第20話「相棒」(夢藤の過去編3/3)

 人間になれるデュエル。何がなんでも勝つのだ。

 俺は大会の前日、勇戯さんから話しかけられた。


「決勝。もし俺とお前がぶつかっても恨みっこなしだ」 


「もちろんです! 全力で来てください!」






夢藤 勝武

過去編3/3

「相棒」






 当日。いつもの特設会場で大会は始まった。

 試合カードは俺より先に勇戯さんから始まった。


「ボルテックス・ドラゴンの攻撃!」


 勇戯さんが使うのはボルテックス流と呼ばれるデッキだ。

 闇の国、種族アビス・ドラゴンのボルテックスドラゴンを基点に場を蹂躙。最後は1万を遥かに超える圧倒的火力で敵を葬り去る超攻撃的デッキだ。


「ボルテックスの効果発動! 場に出た時、カードを1つ破壊する!」


 ボルテックスの放つ闇の波動が相手カードを消し飛ばす。

 試合は文字通り命を賭けたものだった。モンスターや魔法が会場を荒らし回り、席で座っている俺の心臓を揺らす。


(超防護ガラスが張られてもなおこの衝撃! 勇戯さん!)


 しかし試合はあれよあれよという間にクライマックス。試合全体の流れは勇戯さんが優勢。しかも相手の残りライフは300。

 この攻撃で勝てる。

 しかし。


「俺は……ボルテックスでダイレクト……」


 勇戯さんは震えていた。いや、それは最初からだった。モンスターの攻撃や魔法の発動も手心を加えたものだったところからもそれがよくわかる。

 人を傷付けるデュエルに慣れていなかったのだ。超次元デュエルへの耐性のなさ。それがここに来て限界を迎えていたのだろう。

 勇戯さんはついに膝を付き――。


「俺はこれで、ターンエンド……」


 そう宣言した。

 腰を抜かしていた相手はようやく自分のターンに気付いたのか、ドロー。冷や汗をかきながら叫んだ。


「へ。へへ。甘いぜあんちゃん。俺は魔法『フレイム・ボール』を発動。相手のモンスターを1つ破壊し、さらに500ダメージだ!」


 相手は残りライフ100の勇戯さんに容赦なく攻撃をした。


「半端な気持ちで入って来るなよ、超次元デュエルの世界によお!」


 勇戯さんは爆発に飲まれ、試合終了のブザーが鳴る。


 煙から現れた勇戯さんは酷い傷を負っていた。素人でもわかるくらいの出血だった。すぐに事務員が勇戯さんを医務室に運び、俺もそれを追う。

 しかし、既に応急処置でも手当てが出来ないほどの傷だった。医師は「こういうことはよくある」と残し、まだ手当ての出来る患者にほうに向かう。

 俺は咄嗟に医師に飛びかかる。


「待てよ、あんた医者なんだろ! 手当てしてやれよ!」


「悪いが治る見込みのない者には施しはしてやれない。器具や人員だって限りがある。ましてやここは地下デュエル場。人手も設備もなお足りない」


「くっ……」


「むしろ感謝して欲しいくらいだ。悲惨な結末から少しだけ目を背けてやってる、俺たちみたいな医者にな」


「なんだと……。お前、お前それでも医者――」


 その時、勇戯さんが「やめろ」と精一杯に叫んだ。


「俺はもう助からない」


「な、何言って……」


 俺は布団で仰向けになる勇戯さんのほうに駆ける。


「そ、そんなことない! きっとまだ助かる見込みが……」


「見ればわかるだろ。俺は今の衝撃で全身が複雑に骨折した。内臓も無事じゃないだろう。ここじゃなくても手遅れだ」


 俺は震えるしかなかった。


「勇戯さん……」


「あの時、ボルテックスの攻撃で俺は勝てていた。だが俺は負けた。いや、負けを選んだんだ。それは他でもない、俺の心の弱さが招いた結果だ……」


 勇戯さんの声がどんどん小さくなっていく。


「お前は俺のような臆病者になっちゃいけない。栗坊甘えは捨てなきゃいけないんだ……」


 勇戯さんはそこまで言うと、何度も血を吐く。


「勇戯さん!」


「気にするな……。それよりも勝武。お前の夢はなんだ」


「お、俺の夢はここを出て、このデュエルをやめさせること……」


「わかってるじゃないか……。ならもうためらうことはない。何かを目指すために戦うことは罪じゃない。傷付き傷付いてでも最後には夢を叶えろ。俺の相棒はそういうデュエリストだ」


