第23話「レムちゃん」(カルトの過去編)
咄嗟にユーゴとフィアナが駆ける。フィアナはかばんから薬を取り出し、それを塗る。
(くそ。火傷箇所が多すぎて効果が薄いのか……)
俺はついに薬を手で制した。
「もういい。薬が無駄になる……」
「何言ってるんです! 早くしないと――」
【カルトのターン】
「私のターン、ドロー」
「ほら始まった! あいつまだやる気ですよ!」
ユーゴはカルトを睨むと、俺を抱え始める。
「あの子怪我人相手に! あたしちょっと気絶させてくる!」
「おいやめろお前の馬鹿力は!」
青筋を立てたフィアナが駆け、カルトを蹴る。
カルトの足からボギ、と嫌な音が鳴る。
「……あ。力1/10くらいにしてたんだけど……」
ああやってしまった……。ていうか骨折で1/10って。
しかしカルトはすっと立ち上がり、ふらりとした動きで口を動かす。
「混沌のデュエリストはデュエル以外では死なないの。再生も容易いわ」
マジかよ。いや、でも確か折れた足は治ってる。立てているのがその証拠か。
「私は『霊障人形 キャロライン』を召喚。その時の効果を発動し、プレイヤー1人のライフを1000回復させる」
あくまでデュエルを続けるか。その非情さ、混沌のデュエリストに相応しい精神性だ。
しかしキャロラインは手に持った巨大な注射器を俺の腕に突き刺す。
ライフ4000→5000。
その時、俺の体中の火傷が一気に癒えた。
「デュエルは中断よ。ショーブ・ムトー。デッキをしまいなさい」
カルトは自らのデッキを懐にしまった。
「…………」
俺も癒えた右手でデッキを懐にしまう。すると、それまで場に残っていたモンスターや魔法たちが消えた。
デュエル終了
中断
俺は口を開く。
「ありがとう。君は優しいんだな」
カルトは俺から目を逸らしたが、すぐに言葉を紡ぐ。
「どうしてあんなことしたの。あんたもレムちゃんをもの扱いしてよかったのに」
俺はため息混じりに言う。なんだ、そんなことか。
「そんなことは出来ない」
「どうして?」
「だって、レムちゃんは君の大切な友達なんだろ」
「え……」
「君とそのレムちゃんがどんな関係なのかはわからない。ただ、君がレムちゃんを凄く大切にしてるのだけはわかったから」
「あなた」
「誰かを失う悲しみ。俺はよくわかるよ」
俺は立ち上がり、カルトの頭をぽんぽんする。
「それに俺は、お前に人を傷付けることの罪の重さをわかって欲しかったんだ」
「う……」
俺はすかさず声をかける。
「どうして混沌のデュエルを復活させいんだ?」
カルトはしばらくの沈黙ののち、口を開いた。
「レムちゃんを生き返らせてあげたいの」
カルトはそう言ってレムちゃんを抱き締めると、事情を話し始める。
カルト
過去編
「レムちゃん」
きっと助けてあげるから。
誓った言葉を自分で裏切った私はきっと、人形のように冷たい肌をしている。
富、名誉、権力。貴族の家に生まれた私は生まれながらにして全てを持っていた。
貴族の目的はより富むこと。より潤うこと。
私はそのための立ち振る舞いや教養をを叩き込まれた。
語学。乗馬。芸術。スポーツ。所作や立ち振る舞い。私は疲れ果てていた。
それを聞いたのは風のうわさだった。
政略のために顔色を窺ったりお世辞を言ったり。そんなことを気にせずに接することの出来る関係性があるらしい。
その間柄は「友達」。
でも、ここにはそれがない。腹積もりありきの人たちが私を取り囲んで離さない。親や兄弟もそうだ。信じられる人がどこにもいない。
だから私は外に出た。もうここにはいられない。逃げるでも旅立つでも、呼び方はどうだっていい。ここから出られればそれで良かった。
だから、神様はきっと私に微笑んでくれたのだと思う。
町で出会ったその子は、私が一生かけて努力しても出来ないような笑顔を見せてくれた。
名前はレム・バートン。神様のいたずらで私たちは知り合い、仲良くなった。
レムちゃんは手芸屋だったからか、よく人形遊びをしてくれた。一緒に人形も作ったりして、一緒に遊んだ。
「ねえカルトちゃん。お人形に名前を付けましょう」
「名前?」
「そう。だってせっかく作ったのよ。名前を付けないとかわいそうでしょ?」
「そっか。そうだね」
私がなんとも言えない答えに徹していると、レムちゃんは人形に次々名前を付けていった。
「じゃあこの子はアナベルちゃん。キャロラインちゃん!」
