第51話「果たされた使命」

 ライトニング・ドレイクの黒い雷がアンセルを襲った。

 俺はすぐに駆け寄り、奴の眼窩にある魔力収集の機械を壊そうとする。

 が、その機械は既にライトニングの雷撃によって粉々になっていた。


「機械は壊れていたか。棚ぼただZE」


 すると他の仲間たちも後ろからやってくる。

 先に言葉を発したのはバルムンクさんだった。


「違法建築、国家転覆、混沌のデュエリストの生成、魔力の悪用。罪状が大きすぎるぜ。ショーブの旦那。ここは俺が――」


 バルムンクさんは怒りに震える拳を抑えきれないようだった。


「待ってくださいバルムンクさん。俺はこいつに聞きたいことがある」


「ん?」


「エルフの皆さん。ツタか何かを手錠代わりに出来ませんか?」


 すると、エルフの兵士1人が頃合いのものを作り、寄越してくれた。


「これで一旦縛ります」


 そうして俺は気絶しているアンセルをふんじばった。


「起きろアンセル」


 俺はアンセルの頬を何度も叩き、起こした。


「ぐっ……!? これは!」


「動けないようにしておいた。それよりも聞きたいことがある」


「なんだ……」


「あの『死者蘇生』というカードはなんだ?」


「……あれは我ら『光の世界』が先祖代々守ってきたカードだ」


「光の世界……。神都の転覆を企てた宗教団体だったな。確か150年前だったか。お前、そんな昔から生きてたのか?」


「バカを言うな。混沌の力を使い、専用のカードで寿命を伸ばしていただけだ。全ては使命のため」


「使命?」


 アンセルはゆっくりと語り始めた。






第51話

「果たされた契約」






【アンセル】


 この世界において国という共同体ができる以前、世界は魔法に包まれていた。


 魔法の溢れる世界。それは混沌の世界だよ。

 魔法とは使い方次第でいかようにも災いを引き起こせる、個人単位の暴力装置だ。事実、エルフはそれを利用して世界の覇権を握った。


 ああ。その時代、種族は今よりもはるかに多かった。

 今や絶滅して久しいドラゴン。少数民族となったゴブリン。他にも数々の種族がこの世界を生きており、その全てが魔法を扱った。


 起源神は争いに満ちたそんな世界を再編なされた。その御心でカードにすべき種族とすべきでない種族をお定めになられた。

 中にはエルフのように魔力量は据え置きのまま生き残った種族もいたがな。むしろその魔力量がデュエルの礎を築いたわけだが。

 

 ……話が逸れた。つまり今の私たちは神々に認められた種族の生き残りというわけだ。

 その後、魔法という技術体系は平和を愛する神の御心により決闘魔法へと。


 この平和を維持したい。デュエルが広がってもなお繰り返される争いに憂いた我らは光の世界を設立した。

 最初は宣教と功徳に始まった。しかしそれではだめだった。結局、口だけでは何も解決しない。

 歴史において最も武の優れたエルフが世界の覇権を握ったように、平和とは常に暴力ののちに掴み取るもの。

 考える葦が実現できる平和は、暴力あるいは威圧ののちの平定しかない。そこで我らは先祖代々守ってきた「死者蘇生」に目をつけた。

 そのカードは死者を5分ほど蘇生するものであったが、これを起源神が蘇るように細工した。無論魔力でだ。


 後は魔力を集めるだけ。起源神をこの世に呼び戻し、神の威圧による政治を敷く。起源神に背く者を間引き、生存戦略として全ての生命が起源神の名の下に収斂するよう適応させるのだ。

 その目的の下で計画は始まったが、死者蘇生を実体化させる魔力は予想を上回る多さであった。

 だから魔力の豊富な種族で溢れる神都を襲撃し、魔力を奪い尽くす必要があったのだ。結果は敗北に終わったがな。

 しかし私だけは生き残った。光の世界はまだ終わらせるわけにはいかない。

 諦めきれなかったのだ。その後の世界をな。


 私は、夢が叶った後の世界を見てみたかった。

 彼らの思い描いた理想は正しかったのか。それが知りたかった。

 しかし寿命はある。だからカードの力を使い、悠久の時を過ごせるだけの寿命を手にした。

 神々にひれ伏す生命が築く世界が果たして本当の平和なのかどうか――。











【ショーブ】


「その理想のために、お前は一体どれだけの犠牲を払ったと思っている」


「踏みつけた蟻の死骸を振り返ると思うか。だがこれだけは言える。私はそれを無視してもよい権利がある」


「なんだと?」


「私は神に選ばれた一族の生き残りだ。啓蒙と選民の義務ある。その子孫たる私も同じだ。それは異世界人であるお前すら例外ではない」


「お前」


「そう大袈裟に捉えるな。混沌の力も完璧に切れた今、全て最期の言葉さ。どうせ殺すのだろう? ならばと好き勝手に言っただけだよ。無論本心だがね。むかつくだろう。なら殺すといい……」


「ああ。正直殺してやりたい気分だ。だが俺にはお前を殺す権利はない」


「何?」


「ユーゴ」


 後ろで待っていたユーゴを呼んだ。ユーゴは酷くやつれた顔でありながら、諦めにも似た虚ろな顔をしていた。


「元より俺はユーゴと契約を交わしていた。協力してお前を倒し、その国の治安機構にその身柄を引き渡すとな。そうしないとユーゴと交わした契約を履行したことにはならない」


