第3章「混沌爆発(カオス・スプラッシュ)」
第21話「混沌のデュエリスト」
ひとまずの宿で1日を過ごした俺たちは早速外に出た。
昨日3人で話し合い、やることを決めていたからだ。
1つ。パンゲア王からもらった宝石を換金する。これは純粋に生活費やカード購入費に充てる。ただし500万分は残す。
2つ。残した500万分と報酬の500万の合計1000万はカード生成の資金に充てる。
俺たちは混沌のデュエリストを例外なく強者と想定しているので、強いカードは多いだけ武器になる。
ユーゴ曰く、1000万あればいくらでもカードが作れるらしい。
3つ。引き続きクエストに取り組むこと。
4つ。アンセルに関する情報を集めること。
この2つは今まで通りだ。
第3章
俺たちは神都から承認を受けている貴金属買取店に向かった。早速宝石を査定に出す。
「名義はガレア村の王、パンゲア様の代理ということでよろしいですね」
俺たちは頷いた。元よりそういう約束だし、別に金をもらうのは俺たちで間違いないからだ。
「かしこまりました。少々お待ちください」
買取が始まった。その間俺たちは待合室で時間を潰す。
その中でフィアナは早速切り出した。
「お父様名義ってどういうことなのかな」
気になるだろう。俺なりの答えを言ってみる。
「名義をガレア村、パンゲア王直属の者とすることで、神都から何かと優遇やら報酬やらを受けてやろうって狙いかな」
ユーゴはデッキを調整しながら言う。
「ちゃっかりしてますね」
「こういう根回しは昔からお父様うまいから」
フィアナを同行させたのも「混沌のデュエル復活を食い止めるため」という体で神都に義理を売る狙いもあるだろう。
「ま、どんな敵が来てもあたしは負ける気しないけどね」
成功すればよし。失敗しても。
……少なくともフィアナの物理的な退場はなさそうだな。フィジカルが強すぎるから。
そうこう考えているうちに買取が終わった。俺たちは急いでそこに向かう。
査定額を聞いた俺たちは唖然とした。
「3500万ジュエルです。いかがなさいますか」
2人は文句なく頷く。それを見て俺は言う。
「買取お願いします。ただし500万ジュエル分は残しておいてください」
「かしこまりました」
その他書類のあれこれを済まし、俺たちは店を出る。
「それにしても信じられない大金ですね!」
ユーゴは目を輝かせている。そうだろうそうだろう。俺も顔にこそ出てはいないが胸が熱いZE。
「ムトーくんニヤニヤしちゃって」
バレてたか。
「そ、そんなことより次はカード生成だ。ユーゴ、いいところ紹介してくれよな」
「もちろん。僕の土地勘に任せてください」
その時。
――あは。「ここにいれば奴らが来るよ」って。レムちゃんの言った通りだったわ。
俺たちは足を止めた。女の子の声だ。俺はフィアナに向き直る。
「フィアナ。なんか言ったか」
「まさか」
「ユーゴは?」
「いえ……」
ユーゴも冷や汗混じりに首を横に振る。
人通りは少ない。聞き間違いではないようだ。俺は聞き返す。
「誰だ。どこにいる」
――後ろよ後ろ。
俺たちはバッと振り返る。
そこには顔をくまのぬいぐるみで隠した少女が立っていた。
背丈はかなり小さい。10歳前後だろうか。
「君は?」
「私はカルト」
「迷子か?」
「まさか。私はあなたたちを追いかけてたのよ」
「何か用でもあるのか?」
「用? これを見ればわかるかしら」
カルトと名乗った少女はくまのぬいぐるみの腹からデッキを取り出した。
(これは!)
カルトのデッキはどういうわけか光っていた。
その時、フィアナは声をあげた。
「き、昨日会った奴と同じ! 覆面の奴もデュエル前にデッキ光らせてた!」
俺は咄嗟に少女のほうに向き直る。
「混沌のデュエリストか!」
「気付いたかしら。その通りよ。これがアンセル様から分けていただいた力。あなたたちは混沌のデュエル復活の礎になってもらうわ」
放たれた殺気に俺たちは一瞬たじろぐ。
しかし逃げるわけにはいかない。相手が混沌のデュエリストなら戦うしかない。
「いいだろう。そのデュエル受けるZE。その代わり、舞台は俺たちで決めさせてもらう」
「構わないわよ。レムちゃんもそれでいいでしょ?」
(うん……?)
カルトはそう言ってくまのぬいぐるみを抱きしめる。
「あは。レムちゃんも『いいよ』だって。良かったわねあなたたち」
あれがレムちゃんか。年頃かな。
「話してるところ悪いが、先に場所を決めよう」
「レムちゃんは『早く行こう』ですって」
「それは助かるZE」
その時、カルトが俺を一瞬見つめた。なんだろう。
いや、それよりも場所決めだ。俺はユーゴを見る。
「ユーゴ。場所はお前に任せる」
「いいんですか?」
「土地勘あるんだろ?」
ユーゴは一瞬もじもじしてから言う。
「……わかりました。皆さんついてきてください」
俺たち4人は黙ってユーゴの案内を受ける。
*
歩くこと30分ほど。俺たちは神都の外れに着く。
「ここは土地も痩せていてカードも生えない、誰も寄りつかない荒野です」
カルトはレムちゃん越しにそこを見渡した。
「いい感じの場所じゃない。モンスターや魔法ものびのび使えるそうね。レムちゃんもそう言ってるわ」
俺も辺りを見回す。
「確かに文句はない。ありがとうなユーゴ」
「いえ……」
するとカルトが口を挟む。
「ああそう。今気付いたけどそこの髪の毛ツンツンのやばい髪型のお兄さん。あなたもしかして、ショーブ・ムトーかしら?」
「そうだが、なぜ知ってる?」
「私の仲間があなたをギルドで見たらしいのよ」
「何?」
「そいつ、『せっかく地下に叩き落としてやったのに』って。あなたを名指しして文句たらたらだったわ」
俺は固まった。思い出さずにはいられない。いや、忘れられないというべきか。
――よく聞くんだ。このボヤは君のせいだ。
――いいかい。これは間違っても僕のせいじゃない。僕は善良な市民なんだ。
(俺を地下に叩き落とした? まさかあの男のことか?)
もしそうだとしたら黙ってはいられない。
そもそも俺の家族が殺されたのも地下デュエル場に叩き込まれたのも、全ての原因はそいつにある。
それに奴がカルトの仲間――つまりアンセル一派だとしたら追わない理由はない。
拳を握る。
「……そいつの名前はなんだ。いまどこにいる」
「教えて欲しいなら私をデュエルで倒すことね」
カルトはレムちゃんの腹から改めてデッキを取り出す。
「くっ。そういうことか」
デッキは光っている。混沌のデュエリストの証だ。
「力づくは嫌いじゃない。デュエリストらしいじゃないか」
俺もデッキを取り出し、構える。それを見てカルトは不気味に笑う。
「意気込むのはいいけど覚悟はしておきなさい」
「望むところ。混沌のデュエリストの力、見せてもらうZE!」
行くZE。
「「デュエル!」」
【作者より】
お久しぶりです。2週間少しぶりですね!
その間にもたくさんの評価をいただきまして嬉しい限りです。ありがとうございます!
さてさて一気に物語が加速してます。カルトはかわいいですね。(I)
いいね、コメントなどくださるととても励みになります。星での評価、レビュー、作者や作品のフォローなども入れてくださると泣いて喜びます。
次回は本日17:00〜20:00頃に投稿予定です。よろしくお願いします!
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