最終回「ただいま」
【夢藤】
騒がしくて、忙しくて、楽じゃない。
それでも満たされた生活。そこに俺はいる。
幸せなはずだ。
はずなんだ……。
俺は確かに仲間と共に……大袈裟かもしれないが世界を救った。
でも、俺がいたことで起きた災厄はなかったことにはならない。
いくらデュエルが強くなっても、結果だけは常にある。
割り切れるだろうか。振り切れるのか。
噛み締める平和の最中、そんなことを思うのは忙しない日々のふとした時間ではなく、こんな夕刻。赤い空が眩しい時だ。
そろそろカルトが俺たちのところに戻ってくる。
俺は買い物を済まし、下宿先への帰路についていた。
――帰る場所がないならこれから作ればいい。落ち込むのは、仲間たちの反応を見てからでも遅くはないと思う。
この世界に居場所を作ること。待ってくれている仲間たちがいるのは確かだが、そもそも俺自身この世界に関わるべきではなかった。
思うと声色も沈む。重い声でドアを開ける。
「ただい――」
直後、俺は思わず声を上げた。
「え……」
部屋に誰もいない。
「みんな?」
返事はない。俺は心配になり、ドタドタと部屋を駆け回るがやはり返事は1つもない。
(どうなって……)
その時、視界の端に何か――いや、誰かが映った。
埃だらけでうずくまっている。
「フィアナ!?」
咄嗟に駆け寄る。見間違いはない。確かにフィアナだった。
「無事か! どうした何があった!」
「知らない人が押し入ってきて、みんな逃げたけどあたしだけは……」
「みんなは?」
「あたしはみんなを逃がすために戦ったけど強かったわ……」
「バカな。お前がこんな」
俺か? また俺がいたからみんなに何か……。
「逃げた先はみんなが教えてくれたから、ついてきて……」
ボロボロのままフィアナが立ち上がる。
「おい無理するな!」
「いいから! みんなそこで待ってるんだから」
「わ、わかった。案内してくれ。背負おう」
フィアナを背負い、なんとか外に出る。
その時、またも視界の端に何かが映った。
(なんだ今のは……?)
「い、今の奴らよ! 黒ずくめの連中! あいつらが押し入って……」
「何!」
すぐに追うつもりだったが、今は状況がまずい。
「早めに行こう」
そう言って外に出る。
一体何が起きた? いや、これは俺たちへの狙い撃ちじゃないか? 夕暮れが眩しい。
(まさかとは思うがアンセルの……。いや、一派は今まだ娑婆にはいないはず。この期に及んでカルトの離反は考えられない)
ならば残党か?
薄暗がりの広がる空の中、やはり視界の端で黒ずくめたちがちらつく。それが意識をぶつ切りにする。
あいつら、なぜ襲ってこない。まさか様子見だけか?
いや、しまった。もしかするとあれか? あれならば目的は既に達成しているだろう。後は動向の確認だけなのも納得が行く。
思い切って聞いてみる。
「デッキ、取られてるか?」
「ちゃんとあるよ」
「そうか……」
違う……だと? なら奴らの目的はなんだ? 本当にわからない。
「道、右に曲がって」
「おう……」
黒ずくめたちはついてくるように俺たちを取り巻く。
目的がわからない。わからないが、奴らの挙動に目を配らなければいけないのは確かだ。
そう思った時、黒ずくめの1人からカードが飛ぶ。
「くっ!」
咄嗟に飛び上がったが、フィアナの体重で姿勢を崩して倒れてしまった。
「いやんラッキースケベ! おっぱいでかいのがそんなにいいの!?」
(『床掃除』のカード!)
