第19話「地下デュエル場」(夢藤の過去編2/3)

 歓迎しよう。社会不適合者サテライトのクズどもの吹き溜まり――。

 地下デュエル場へ!






夢藤勝武

過去編2/3

「地下デュエル場」






 ここは「地下環境整備施設」。通称地下デュエル場だ。

 かき集められた社会不適合者サテライトのクズたちはここで地獄のごとき労働を課せられる。

 人権を得るにはデュエルで勝つしかない。

 勝てばパンは白米に。シャワーは風呂に。独房は和室に。もちろんデッキだって、勝って稼いでカードを買い、強くするのだ。

 デュエリストは各々に闘志をたぎらせ、時折開かれる大会や個人同士でのデュエルでしのぎを削る。

 それが地下デュエル場という通称の由来だ。


(だが俺は……)


 俺はと言えば、デュエルバスターズは子供の時に少しやっていた程度。

 その間にカードの種類やデッキの性質もずいぶん変わっていたようで、周りを見ればソリティア《長いターン》の末に無効だの破壊だのを相手ターンに繰り返し、圧殺するデッキが多数を占める。

 そんな俺に現代デュエルを教えてくれたのは――。


「今のデュエルはカードの応酬じゃない。対話拒否だ。相手の動きを封じるのが現代デュエルだ」


 同じ部屋の先輩、斬札勇戯きりふだゆうぎさんだった。

 俺と同い年の明るい人だった。


「君の歳なら小学生の時に名前くらいは聞いたことがあるんじゃないかな」


「聞いたことがあるどころか子供の頃にバリバリやってましたよ。でも俺の知ってる頃とはゲーム性がずいぶん変わってますが」


「まあそれが原因で商品展開が終わったところもある」


「お、終わったんですか!? でも、まさかこんなところでやってたなんて……」


「ここの管理を預かるのは大手グループ、企業『海刃かいば財閥』だ」


「か、海刃ってあの?」


「そうだ。海刃は様々な業界に挑戦した。デュエル・バスターズもその1つ。だが数年で展開は終わった。海刃はホビーを売り込むノウハウがなさすぎたんだ。例を上げるだけでも、度を越したインフレ、資産ゲーの加速化、対話拒否ゲー化などなど。原因を数えればキリがない」


「でも実際には」


「その通り。初めはあるここの班長グループがやっていたカードゲームでしかなかったが、時は移ろう。今やデュエルは人権を賭けたギャンブルになっている。しかも海刃はそれを認めている。様々な設備や制度で後押ししてるからな」


「く、狂ってる……」


「俺もそう思う。だが、奴らの悪どさを呪うのも今はあとあと。生きるためには早く現代デュエルを覚えることだ!」


「は、はい! よろしくお願いします!」


 俺は勇戯さんからデュエルを学んだ。

 ルールだけじゃない。盤面を把握したり、次の一手を予想したプレイングなどもだ。


 しかし1ヶ月経っても俺は勝てなかった。大会ではいつも負けるし、特に勇戯さんには1度も勝てたことがない。

 俺は問い詰めた。


「勇戯さん、どうやったらデュエル勝てるんですか? 勇戯さんの言う通りにやってもうまく勝てないです!」


 デッキを調整していた勇戯さんは俺のほうを向いて言う。


「お前が勝てないのは、デュエル1番大事なことを見落としてるからだ。なんだと思う?」


「……強いカードが足りないから?」


 勇戯先輩は首を横に振る。


「デュエルで1番大事なのは、デュエルを楽しむ心だ」


「デュエルを楽しむ心?」


「そうだ。楽しいから続けられる。楽しいからもっと強くなろうと思える。強さの秘訣はデュエルを楽しむ心。切り札は俺だ!」


 切り札は俺。それが勇戯さんの口癖だった。

 勇戯さんは実際にデュエルを楽しんでいたし、だから俺もそれを見習った。

 効果。名前。イラスト。フレーバーテキスト。デュエルを楽しむための導線を張り巡らせた。

 気付くと俺はデュエルにのめり込んでいた。


(一進一退の攻防、白熱する駆け引き! 迫力あるイラストに、世界観を彩るフレーバーテキスト! これがデュエルか!)


