第27話「卒業祝い」(ユーゴの過去編2)

【半年前】


 僕は学校を卒業した。勉強はもちろんデュエルも決闘魔法も学び、ついでに身の振り方や口調も直した。

 初等教育5年を過ごし、14歳になった。今日くらいは挨拶に行こう。

 道は覚えてる。ヴィクトルの後はよく付いていってたから。


(この道を曲がれば!)






ユーゴ・ベトール

過去編2/2

「卒業祝い」






 しかし、その場所に着いた僕は絶句した。


(えっ)


 屋敷は炎に包まれていた。白かった壁は炭や煤の黒に滲んでいる。

 その時、玄関の奥から光が見えた。


(な、なんだ!)


 僕は急いで駆け、屋敷に入る。

 そこには、見るも無惨にも「家族」たちが転がっていた。奥にはヴィクトルが微かな息遣いで突っ伏している。


「ヴィクトル!」


 僕は咄嗟にヴィクトルに寄ってその体を揺らす。


「お前……なんでここに」


「そんなのどうでもいい! 早く病院に――」


 その時、ヴィクトルが僕を外套で隠す。

 僕は外套の隙間から黒い人影を3つ見た。


「アンセル様。まだ生き残りがいるみたいだぜ」


 開口一番、ぶっきらぼうに話したのはマクシムだった。


「いずれにしてもここの屋敷に生き残りはもういない。後は屋敷を吹き飛ばすだけです。アンセル様」


 もう1人はわからないが、血の付いたナイフをくるくると回していた。

 奴らはアンセルと呼ばれた男に目線をやっていると、当の本人――アンセルが言う。


「その通りです。目撃者は一も二もなく抹殺です。その手段はデュエルである必要もない。2人共。屋敷からを取り外しましたね?」


「もちろんだぜ」


「準備は出来ています」


「では、この穢らわしい屋敷とその家長、ヴィクトルに別れを告げるとしましょう」


 アンセルたちはそう言い、小型の筐体を屋敷のあちこちに放った。


(あれは爆薬!)


 ベトール家は万が一の時のため「爆薬」なる高火力兵器を屋敷のあちこちに張り巡らせていたのだ。アンセルたちはそれを取り払ったらしい。


「ここは屋敷の中央。ここを壊せば土台から崩れ、火力不足ということもないでしょう」


 僕とヴィクトルは爆風を食らって吹き飛ぶ。その時、アンセルの歪んだ笑顔が目に写った。


「この家がギャングで良かったですよ。私たちがどれだけ暴れようとも、この事態は対抗組織との抗争によるものにしか見えない」


(何? 奴らはベトール家と対立するギャングじゃないのか?)


 僕はそう思いつつ、ヴィクトルと共に森まで吹き飛ばされる。お互い火炎に泣き込まれずに軽い怪我で済んだのは奇跡だった。

 しかしヴィクトルはいよいよ虫の息だった。


「ヴィクトル……」


「見たろ。俺たちみたいなカスに関わるとこうなるんだ……」


「ふ、ふざけないでください。あなたがカスなわけないじゃないですか」


「ふざけてんのはお前だ……。何のために俺がお前を学校に行かせてやったと思ってやがる」


「え」


「ギャングの世界は厳しいんだよ。こういう騒ぎに巻き込まれるのが日常だ……。俺はお前にそんなことで命を落として欲しくなかったんだよ。つっけんどんにしたのも、いっそ嫌われるくらいがちょうどいいとまで思ってた」


「ヴィクトル」


「ガキが心をすり減らしていい世界なんかじゃねえんだよ。なんで戻って来た」


 僕は震える口で言う。


「……ギャングが厳しい世界だって言うのはなんとなくわかってました。命を張る時だってそう珍しくないことも。でも僕は憧れたんだ」


「憧れただと」


「それは最初、あなたがギャングだからと思ってた。でも違う。あなたは誰の影にも怯えず、自分の人生を自分で切り開いている。僕はそんなあなたの姿に憧れたんだ。法が利権にかまけて警察が賄賂に生きるこの街で、真っ直ぐだったのはあなただけ」


「お前」


 ヴィクトルは僕をまじまじと見つめると、大きく息をつく。


「……お前はそんな人間になりたいわけだ」


 僕は静かにうなづく。


「ちったあでかくなったじゃねえかクソガキ」


 ヴィクトルはそう言うと、懐からデッキを取り出した。


「だが芯を持って生きるには強いデッキを握んなきゃなんねえ」


 ヴィクトルはそう言って、懐から取り出したデッキを僕に渡した。

 屍界のデッキだった。


「このデッキをお前に渡す。こいつのカードたちと共に世を渡り、世界の厳しさを知り、大きくなれ。死臭漂う奴らだが、仲間を見捨てない義理堅いモンスターの集まったデッキだ……」


 ヴィクトルは最後の呼吸で言う。


「お前は普通に暮らせ。一生懸命カタギに働いて、たまに遊んで、家族に恵まれて、じじいになるまで笑って生きろ……」


 デッキの1番上には「屍界竜 ライオット」なるカードがあった。


「頑張れよ」


 ヴィクトルはそう言って、力尽きた。


「何が」


 何が卒業祝いだ。祝う奴が死んでたら世話ないんだよ。

 普通に暮らせだって? 大切な人が理不尽に奪われて、いつまでもくよくよしたまま暮らすのが幸せだって言うのか。

 冗談じゃない。あんなところを見せられて、それを忘れて暮らすなんて僕はまっぴらごめんだ。


(アンセル。お前を倒してやる……)


 僕はこれから訪れる運命を戦う。ケジメを付けてやる。


 今日限り僕はデュエリストハンター。ユーゴ・ベトールだ。






【作者より】

 ここまで読んでくださりありがとうございます!

 読んでた作品に影響されまくりですね……(何がとは言わない)。


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 次回は本日17:00〜20:00頃に投稿予定です。よろしくお願いします!

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