いや、そんなことは今どうでもいい。
というよりカードが次々飛ぶ。
「悪いが立ってくれフィアナ!」
「うん!」
「えっ」
フィアナはなんと元気に立ち上がり、俺の手を強めに握って走り出す。俺は半ば引きずられる形で引っ張られる。
「げっ……」
黒い影はそんな声を上げながら俺たちを追う。フィアナの爆速に驚いたのだろうか。驚いているのは俺もだ。
「フィアナ。お前あんまり傷付いてなくないか?」
「そんなわけ……あーいたた! 痛いよ痛い! 骨折れた」
「何してんだ……。ちょっと止まろう」
「う、うん。あ、でももうちょっと先でね」
そう言ってフィアナが加速する。俺はほとんど引っ張られる。制御がつかない犬を縄で抑えようとする飼い主の気持ちがわかる。
違和感。
何かおかしい。黒ぐずめの動きのは俺たちの一挙手一投足にビクりと反応しつつも、カード投げ以外は決して手を加えない。
「あ、街が見えてきたね」
「ああ……」
そんなこんなで引っ張られ、辺りはもう暗い。
「あー疲れた! この辺りで休もう」
「全然もうちょっと先じゃなかったZE」
「3分くらいでしょ」
「30分だが!?」
フィアナの体力バカにも随分慣れたがまあいい。ひと息つけた。
それにしても辺りはもう暗い。黒ずくめはもう暗すぎで見えないし、フィアナも顔もよく見えない。ここがどこかさえ。
だが、わかったことがある。
「はあ……。フィアナ、もういいだろう。種明かししてくれ」
「お、何を明かすってのよ。あたしの腹筋の数?」
「まずお前の様子だ。格闘でお前がやられるってことはまず考えられない。屋外でなるんなら外がもっと荒れてるだろうしな。それによく見ると傷もなかったし、埃はあるがわざとつけたもののように見える」
「今オーガっつった?」
「それから黒ずくめ。カード投げ以外まるで手を出してこない」
「ゴブリンはさすがに言いすぎじゃない?」
「狙うならもっと効果的なものを選ぶはずだ。しかも明らかに俺らの動きに反応して動いている」
「何が言いたいのかな」
「黒ずくめとグルだな」
「…………」
「意図的にこの辺りに俺を誘い込んだんじゃないのか」
その時、ファアナは立ち上がった。
「ふっ。さっすがショーブくん。あたしの上腕二頭筋の数までお見通しとは……。そうよ。あたしはわざと君をここに誘い込んだの」
「なんのためだ」
「それはね。君を新しい家に招待するため!」
フィアナは満面の笑みを浮かべ、背後にあったベールを引きちぎる。相変わらずの怪力で。
「い、家?」
明かりが一気に灯る。電気か?
というか大きい。俺の元の世界の家よりも大きい。外装は異世界よろしく中世ヨーロッパ風だが、設備もしっかりしている。
「この家は?」
その背後から、先ほど俺たちを追いかけていた黒ずくめがその正体を明かす。
「「じゃん!」」
「お前ら……」
黒ずくめの声はユーゴとカルトだった。
「な、なんでお前らが」
黒ずくめを脱ぎながらユーゴが答える。
「覚えてないんですか? 大家さんの家を引き払った時、言ったこと忘れたんですか?」
「大家さんの?」
大家さん。引き払いの時の言葉。
――短い間クソお世話になりました料でダイレクトアタック!
違う違う。
――ま、しばらく転々としながらクエストだな。で神都や政府関係に今回のクエストの情報が行き渡ったら俺たちを売り込む。もちろんアンセルの情報も探さないとな。
「転々としながら……。あ、宿! 言ってたなそんなこと!」
「でもぶらりの生活じゃ危ないからちゃんと家を買ったんですよ」
「初耳だZE!?」
「大事なことじゃないですか。忘れてたなんて」
「そ、そうだったな。いや、というか待て。カルトがここにいるってことは」
カルトも黒ずくめを脱ぎ、笑顔で答える。
「釈放されたのよ。このサプライズのために、あなたには黙ってたの。ごめんね」
「レムちゃんは」
「もう大丈夫。お別れはアンセルと戦った時にもう告げたの。それに今は仲間がたくさんいるわ」
「仲間……。なんで、なんで俺が仲間なんだ……」
拳を握りしめる。
「アンセルの言葉を聞いたはずだぞ! 奴は俺を狙って計画を実行した! 俺がいたからこの世界が歪んだ! 取り返せないものが多すぎる。幸せになるべき人が不幸になって、生きるべき人が死んだ。俺が、俺がいたから――」
その時、俺の背後から声が聞こえる。
「そんなこと、皆は気にしていないようだぞ」
肩に手が置かれる。
振り返ると、威厳あるエルフの王がそこにいた。
「パンゲア王」
「君は確かに計画の一端として組み込まれてしまった。しかし前も言ったようにそれは貧乏くじだった」
「だとしても……!」
「それでも君は世界を救っただろう? 君や君たちはその頑張りで辻褄を取り戻したはずだ。皆はそれに感謝しているし、仲間たちは君が隣にいて欲しいと思っているようだ。でなければ君は今ここにいないだろう」
「う……」
「君たちの旅路は悪に選ばれもしないし、君たちの絆は破壊されないのではなかったか?」
その時、この戦いを乗り越えてくれた仲間たちが俺のそばに寄る。
「ショーブくんひっどーい! サプライズを素直に受け取れない男の子はモテないよ!」
「ああいう大事なことに限って君は忘れるんだから……。あんまり突っ走らないでください」