 勝っても負けても楽しい。

 俺は少しずつ勝てるようになっていた。











 ある日。建設中だった特設会場が完成した。


 ――なんかイベントがあるらしいぜ。


 ――デュエルがまた変わるんだってよ。


 ――参加賞に「床掃除」ってマジ!?


 仕事終わりのデュエリストがそこに集まっていた。俺たちもそこに駆け、確保した席で開演を待つ。

 すると、盛大な音楽と共に幕が開いた。舞台の中央で司会が言い放つ。


「デュエリストの皆様、よくぞお集まりくださいました! 本日は我々海刃財閥から皆様にささやかなプレゼントをお送りします!」


 プレゼンされたのは「超次元デュエル」だった。

 プレイヤーの腕に付けられた円盤「デュエルスキャナー」にモンスターや魔法を読み込み、実体のあるものとして出せるデュエルらしい。

 司会は実際にモンスターを出して、会場で暴れさせてもみた。会場のボルテージは一気に上がる。


(なんだよ、これ……)


 会が終わったあと、俺と勇戯さんは司会を問い詰めた。

 しかし司会はこう答えた。


「危険? 怪我を負ったらどうするのか? 確かに今はそう思うでしょう。しかしあなたたちもすぐに気付くはず。このデュエルの魅力にね」


 司会は意味深な言葉を残して去った。

 少ししてから勇戯さんは言う。


「勝武。このデュエル絶対に参加するなよ」


「もちろんです」


 俺と勇戯さんは、このデュエルには断固として参加しなかった。


 しかしほとんどのデュエリストは違った。

 娯楽の薄いこの施設で、超次元デュエルの誘惑は強烈だった。

 出したモンスターはフィールドを駆け回り、使った魔法による炎や風は実際のものとして襲い掛かる。

 肌で感じる迫力に、デュエリスト本人はもちろん観客も熱狂した。


 そんな中、海刃はある知らせを地下デュエル場に届けた。


 ――大会で優勝した者を「人間」にしてやる!


 次の超次元デュエル大会で優勝した者を釈放。場合によっては海刃の社員として引き抜くとのことだった。恐らく超次元デュエルの参加者を増やすためだ。


 知らせを聞いた夜、部屋で勇戯さんは言う。


「こんなチャンスを待ってた気がする」


「勇戯さん?」


「俺は無罪で連れて来られたんだ」


 無罪? それって。俺は言う。


「……俺も同じです。罪をなすり付けられて、よくわからないうちにここに来たんだ」


 勇戯さんは優しい目で言う。


「そうか。お前に話しかけようと思った理由がわかった気がする」


 勇戯さんは立ち上がって言う。


「決めた。俺、大会に出るよ。帰りを待ってる人たちがいる。父さんに母さん。じいちゃん……。勝って抜け出して、みんなの笑顔をまた見たいんだ」


 勇戯さんはいつになく本気だった。


「それに俺は、人を傷付けるデュエルが許せない。そんなものが一体何を作るっていうんだ」


 俺も同じ思いだった。デュエルが繋いでくれた縁がある。

 それに、いつまでもぐずついてはいられない。これは復活のチャンスなんだ。

 決めた。


「勇戯さん。この大会、俺も出ます」


「勝武」


「ここを出たら俺、海刃に入ります。そこでキャリアを積んで、いつの日か超次元デュエルをやめさせるんだ。もう誰も傷付けさせないために」


 デュエルをしてわかった。デュエルは人の心を通わせる力があることを。荒んだ心を綺麗にし、よりよい人生を歩ませる力があることを。

 デュエルは、ただ。

 ただ、それだけで楽しいんだって。


「そうか……。じゃあ俺とお前は、共に復活を目指す相棒だ!」


 俺は顔を綻ばせる。


「……ああ! よろしく頼むZE!」






【作者より】

 ここまで読んでくださりありがとうございます!

 急に地下外出録ハ〇チョウが始まってしまった……。


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 次回は明日12:00〜13:00頃に投稿予定です。よろしくお願いします!

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