第49話「狩人の誓い」(デュエルパート4)

【ユーゴのターン】


 これで残りの起源神の数は2体。

 水、闇、光が消えて残りは火源神と地源神か。

 万全な状態でショーブにターンを渡したいが。


「許せない……」


 僕だけじゃない。カルトやその配下にしてきた仕打ちを思うと。


「ショーブ」


「なんだ」


「一応、僕は万全な状態でターンを渡すことになってます」


「ああ」


「なら、半殺しにします。僕たちにした仕打ちの等倍で返してやるんだ」


「ユーゴ」


「だから、とどめは君が」


 歯軋りが止まらなかった。が、怒るのも焦るのも今は後。


「僕のターン、ドロー!」


 盤面を確認する。


(場にはスペクターがいる。こいつがいれば妨害に対処出来る。そして伏せはアンセルのターンで1枚使い、残り1枚)


 手札は2枚。充分動ける!


「まずは単発魔法『屍界循環』を発動! 2枚ドローし、屍界カードを1枚捨てる」


 この時捨てたのが屍界以外なら僕は手札を全て捨てなければならないが、このデッキにおいてそのデメリットは、あってないようなもの。

 捨てたのは「屍界のワイバーン」。


「ワイバーンの効果発動! 自身が捨てられた時、墓地に屍界カードが3枚以上あれば相手のカードを1つ破壊する! 破壊するのは『地源神』!」


 地源神。奴だけ効果がわかっていない。不安要素から潰す。さあ通るか否か。


「……いいでしょう」


 地源神が闇に包まれて爆発する。


「よし! なら続けて――」


 しかしアンセルの墓地が光っていた。


「何?」


「甘いですね。地源神は破壊されないのです。しつこく私にまとわりつくあなたと違い、粘着質な立ち上がりではない」


「何だと……!」


「それよりも前座は前座らしく適当にカードを回し、ショーブにターンを渡すのです。彼はあなたたちとは違い、至上の魔力で満ちている。義憤にかられた彼ならその魔力も絶大だ」


 どこまでもどこまでもこの男。

 人を舐めている。


「……クソ野郎」


「何?」


「だったらその前座でお前は滅びるんだ」


「何?」


「このターンで終わらせる。百発百中。それがデュエリストハンターだ!」


「強がりを」


「強がりかどうかはすぐにわかる――」


 覚悟を決め、カードを切った。


「伏せの単発魔法『狩人が生まれた日』を発動! 墓地に5体以上の屍界モンスターがいる時、デュエル中に1度だけ発動可能! デッキから好きな屍界モンスターを召喚する!」


 次の僕のターンのためにリソース確保と考えた自分がバカだった。

 出し惜しみなどしていられない。大袈裟ではなく今は世界の危機。追い詰めればそれだけ有利になる。


 デッキを探り、目についたのは「屍界竜ライオット」。しかしその効果は……。


③このモンスターが召喚された時に発動する。このモンスターの攻撃力以下のモンスターを全て破壊する。


(これじゃ打点5000には遥か及ばない。しかも効果を使おうものならみんなのモンスターまで破壊してしまう。しかも打点以下を出せなくする制約もある……)


