第24話「本当の気持ち」

 カルトは話を終えると、立ち上がってデッキを構えた。


「ジョーブ・ムトー。それからその仲間たち。どっちにしても私はあなたたちと戦い、勝って魔力を奪わなきゃけないのよ」


 そう言い放つカルトの足は震えていた。俺は言う。


「それは他の人を傷付け、時に殺めてでも叶えたい願いか?」


「……そうよ」


 震えてはいるが、確かな意思を感じるな。

 その時、ユーゴが前に出て、カルトのそばに寄る。


「カルトさん。君がレムちゃんを生き返らせるようとする気持ち、よくわかります」


 カルトは青筋を立てる。


「あんたに何がわかるってのよ」


「わかりますよ。だって僕、家族をアンセルに殺されたんですから」


 カルトが一瞬固まり、動揺した。


「……何? アンセル様が人を殺したっていうの?」


「奴とその配下は、殺した僕の家族に目もくれずに消えた。人を殺しておいて何の感慨も抱かない。アンセルはそういう奴なんだ」


「そ、そんなことない。アンセル様は平和を望む優しいお方よ」


「ならどうしてアンセルは君に混沌のデュエルの力を授けたの?」


「えっ」


「平和な世界を実現させる。それがアンセルの望みなんだよね。でも奴はそのために人を傷付け、時に絶命せしめるほどの力を君に与えた。この意味、わかる?」


「……なんだって言うのよ」


「アンセルは多分、目的を達成させるためなら山ほどの屍を築ける奴だ。そんな奴が君との約束を律儀に守ってくれるとは思えない」


「そんなこと……。じゃあもし生き返らせてくれたら? アンセル様が義理堅い人だったらどうするのよ」


「それも同じだ。もし仮にレムちゃんを生き返らせられたとしても、実体化したカードによる恐怖と牽制に裏打ちされた平和なんて、翻っても君とレムちゃんが笑って過ごせる世界じゃない」


 う、うまい。実際にアンセルからの被害を受けた人間の言葉は重みが違う。


「それに君は迷ってるように見える。レムちゃんを蘇らせたい。でも人を傷付けたくない。そこに君は矛盾を感じてる。違うかな」


「そ、そんなわけないじゃない」


「ならどうして君はショーブとのデュエルを中断したの」


「そ、それは……」


 ユーゴがそう言ったきり、カルトは押し黙った。そうしてようやく膝を下ろす。

 抱えていたぬいぐるみも取り落とし、その顔を俺たちに見せてくれた。

 濡羽色のまつげと黒くて長い髪を持ったごく普通の女の子だった。


「……混沌のデュエルは今日が初めて。私レムちゃんのためなら堂々と人を傷付けられると思った。でも違ったわ。実体化したカードに苦しむショーブの姿を見て、私は人形にはなり切れないって思った」


 カルトはうずくまり、涙を見せた。

 俺はカルトの目線に合わせて言う。


「それは君が人間だからだよ。目的のためになんでもやってやるっていう欲ボケじゃない証拠だZE。アンセルとは違う」


「アンセル様とは……」


「なあ。俺たちと仲間にならないか」


「えっ?」


「俺たちは混沌のデュエルを止めたいと思ってる。その目的もあって、奴の素性も探っている」


「素性を?」


「ああ」


 フィアナも寄って言う。


「さっきは傷付けたりしてごめんね。あなたがそんな理由で戦ってたなんて」


 フィアナがカルトの手を取ろうとしたその時。


「困るねえ。口説いてもらっちゃ」


 男は突如現れ、カルトの首筋に一撃を叩き込むと後ろに蹴り飛ばした。


「カルト!」


 カルトは気を失っている。


「カルトちゃんに何してんのよ!」


 フィアナは男に殴りかかった。しかし次の瞬間、男はフィアナの首筋に一撃を叩き込む。ファアナは一瞬でふらつき、気絶した。


(あ、あのフィアナが……!)


「腕に自信でもあったのかな? だが首筋を叩けばこの通りだ」


 こいつ。

 俺も立ち上がって抵抗しようとしたが、腹に蹴りを入れられたせいでうまく力が入らない。

 こいつとことん急所を。ユーゴは何してる。


「…………」


 ユーゴ。ユーゴお前、何を固まって。


「それにしても危ないところだったぜ。仲間はすぐに回収出来そうだ。ま、再教育はしないといけないがな」


 ……なんだ?


「お前、アンセルと同行していた……」


「うん? お前は?」


「……忘れたのか?」


「へへ。わりいわりい。俺どうでもいいことは忘れるたちでな。だが辛そうな顔してるな? 聞いてやるよ。何があった?」


 ユーゴが怒りの眼をそいつに向ける。


「『屍界』デッキの使い手が殺された。お前たちに!」


(何? 屍界はユーゴのデッキのはず。てことは、それ以前の持ち主が?)


 男は一瞬上の空だったが、すぐに合点がいったように言う。


「おお、あの一族! どこかの屋敷でコソコソ暮らしてたな。あいつら強かったぜ。久々に殺し甲斐を感じるくらいにはな」


 ユーゴがデッキを構える。声を怒りに震わせながら。


「……思い出してくれたようで嬉しいよ。身に覚えのない相手を倒すのは目覚めが悪いから」


「倒す?」


「そうだ。僕とデュエルしろ」


 男はため息混じりによそを見て、呆れた目でユーゴを見た。


「ま、いっか。どちらにしても計画は秘密裏。口封じだ」


 男もデッキを構えた。

 おいおい。隣の奴はユーゴの家族を襲った実行犯の1人だっていうのか?

 くそ。腹が痛い。痛いが弱音を吐いてる場合じゃない。立て。なんとか立て。


「ぐっ……」


 立てた。まだ腹が痛むがなんとか。


「ユーゴ、そいつは!」


「マクシム。アンセルに同行し、僕の家族を殺した男の1人!」


 やはりかそうか。


「俺は動ける。替わるか?」


「いえ!」


 ユーゴはかばんを俺のほうに投げ、叫ぶ。


「ショーブ。あなたはフィアナを連れて神都に行き、デッキを2人分強化してください! こいつは僕が相手をする!」


「何!」


「あなたのデッキはドレイクが来ないと機能停止に陥る。この弱点を強化で埋め合わせないといけない!」


 ドレイクデッキの弱点、やはり見抜いていたか。


「早く!」


 あいつ、いつになく本気の目だ。

 しかも怨敵を目の前にしながら状況を冷静に判断している。さすがだ。

 わかった。


「任せていいんだな」


「もちろんです。それに、あなたにこいつの仇を取られたら僕のほうでたまらない」


「わかった。任せる!」


 俺はまだ痛む体で立ち上がり、フィアナに向かう。


「させるかよ!」


 マクシムが襲い掛かるが、俺は奴を殴り付ける。


「ぐっ――」


(このまま突き抜ける!)


 さらに拳に力を入れ、マクシムを無理矢理退かせた。

 すぐに気絶しているフィアナを背負う。


(地下での強制労働が少しだけデュエルマッスルを鍛えてくれたZE!)


 よし、行ける。俺はフィアナを背負ったまま、神都に向かった。


「死ぬなよユーゴ!」


 ユーゴは顔つきを変えず、しかし指2本で俺にハンドサインを送る。

 かっこいいじゃねえか。






【作者より】

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 次回はちょっと長めです!


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 次回は明日12:00〜13:00頃に投稿予定です。よろしくお願いします!

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