!」


 熱い。痛い。息が苦しい。

 しかしレムちゃんの霊験あらたか。効果処理は早めに終わり、幸いにも炎はすぐに消えた。


「へへ……。これで俺はターンエンド……」


 俺は苦痛の中、その場に倒れた。






【今日の最強カード】


【霊障人形 アナベル】


生息地:闇の国

種族:ミスティック・ドール


攻撃力:1000

守備力:200


効果

①このモンスターを召喚した時に発動してもよい。相手の手札を1枚見ないで選び、捨てる。


相手ターンに発動してもよい。自分の手札を好きな数捨て、1枚につき相手モンスターの攻撃力を500下げる。


フレーバーテキスト

真正面から拳で語り合うのは趣味じゃないの。






【レムちゃん】


生息地:闇の国

種族:スペクター


攻撃力:2500

守備力:1000


①このモンスターは「おもちゃ箱」の効果でしか召喚出来ない。


②このモンスターを召喚した時に発動する。相手のカードを全て破壊し、その後相手の手札を全て捨てる。


フレーバーテキスト

カルトちゃん。もうやめて。






【作者より】

 ここまで読んでくださりありがとうございます!

 熱い(物理)デュエルです。


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 次回は明日12:00〜13:00頃に投稿予定です。よろしくお願いします!

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