「あっずるい私も付ける! えっとこの子はアマンダちゃん、ロバートくん!」
そうして人形に次々名前を付けていった。
最後に残ったのはくまの人形だった。これは私が作った人形だった。
「どうしよっかカルトちゃん」
「悩むねえ」
私もレムちゃんもさすがにネタが尽きて、結局その子に名前は付けられなかった。
そろそろ帰らなければいけない。レムちゃんは別れ際に言った。
「くまちゃんの名前は私が考えてとくよ。だから次会った時はくまちゃんの誕生日だね!」
「うん! いい名前待ってるから!」
レムちゃんとはそうして別れた。
この時、私はそれがレムちゃんと交わした最後の会話だったなんて思いもしなかった。
その日、地震が起きたのだ。
私は崩れた城から放り出されたが、幸いにも軽い傷で済んだ。
家族への未練は薄い。それよりもレムちゃんだ。
しかし、辿り着いたレムちゃんの家は崩れかけており、本人も瓦礫に飲まれていた。
「痛い……。痛いよ……」
「レム――」
「カルトちゃん……」
真っ先に体が動いた。
「待ってて! きっと助けてあげるから!」
私は必死に岩をどかした。しかしレムちゃんの上にはとりわけ大きな岩があり、こればかりはどかせなかった。
「早く、早く出て!」
そう言っている間にも続けて地震が来た。崩れかけの家はさらに崩れ始める。
「カルトちゃん。あなただけでも逃げて」
「なっ。そんなの出来ないよ!」
「出られないの! 足を潰されたんだからどうやっても助からない!」
「おんぶするよ私が!」
「出来るわけないでしょ! それにこの混乱に乗じて夜盗も来るわ!」
「でも!」
「いい加減にして!」
その時、レムちゃんが両手で私を思い切り押した。それは彼女に残された精一杯の力だった。
その時、家がついに倒壊を始める。
土煙の中でレムちゃんは笑っていた。
「そのくまさんに名前を付けてあげて……」
その言葉を最後に、瓦礫がレムちゃんを覆った。
きっと助けてあげるから。
誓った言葉を自分で裏切った私はきっと、人形のように冷たい肌をしている。
結局私も瓦礫に足と腕を潰され、悶えながら街を彷徨っていた。
彼――アンセル様と出会ったのはそんな時だった。
「酷い怪我だ。かわいそうに。私が治してあげよう」
彼は一般的なライフ回復カードを私にかざした。すると複雑に折れていた手足が何事もなかったかのように治った。
起き上がってその人を見上げる。
「……今のは?」
「なんてことはありません。ただ、カードの力を実体化しただけです」
「カードを実体化?」
「ええ。これがあれば、困っている人を助けてあげられます。私はカードを実体化し、平和な世界を作ろうと思っています」
私は無心で聞く。
「実体化したカードなら、死んだ人を生き返らせたりとか、出来る?」
アンセル様は悲しそうな顔をした。
「……この災害で大切な人を失ったのですね」
アンセル様は私の頭を撫で、あるカードを見せる。
「このカードは『死者蘇生』。これを実体化すれば死者を蘇らせることが出来ます」
「ほ、本当に?」
「本当です。しかしこれを実体化させるにはまだ私の魔力が足りないのですよ。どうしたものか……」
私は生唾を飲み込んで言う。
「なら私が魔力を集めるわ。そのカードを実体化出来るまで」
アンセル様は微笑み、私を「光の世界」に加えてくれた。
さらにアンセル様は自らの力を私に分け与えてくれた。こうして私は混沌のデュエリストになった。
私の不出来で見殺しにしてしまったレムちゃんは、私の力で蘇らせてあげたい。
その姿を見ていて欲しい。だからくまのぬいぐるみに「レムちゃん」と付けた。
レムちゃんは時と共に私の声に応えてくれるようになった。
私には。私にはあなたの声が聞こえる。ずっとずっとお話してあげる。
そんな約束なんて破ってあげる。いつか体を取り戻してあげたら、お話だけじゃなくて一緒に遊ぼう。
【作者より】
ここまで読んでくださりありがとうございます!
今回は幕間と回想が一緒だったので若干長くなってしまいました。すみませんです。
いいね、コメントなどくださるととても励みになります。星での評価、レビュー、作者や作品のフォローなども入れてくださると泣いて喜びます。
次回は本日17:00〜20:00頃に投稿予定です。よろしくお願いします!
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