 ここで倒せなかった場合、ライオットは却って足枷となる。

 半殺しにした上でショーブに繋げるなら、このモンスター。


「来い!『屍界竜 クロスフレイム』!」


 鮮血のごとき炎をまとい、白き竜が現れた。

 しかしステータスは0/0。その威圧感には相応しくないほどのこけおどしだ。


「ふ……。何を出すかと思えば攻撃力0の雑魚を」


「バトル。クロスフレイムの攻撃!」


「何? 自ら破滅を選ぶつもりですか?」


 まさか。


「この時、効果発動!」


 クロスフレイムの白き体が虹色に輝く。


「バトル中、攻撃力を100万ポイントアップする!」


「100万だと!?」


 100万。それは神すら超える圧倒的な破壊力。

 拳1つで地面を抉り、海を裂くのだ。


「塵になれ、アンセル!」


 殺すデュエルはもう既にした。しかも怨敵の前とあっては最早未練はない。


「お前は……。お前だけは!」


「ですが『起源隷獣 アルビオン』の効果発動! 自身を捨てることで攻撃してきたモンスターを破壊!」


「…………!」


「さらにこれ対して相手は効果を使えない。つまりクロスフレイムの隣にいる『屍界のスペクター』では対処不可能。見届けなさい、エースモンスターの死に様を!」


 杖を持った男がフィールドに現れた。持ったその杖でクロスフレイムに雷を放つ。

 雷に絡まれたクロスフレイムは動きを止める。

 それを見て、僕は呟く。


「そのモンスター、ステータスは100万以上か?」


「…………? 愚問ですね。どれほど攻撃力を上げようとも、ダメージさえ通さなければ意味はありません。しかもこの効果に対して相手は妨害な出来ない。打つ手段があるとでも?」


「いいや。する必要がないんだよ。なぜならクロスフレイムは――」


 クロスフレイムは自身にまとわりついて雷を引きちぎる。


「クロスフレイムは、自身の攻撃力以下のモンスター効果を受けない!」


「なっ!」


 弱点は召喚した直後。しかし1度攻撃に入ってしまえば全てを吹き飛ばす。


「この……。ならば『起源隷獣 ブルータス』の効果発動! 自身を捨て、このターンのダメージを0に――」


「『屍界のスペクター』の効果発動! それを打ち消す!」


 杖の男に闇が被さり、破壊と共に消えた。


「今度こそ!」


「甘い! もう1枚のブルータスの効果! 次こそダメージを0にする!」


「ぐっ!」


 スペクターの効果は各ターンに1度のみ……!


「だが破壊は受けてもらう!」


 地源神がたった1つの拳によって粉々に砕かれた。

 ダメージこそないが、その威力は100万。すなわち。


「全員伏せろ!」


 僕の声を聞いて、ショーブとカルトが咄嗟に伏せ、突風に耐える。


「うわあ!」


 体の小さい僕は飛ばされたが――。


「ユーゴ!」


「ユーゴくん!」


 ショーブとカルトに抑えられ、退場は免れた。


「ありがとう2人共」


「クロスフレイム……。凄い勢いだZE」


「僕の恩人が使った第2の切り札だ。あれを使う時はライオットみたいに絶望させるんじゃない。圧倒的な破壊力で絶対の殲滅を誓う時だけ」


 カルトが寂しげに呟く。


「殲滅……」


「あいつは、アンセルだけは僕の手で冥府の底に繋いでおきたかった。でも結局は前座止まり。でもそれでいい。奴のリソースはわずかだ」


 ショーブが僕の手を強く握る。


「ああ。俺はこの勝機を逃したりなんてしない。ここまでよくやってくれた。カルトもだ! 2人の意思は俺が繋ぐZE!」


「ふ……。君ならそう言うと思ったよ。ありがとう」


 意識が途切れてきた。

 やはりカードを使うたびに魔力を失う。

 消費はカードパワーに依存する。既にデッキをかなり回し、その上でさらにクロスフレイムというフィニッシャーまで呼び出した。


「カードを2枚伏せ……ターンエン――」


 しかし、意識が途切れる直前にアンセルの声が響いた。


「地源神の効果発動。自身が破壊されたターンのエンド時、フィールドのカードを全て破壊する」


 暖かくなった心に、冷えた事実が突き刺さった。






【今日の最強カード】


【屍界竜 クロスフレイム】


生息地:闇の国

種族:リビングデッド


攻撃力:0

守備力:0


効果

このモンスターは自分の墓地に屍界モンスターが3体以上ある、先攻以外のターンでのみ召喚出来る。


このモンスターが攻撃する時に発動する。その攻撃力は1000000ポイントアップする。


③このモンスターは自身の攻撃力以下のモンスターの効果を受けない。


フレーバーテキスト

一つの拳が、百万の言葉を打ち砕く。






【作者より】

 アンセル、この土壇場でまさかの逆転……!

 次回、デュエルパートはラストです!

 デュエル、スタンバイ!


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