 そう言ってユーゴのほうを見る。


「僕は契約通り、引き渡したいと思います。それがショーブとの義理だ」


「いいのか?」


「正直今すぐにでも殺してやりたいくらいだけどね。でもそんな個人的な感情よりも、僕は君との友情を取る」


「……ありがとうなユーゴ。カルトは?」


 俺はカルトを呼んだ。引っ掛かりはむしろこっちだ。カルトもアンセルの被害を被った1人。場合によっては俺たちの誓いはなしになる。

 俺は部外者なので彼女の決定に物を言うつもりはないから、そこはユーゴとの話し合いにはなるが。


「カルト?」


 カルトが倒れていた。すぐに駆け寄り、名前を呼ぶ。

 そこでアンセルは笑った。


「バカめ……。混沌の力が抜けた者だぞ。私でなければ力の落差に耐えられるはずがない」


「何……!」


 よく見ると、周りにした混沌のデュエリストもふらついている。

 パンゲア王も自らの息子、ダヴィンチさんを抱えている。


「王、これは……!」


「アンセルめ……。ロクでもない置き土産を!」


 パンゲア王は苦渋の顔をしつつも全員に指示をする。


「全員撤退! この戦いに携わった全員をガレア村に連れ、必要に応じた処置を行うのだ!」


 パンゲア王の発破と共にエルフたちが動き出した。

 俺たちもエルフの兵士たちに担がれるはずだったが、バルムンクさんが横から入ってくる。


「馬車ならもう用意してある。案内してくれればあんたらは俺が運ぶぜ!」











 俺とユーゴ、フィアナとパンゲア王は礼を言い、馬車に乗せてもらった。屋根にはアンセルが縛り付けられてある。

 フィアナは眠っている。無理はない。


「ひと段落、でいいんですかね」


 ユーゴが疲れた顔で言う。俺は「そうだな」と返す。


「契約は履行されましたね。ありがとう」


 ユーゴは拳を突き出してきた。俺はそれに拳を合わせる。


「ありがとう。ここまで長かったな。お前がいなかったら俺はどうなってたかわからない」


「だるいこと言わないでください。元々僕と君は……対等……」


「……おやすみ」


 ユーゴは眠った。この場で起きているのは俺とパンゲア王だけ。


「すみませんパンゲア王……。本人の希望とはいえ娘さんを何度も危険な目に遭わせてしまった」


「何を言っている。私は感謝しているぞ。フィアナの心を開いてくれたこと。この世界を救ってくれたこと。君たち仲間を助けるのは我らの役目だ。そしてアンセルは必ず生け捕りとし、一派の処遇も君たちの希望通りにしよう」


「あの、それについてなんですが息子さんは」


「ああ……。君たちに任せてもらって構わない。次第では私も責任を取ろう。2人の心の闇は私のせいなのだから」


「いえ。ダヴィンチさんの処遇は彼自身含め、ガレア家の皆さんと話し合って決めて欲しいんです。元々家族の問題ですし」


「む、そうか……。ああ、処遇といえば君。ユーゴくんと契約がどうこう言っていたな」


「ユーゴとは奴を共に倒す約束でした。前払いとして俺は決闘魔法の案内をしてもらった形です。今回これでしっかり履行がなったわけです」


「それにしては浮かない顔だな。そういえばカルトくんに聞いた時も少しよそ行きだった」


「カルトも奴から被害を受けた本人です。なので処遇は彼女とユーゴに任せるべきと思いました。第一俺は部外者ですから」


「……なぜそこまで関わらないようにするのだ?」


「そもそもアンセルが動き出したのは俺が転生者で、魔力をたくさん持つ人間だったからです」


 ――君は素晴らしい魔力量とスキル、そしてデュエルを愛する心を持っていた。私はこれを利用することを思いつきました。君の脳にデュエルの勝敗に関係なく魔力を生み出し、かつそれを私に送り込む、という形でね。


 ――君は私の計画を止めると張り切っていましたね? だからこそ私は君に配下を送り、デュエルをさせました。


 ――君がたくさんのデュエルをしてくれたのは事実なのですから……。その頑張りがこのカードを実体化させてくれました。


「あの時は事態が急変しすぎたし、とにかく奴を止めなきゃって使命感とか焦りと、みんながそばにいるって安心でそっち側に頭が回りませんでした。でもよく考えたらこの災厄の多くの原因は俺にあった」


「ただの貧乏くじではないか。奴はいつ動いてもおかしくなかった。君が悔やむことではなかろう」


「その貧乏くじのせいで怪我人や死人が出た。それも、俺の大好きなデュエルで」


「……自信がないのかね。彼らの隣にいるのが」


「みんな俺のことを頼りにしてくれてるのはわかってるし、凄く嬉しいです。でも納得してないんです。俺がいなければみんな辛い目に遭わなくて済んだ。俺がいるから人が死ぬんだ。それに元いた世界でも……」


 元の世界のことを思い返す。

 ハガーに家族を皆殺しにされ、勇戯さんも失った。

 何もない。元の世界に戻ろうが、俺には帰りを待つ家族も仲間もいない。元の世界でも俺が関わったばかりに死んだ人がたくさんいた。

 でも、そんな何もない世界が俺の居場所のはずだ。それが収まるべき場所だ。


「転生者なる身がそんなに狭く感じるか」


「はい」


「とはいえ、帰る手段はないのだろう? そしてその顔。元の世界にも居場所はないと見える」


「……まあ」


「ならここしかないではないか。君の帰る場所は」


「えっ?」


「帰る場所がないならこれから作ればいい。落ち込むのは、仲間たちの反応を見てからでも遅くはない」


「…………」


 パンゲア王が優しい目で俺を見る。


「頑張ってみます」






【作者より】

 ラスト2話です。最後までお付き合いください!


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 次回17:00〜20:00、最終回は21:00〜0:00頃に投稿します。

 ラストまでお楽しみください! 俺はこれでターンエンド!

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