 勇戯さんは俺の手を握って言う。


「お前には、人を傷付けるデュエルを無くして欲しいんだ」


 勇戯さんはそう言って、懐から何かを取り出した。


「このカードは……」


「俺がここで苦楽を共にしたカード。お前に託す」


「遊戯さん」


「ラッキーカードだ。こいつがお前の所に行きたがってる」


 そこまで言うと、勇戯さんは眠った。

 決して目覚めない眠りに……。






 俺は煮え切らない怒りや悲しみ、やるせなさをデュエルで解き放った。

 だが、俺は決して人を傷付けないようにモンスターや魔法を操った。


 ――もっと暴れろ!


 ――燃えるデュエルはどうしたあ!


 ぬるいデュエルに、観客のブーイングは鳴り止まなかった。

 だが勝負は勝負。俺はなんとか決勝まで辿り着いたのだ。


 ――何かを目指すために戦うことは罪じゃない。傷付き傷付いてでも最後には夢を叶えろ。俺の相棒はそういうデュエリストだ。


 俺と対戦相手は舞台に向かった。司会が俺たちを紹介する。


「まずは赤コーナー! ライフ回復をダメージ変えるコンボでここまで勝ち進んで来た! TUEEEカードを見せてくれシモッチ! しもざわひろし選手だ!」


 俺は息を飲んで舞台に上がる。


「続いて青コーナー! 斬札選手の切り札『ボルテックス・ドラゴン』を受け継ぎし男! 無念を晴らせるか! 夢藤勝武選手!」


 俺には勇戯さんがいる。だから勝てる。いや、勝たなければいけない。

 その息で望み、試合は俺が優勢だった。

 これで勝てる。とどめの一撃!


「行け『ボルテックス・ドラゴン』!」


 俺はボルテックスに命じる。

 するとボルテックスは口から火を吐き出した。











【夢藤起きる】


 俺はそこで目が覚めた。


(でも、俺は結局負けた……)


 ――俺が破壊するはとうしょう。お前だあ!


 ――何! そんなこと出来るわけが……。


 ――俺のデュエルスキャナーは改造してあるんだよ! 地下デュエル場に献金をしているからな! TUEEEEEEEE!!!!!


 改造されたデュエルスキャナーで『転生プログラム』を使われ、死んだ。

 結局、勇戯さんに伝えられなかった言葉――。


 相棒。


 それを叫びながら。

 未練。

 と言うにはあまりにも重い未練……。


 ただ、この世界ではまだやり残していることがある。混沌のデュエル復活。止めること。


 ――お前には、人を傷付けるデュエルを無くして欲しいんだ。


 場所は変わっても、俺の目指す場所は同じだ。人を傷付けるデュエルを無くすこと。

 そのためには、ユーゴの仇たるアンセルを倒さなければならない。


 隣で眠るユーゴとフィアナを撫でた。


(大丈夫。俺は仲間がたくさんいる……)


 俺は幸せだ。志を共にしてくれる仲間がいる。友がいる。

 もう、誰も失わせはしない。

 勇戯さん。見ててくれ。







【作者より】

 予定が詰まってて少し投稿が遅れてしまいました。申し訳ありません。ですがここまで読んでくださりありがとうございます!

 これにて夢藤の過去編は終わりです! 彼のキャラ像が掴めましたら幸いです!


 いいね、コメントなどくださるととても励みになります。星での評価、レビュー、作者や作品のフォローなども入れてくださると泣いて喜びます。

 次回は本日17:00〜20:00頃、いつも通りおまけ投稿予定です。よろしくお願いします!

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