第50話「ドロー!転生カード!」(デュエルパートラスト)

「地源神」の効果発動。


 自身が破壊されたターンのエンド時――。




 フィールドのカードを全て破壊する。






第50話

「ドロー!転生カード!」






【夢藤のターン】


 アンセルのその宣言と共にフィールドが消し炭となる。


「神の名の下、徒と散れ!」


 地源神の咆哮し、俺たちの周囲からツタや草木が生える。


「まずい、『イリュージョン・ドレイク』……!」


 咄嗟に伏せを見たが、俺の場には何もなかった。


「ぐっ……!」


 ユーゴやカルトのフィールドも同様。モンスターはあれど――。


「だめだ。僕には何も……」


「私……も……」


 対応が出来ないようだった。全員息も絶え絶えだ。


「させねえ!」


 バルムンクさんが咄嗟に大砲を放ち、周囲の植物を破壊した。


「す、すまないバルムンクさん……」


「そんなことよりフィールドが……!」


 受け入れなくない現実だった。

 空だ。俺たちが勝ちのために築いた全てがなくなっている。


「くそ、くそお!」


 しゃがみ、拳を地面に叩きつける。

 それをアンセルが笑う。


「悔やんでもデュエルは続いていますよ? 私も魔力が足りないのでね。カードを引いてくれないと困るのですよ。さあ」


 …………。


 どうする。どうすればいい。今の俺のデッキには奴を倒せるようなカードはない。


 カードは……。


 その時だった。背中に強烈な痛みが走った!


「諦めるな!」


「ぐは!?」


 その勢い。声。馬鹿力。満身創痍ながら――いや、むしろその傷がもはや勲章。

 エルフの特異点。


「フィアナ……!」


 仁王立ちだ。よかった。起きて――。


「ふ゛んッッッ!!!」


 今度は張り手だった。


「ぐあああ!?!?!?」


 首がもげかける勢いだった。派手に転がる。


「約束!」


「はあ……!?」


「あたしを世界一のデュエルバカにしてくれるって約束! 忘れたの!」


「あっ……?」


 鮮やかに蘇る数日前の記憶。




 ――見えない責任と振り払えない緊張が付きまとう日々の中で、デュエルだけはあたしを解き放ってくれた。自由にしてくれた。


 ――どうせ威厳ある立場にも市民にもなれないなら喜んでデュエルバカになるわ。そのためなら命だって惜しくない。


 ――だからショーブくん。




「忘れたんなら何度も言ってあげる!」




 ――あたしを世界一のデュエルバカにして。




 俺は固まった。

 そうだ。俺は確かに混沌のデュエルを阻止するために旅をしてきた。

 だが、その中にはフィアナの鬱屈した感情を解き放つための旅でもあった。


 俺がここで挫けたら、旅は終わる。


「……ああ。思い出した」


 ここまで、仲間がいなければ来れなかった旅路がいくつもある。

 痛む体を押さえる。


「行くZE――」


 その時、ユーゴとカルトがよろめきながら俺のそばに寄る。


「ショーブ。私にもドローさせなさい」


「僕もです。一緒に引きましょう」


「あたしが引けば最強、でしょ?」


 ユーゴ。カルト。フィアナ。

 そうか。の4人揃ったドローだ。いや。


「ケッ。俺は裏方よ。大砲で忙しいから声だけやってやるが、気持ちだけ連れなあ!」


 バルムンクさんもいる。


「ああ……。ああ! 引こうZE。みんなで!」


 考えてみればバカバカしい。このペラいカード1枚に運命の全てを委ねるなんて。

 でも、この世界じゃそれは当たり前なんだ。

 俺の仲間がそう。


 ユーゴ。お前と最初に出会ってなければ俺は行き倒れ、何も知らないまま世界の破滅に立ち会っていただろう。


 フィアナ。お前がいなければ俺は熱いデュエ魂を取り戻すことはなかった。


 カルト。お前がいなければ、のっぴきならない事情で戦う混沌のデュエリストのことを知らずにいた。


 バルムンクさん。あなたがいなければ実際、アンセルと戦えたかどうか。


 気付けば、1人じゃなかった。だから連れ添った俺が終わらせるんだ。


 その時だった。俺の後ろから、いつかの聞き馴染みの声が聞こえた。


 ――そうだショーブ。お前はできる奴さ。だって、俺より熱いデュエリストなんだから。


 この声……。


「勇戯さん!」


 ――俺とは違ったよな。俺はドジを踏んだ。熱きデュエリストは違った。神様から新たな人生を授けられるほどの右手の強さがあったからな。


 ――その右手で、デュエルが全ての異世界に、お前はデッキ1つで戦いを挑んできた。


「…………!」


 ――見せてやれ。異世界でもデュエルで全てを解決する、熱きデュエリストたちの物語をよ!


