第48話「くまのぬいぐるみ」(デュエルパート3)

【カルト】


 あいつをぶん殴ってやりたかった。でも私に力はないから、それが出来る人に託したかった。

 ショーブ・ムトー。あなたはどうしてこのくまのぬいぐるみを「レムちゃん」と認めてくれたの。


 いいわ、何も言わなくても。きっとあなたはそういう人間。敵味方関係なく人のことを等身大に見てくれる人間だから。


 このくまのぬいぐるみはレムちゃんなんかじゃない。私自身がよくわかっていた。

 だから、それが立ち上がった時は安らかな心が少しぐらついた。

 ましてやそれが喋るなんて。


「レムちゃん?」


 くまのぬいぐるみは何も言わない。光源神の攻撃に包まれて、消えただけ。


「レムちゃん!」


 鼓動がずっとうるさくて、何も聞こえなかっただけかもしれない。


「そんな……」


 騙し騙しでずっと抱えていたぬいぐるみ。ただ思い出の品というだけで物言わず、柔らかいだけの、人間であるはずもないものがひとりで動いたのだ。


 アンセルに混沌のデュエリストにさせてもらった時、情けでこのぬいぐるみに何らかのカードの力を与えられたのを覚えている。きっとその時の名残りなのだろう。


「魔力の名残りですか」


 フィールドは空。私はアンセルを睨んだ。


「あなたの力じゃないわ。きっとレムちゃんが」


 いや、もう何も言うまい。

 不思議と涙は出なかった。涙はレムちゃんと別れた時にたくさん出して、もうずっと枯れていたから。


「どんな現実を選ぶのもあなたの自由です。私はこれでターンエンドです」


 薄ら笑いでアンセルはターンエンドを宣言する。


「が、あなたのフィールドは既に空だ。手札にわずかに2枚。いえ、ドローで3枚ですか。さあどうします」


「……決まってるわ。あなたを追い詰め、次にバトンを渡す!」


「何?」


「山札にある『レム・バートン』の効果発動! 自分のカードが3枚以上場を離れているこのゲーム中、手札とデッキの『レムちゃん』を墓地に送ることでこのモンスターを山札の1番上に置く!」


 アンセルの余裕の顔が崩れた。






第48話

「くまのぬいぐるみ」






【カルトのターン】


「私のターン、ドロー!」


 引いたのは当然新たなレムちゃん。


「レムちゃん。最後に力を貸して。こんなちっぽけな私に、少しだけでいいから」


 私は――。


「『レム・バートン』を召喚!」


 現れたそのモンスターは、私がずっと取り戻してくてやまなかった人の姿をしていた。


「レムちゃん!」


 レムちゃんは何も言わない。そうね、モンスターなんだから。

 ただ、一瞬にこりと笑いかけてくれた。


「こいつ、この土壇場で混沌の力を成長させたか……!」


 アンセルが歯軋りをする。


「失礼ね。愛の力よ」


「戯言を。死者の魂はこの世にとどまってはならないのというのに」


「そうね。でもきっと、この世界に残せるものならあるんじゃないかしら」


「何?」


「心の中で残る思い出。笑顔。そして、あなたへの癒えない傷!」


 レムちゃんがアンセルに向けて両手を向ける。


「まさか」


「『レム・バートン』の効果を発動! 相手のカードを1つ破壊し、相手の手札を全て墓地に送る! まず破壊するのは『地源神』!」


 少しずつ切り崩していく。

 地源神から赤黒い糸が舞い、地面にぽっかり空いた穴に引き摺り込まれようとする。


(効果を通せば地源神は消せる。でもそれじゃ万全な状態でターンを渡せたとは言えない)


 既にショーブに運命を預けた。私のリソースは空。

 ユーゴくんに目配せをする。ユーゴくんの場にはあるモンスターがいる。その効果は――。


「カルトちゃん、君まさか」


「いいの。死者の魂は現世にとどまってはならない。昔からこの国に伝わる教えよ」


「…………」


 ユーゴくんは一瞬俯いたが、すぐに意を決した。


「わかった。君の覚悟、受け取った」


 私は静かに頷く。


「……『屍界のスペクター』の効果発動! モンスターの効果を1つ打ち消し、破壊する!」


 その瞬間、レムちゃんが光を放つ。


「何を……」


 アンセルはユーゴくんの取った自滅行為に目を見開いた。


 死者の魂は現世にとどまってはならない。

 お父様やお母様から聞いた、大昔からの言い伝え。

 そんな世の理を破ってでも、そばにいて欲しい人がいた。


「レムちゃん。最後の最後、ずっとそばにいてくれて――」


 でも、いつかは別れが告げなければならない。

 多くはいらない。


「ありがとう」


 そして。


「『レム・バートン』の効果発動! 自身が破壊された時、相手のカード全てを破壊する!」


 それを聞いてアンセルは咄嗟にカードを切る。


「ならば『起源隷獣 サロンの効果発動! 自身を捨てることでその破壊は起源モンスターの2体の手札戻しに変換する!」


 リセットは防がれた。戻したのは『闇源神』と『光源神』。しかし盤面は減った。


「アマンダを2体、守備表示で召喚。2枚伏せ、ターンエンド!」






【作者より】

 遅くなりましたが少しずつ佳境です!

 次はユーゴのターン。よろしくお願いします!


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