「レムちゃんをぬいぐるみだなんて言わなかったの、あなたが初めてなのよ?」
「みんな……」
俺は脱力し、膝をついた。
俺は。
俺は何も言えなかった。
答えは簡単だったんだ。素直になればいい。
「そっか……」
貧しい生まれだったからかな。俺はやっぱりバカだ。
みんなの気持ちを素直に受け取る。こんな簡単なことが出来なかった。
その時、玄関がガチャリと音を立てて誰かが出てくる。
「点検終わり! ム所経由であいつから電気工学を色々教わったが、言うは易し。なかなかに設備がきつかったな。ま、それでもやれちまうのが俺のすげえとこなんだが」
汗だくの埃だらけでバルムンクさんが出てきた。
「ショーブの旦那。何固まってんだよ」
「あ、ああ……」
俺は諦めたように頬が緩んだ。
(ああ、すごい。みんなすごいよ――)
こんな俺を信じてくれた。そばにいてくれた仲間たちがいる。
見えるけど、見えないものを信じてくれた。
(きっと、信じてくれるんじゃないか。そばにいてくれるんじゃないか)
その時、後ろから声がする。俺がくじけそうな時、支えてくれた声が。
――今日のお前のムーブは地味すぎるぜ。相棒。
誰かに背中を押された。そうだな、相棒。
でも、振り返りはしない。その声が誰なのかはもう、知ってる。
「ああ、わかってるZE。相棒」
俺のバトルフェイズはまだ終了していない。
転生しても俺のターン。
渇いた叫びをあげて、闇がもう1人の自分を作りそうな時。
届かない思いに張り裂けそうな時。
見えない
そんな不確かな日常を支える切り札がある。
人はそれを絆と呼ぶ。
瞳を閉じた視界の果てで、俺はいつでもみんなの笑顔を探すだろう。
俺の魂が眠る世界は、もうある。
右手を横に出し、親指を出して進む。
これは、いつか光の中に完結する物語。
だから言おう。今は声をあげて。
最終回
「ただいま」
【作者より】
ここまで読んでくださり本当に、本当にありがとうございます!
これにて転生したデュエリスト、夢藤勝武のターンは終了です。次は読んでくれた皆さんのターンです。何か思ってくだされば嬉しいです!
最初の連載開始から7ヶ月。色々ペースも落ちたりしましたが本当に皆さんに支えられました期間でした。
文字数17万字。後書きとか含めるともうちょっと本文は減りますが、これほど長い物語を書いたのは初めてです。正直後半になるほどきつい旅でした。
そんな悩ましい時に皆さんの応援の声を見返したり、ポイントやPVとかの推移なんかも眺めてなけなしのモチベを振り絞って自分の尻を叩きまくりました。
尻を叩くと赤くなりますよね。初期を読むとすんごい顔が赤くなります。恐ろしく適当な文章。俺でなきゃ悶絶しちゃうね。
元々この作品はここまで長くなる予定はありませんでした。1章か2章くらいで終わり、俺たちのターンはこれからだエンドのつもりだったのです。
ですが、私の予想していた以上の反響がありました。
「嘘だろ? 今落ち目の異世界転生モノだぜ?」
……と思いつつも読んでくださる皆さんを裏切るのも不義理に思いました。
「短編や中編なんて半端な旅で終わらせるな! これは長編に挑むチャンスなんだぞ!」
そう思い、あやふやな舵取りながらもここまでやってきました。そのおかげで、繋ぎでできたキャラや展開があったりなかったりします。
本当に手探りでした。ネット上に溢れる小説の書き方とかひったすら貪ってました。ネット小説の書き方って普通に小説の書き方とかなり違ったので勉強になりました。
そしたら出力です。原稿に向かい、合間に友達とデュエルして麻雀してデュエルしてデュエルしてコロナになってお絵描きしてお絵描きして。でもそんな試行錯誤が楽しくもあったのです。
ランキングでは1位にはなれませんでした。
でも皆さんの1位になれるつもりで書きました。
皆さんの心を動かせたら、それは私にとってのナンバーワンなのです。
最後に、私と繋がってくださっている作家の皆様。
最後なりましたが原稿の間、割と怠惰に任せて皆さんの近況が掴めてないです。
本当に怠惰です。申し訳ありません。少しずつお伺いしていこうと思います。あの人のあの作品が楽しみです! 今行くよおハニー!
さて、大きな区切りを迎えてのこれからの予定についてです。
しばらくはヨムヨムなペースにしようと思います。もちろん短編もあげつつです。あと溜めはまだまだですが、また長編にも取り掛かっています。反省をしていない。なるほど、これは重症だな。
それからそれから! 実はあるフォロワーさんに影響されてエッセイを書いてみたいと思っているのです。内容は秘密! いずれ予告します!
そして最後にいつもの挨拶。
いいね、コメントなどくださるととても励みになります。星での評価、レビュー、作者や作品のフォローなども入れてくださると泣いて喜びます!
長い間、本当にありがとうございました!
俺はこれでターンエンド!
【完結済】転生しても俺のターン! 〜おい、異世界でもデュエルしろよ〜 コザクラ @kozakura2000
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