「はい……!」


 後ろのみんなに目を配り、俺は叫ぶ。


「このドローはハゲしく重いZE!」


「でも、あたしは引く!」


「例えこの指が!」


「ペッキリ折れようとも!」


「見せてやる! 俺たちの転生!」


 ――デュエ魂!




 ドーロドロドロドロドロドロドロドロドロドロ!!!




 ドロォオーーーーーーッ!!




「「「「「転生カードォォォッッッッッーーーーー!!!!!」」」」」






「行くZE! 来い、『ボルテックス・ドレイク』!」


「何!」


 そのステータス、0/0。

 あまりの拍子抜けに、アンセルが安堵と共に笑う。


「……ハッ。ステータスが0? そんなカードで私を倒せるとでも? しかし前のターンのことがありますからねえ。念入りに今のうちに潰すとしましょうか」


「やってみるといいZEアンセル」


「チッ……。いいでしょう。『起源隷獣 マグヌス』の効果発動! 墓地に同名以外の起源モンスターがいる場合、自身を捨てることでカードを1つ破壊する。対象は当然……」


「どうした?」


「何? マグヌスが反応しない?」


 当然。こいつは効果によって選ばれない。


「当たり前だZE。俺たちの旅路が悪に選ばれると思うか?」


「何を言っている……! ならば『起源隷獣 アルビオン』の効果! 墓地に起源モンスターが5体以上いる時、自身を捨てて相手のカード全てを破壊する!」


 しかしそれも通らない。効果破壊に耐性がある。


「通らないZE。俺たちの絆は破壊されない!」


「この……!」


「何かありますか?」


「貴様!」


「ないようだな。ならば効果を通してもらう! こいつが出た時、相手モンスター全ての攻撃力を自らの攻撃力に加える!」


 0→5000!


「何? 相打ち狙いとは渋いぞ!」


「うるさいZE少し黙ってろ! 行くZEバトル!」


 ボルテックスが地源神に迫る。


「この時、効果発動! 自身の攻撃力を10000ポイントアップ!」


「バッ――」


 5000→10000!

 そうさ。攻撃力は圧倒的。


「俺たちはバトルに勝つ!」


「バカな!」


 アンセルの叫びと共に地源神が木屑となり、砕け散った。


「地源神、撃――」




「くく……」


 ダメージが入るその瞬間、アンセルは笑った。


「何がおかしい?」


「くく! この瞬間、手札から『起源統一の神官』を発動!」


「しまっ……!?」


 まずい。起源神のデメリットが消えたことで召喚と魔法の発動が許される状況になっていたか……!


「墓地に存在する全種の起源神を取り除くことで、デッキから『五源神』を召喚する!」


「…………!」


「こいつは出た瞬間、相手の墓地、手札、フィールドの全てを取り除き、その後相手に起源神1体ずつのダメージ――25000ダメージを相手に与える! これで終わりだ!」


 なん……だと!

 ボルテックスドレイクの弱点は対象でも破壊でもない除去だ。消される!


 が、その瞬間ユーゴが不敵に笑った。


「……動」


「ゑ?」


「手札の『葉流《はる》一卍』《いちはばん》の効果発動! デッキに干渉する効果が発動した時、自身を捨てることでそれを打ち消す!」


「ユーゴ! それは俺があげた!」


「一緒にデッキに入れたのを忘れたんですか? ちゃんと使ってあげないとね。さあ通してもらうぞアンセル!」


「ぐっ……!」


 何もなし、か。


 終わりだ!


 ライトニングの黒い雷撃がアンセルを襲う。






【作者より】

 デュエルセット! まだちょっとだけ続くんじゃ……!


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