第52話「それぞれのその後」

【夢藤】


 アンセルとの決戦から半年が経った。

 混沌のデュエリストや光の世界の構成員は全員、然るべき処罰を受けた。


 それぞれの処遇の面で見ると、神都は諜報。

 ガレア村は王族への傷害と、国家転覆に伴う政治的教唆。

 ドワーフの村――オリハルクは遺跡の消失と都市の破壊活動。

 それぞれ相当の被害を被ったため、3地域での協議の末メンバーは以下の処罰となった。


 まずハガー。奴に関しては酌量なく牢屋に叩き込まれた。まあ、これはな。


 続いて覆面、デュランダル。彼も相当な罪を負った。10年は出てこられないらしい。


 ――あのバカが戻るまでは俺も現役のつもりだからよ!


 これはバルムンクさんの言葉である。あの人のことだから現役を頑張ってくれと願う俺と、無理しないでくれと願う俺がいる。


 ダヴィンチさんは一族で話し合い、やはり罰を受けることとなった。というより会議で開口一番、自首すると決めたらしい。曰くフィアナに嫉妬していたようだ。

 ただし病弱につけ込まれたところもあり、わずかながらに情状酌量の余地が認められた。

 パンゲア王は彼への償いのため、忙しい公務の合間、頻繁に面会をしている。

 そんなこともあってか、体質は少しずつ良くなっているらしい。病弱はもしかしたら心因性なのかもしれない。

 俺は彼のことはよくは知っていないが、まあ。よくなるといいなと思う。


 そしてカルト。

 彼女は軽い罪で済んだ。理由としては、犯行が俺のみへの凶行で済んだことと、アンセルに唆された挙句友人は結局取り戻せなかったことなどで社会的処罰は既に受けた、と認められたからしい。最終的には計画を阻止する側に回ったのも大きいだろう。


 それ以外の雑兵の扱いはよく聞いていない。俺もあまり興味はない。


 そして全ての元凶、アンセル。

 奴は今、すごいことになっている。俺はすっかり死刑だと思っていたがある意味それより酷い目にあっている。

 3地域曰く「奴の犯した罪は死では償えるようなものではない。その生涯を以って他の全てに無休で尽くすべし」とのこと。

 奴は今――。






第52話

「それぞれのその後」






【アンセル】


 汗と粉塵。私はそこに縛り付けられた。

 ここはドワーフの街、オリハルク。

 ……の遺跡跡地。

 基地としたところの解体と遺跡の復興をさせられている。私が光の世界にスカウトした雑兵たちと共に。

 なお給与はない。私の働きで得られた利益は全てガレア村や神都への被害に当てられる。つまり自由に出来る金がない。これは雑兵以下の扱いだ。彼らにすらわずかな給金があるというのに。


「オラァ! アンセル何やってる! へばってねえで働け!」


「も、もう無理です……」


 所長はそう言って私を馬車馬のごとく働かせる。

 冗談ではない。なぜ私がこのような。

 その時、所長が休憩の笛を鳴らす。


「チッ。だらしねえ。休憩!」


 所長の声で私は絶望する。


 ――あー終わった終わった。


 ――エンタメ弁当今日格安じゃん!


 ――かっとビング弁当増量だってよ!


 ――俺とデュエルしろおおおおお!!!


 雑兵は各々の声をあげて現場から引き上げる。

 休憩。それはわずか30分ほどだが、雑兵にとっては解放の瞬間だ。

 しかし私にとってはさらなる地獄の始まりである。


「おいアンセル。俺とデュエルしろよ。デッキ調整してんだよ今」


「ひっ。所長」


「おいおい。今は休みだから名前でいいんだぜ」


 所長は真昼間から酒をあおり、言う。


「ただの日雇いからまさかの役人に昇進だぜ。俺の考えてること、わかるよな」


「わ、わかんないっピ……」


「チッ。鈍いなおい。俺はここでも異名を響かせんだよ。さあ言え。俺の名前は!」


 ハ――。


ハンデッド・手札殺しのキース……」


「イェア! なあアンセル。今日は何枚ハンデス手札破壊しようか?」


「え……。そんなの」


「わかるぜ初手5枚全部だよな! 先んじた者だけが相手の絶望を見ることが出来る!『男のデュエル』開始の宣言をしろ伊蘇野!」


 デュエル開始ィィィ!!!(悶絶)






【夢藤】


 ……という話だ。オリハルクの復興を全面的に見ているバルムンクさんからの報告なので多分間違ってない。

 キース、あれからどういうわけか昇進してしまったらしい。まああいつもそんな悪い奴じゃない……のかな。負けた時はしっかり敗北を認めていたし。

 そんなあいつから手紙が届いた時は驚いた。


 ――アンセルでデッキ調整したら手札全部枯らすからな。


 お前いつも自分に手札枯らしてるだろ。

 というかお前の戦略は既にバレてるからこの文面、意味ないのでは? などと思いつつもあいつのデュエルを実は楽しみにしていたりする。


 そんな俺はというと今、ユーゴはフィアナに貨幣経済をみっちり教え込んでいる。あいつはそもそも――。


 ――金って何? どんな効果? いつ発動する?


 ――何!? お金とはデュエルではないのか!?


 なんてことを言っていたので本当に大変だったが、とりあえず覚えてはくれた。

 そうそう。ギルドにもしっかり参加してくれるようになった。ちゃんと稼ぎ頭になってくれた辺り家計的には嬉しい限りだ。

 そんな2人がたまにどこか出かけてしまうのだが、何をしているのだろう?

 まあ、いいか。

 後はカルトが戻ってくれたら。




 騒がしくて、忙しくて、楽じゃない。

 それでも満たされた生活。そこに俺はいる。


 幸せなはずだ。


 はずなんだ……。


 俺は確かに仲間と共に……大袈裟かもしれないが世界を救った。

 でも、俺がいたことで起きた災厄はなかったことにはならない。

 いくらデュエルが強くなっても、結果だけは常にある。


 割り切れるだろうか。振り切れるのか。


 噛み締める平和の最中、そんなことを思うのは忙しない日々のふとした時間ではなく、こんな夕刻。赤い空が眩しい時だ。


 そろそろカルトが俺たちのところに戻ってくる。

 俺は買い物を済まし、下宿先への帰路についていた。






【作者より】

 キースまさかの再登場!

 そして次回、最終回。ショーブの帰るべき場所とは……!


 最終回は本日21:00〜0:00更新です!

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