第28話「清算」(デュエルパート2)

【デュエルの続き。ユーゴのターン】


 僕はうずくまったままだった。それを見てか、マクシムが笑う。


「ヴィクトルとかいう奴、今のお前を見てどう思うかねえ。結局口先だけで、いざって時に塞ぎ込んだままのお前をよお」


「お前……」


「見てはいねえがあいつ、最期に話したのはお前だろ? そのユーゴくんがこの様だ。庇う価値なんてあったのか? ねえな。無駄な時間を無駄に過ごして無駄死にだ。全く惨めでしょうがねえ」


 マクシムはただただ乾いた笑いをあげる。


「はは。ああそう、無駄と言えばあのデュエルもそうだったなあ。結局奴は俺に負けて、家も守れず部下も守れず――」


「黙れ!」


「ん?」


「黙れ。お前、もう何も言うな」


 僕は震える全身を叩き起こし、無理矢理立ち上がった。


「ほう元気そうだ。だが盤面をよく見ろ。場も手札もゼロだぜ?」


「わかってるよ。でもやんなきゃだろ」


「おいおい」


「ヴィクトルの死は無駄なんかじゃなかって言い張るために。クソみたいな運命に立ち向かうために!」


 僕のターン。


「ドロー!」


(このカードは……)


 ありがとう。ヴィクトル。

 僕はそのカードを手札からマクシムにかざして宣言する。


「このモンスターは僕の墓地に屍界モンスター5体以上がいる、先攻以外のターンでのみ召喚出来る。これを召喚だ」


 僕の墓地から屍界モンスターたちの魂が集まり、竜の姿を形取った。


「現れろ!『屍界竜 ライオット』!」


 黒い魂を無数にまとう、巨大な赤い竜が現れた。

 全身に黒い炎をまとい、見る者全てを威圧するかのような風貌だ。

 ただし攻撃力は0。マクシムは笑う。


「……はは。はっはは! せっかくの気合いの引きもクソだったみたいだなあ! 攻撃力0たあ情けねえ!」


「……ライオットの永続効果。こいつは墓地の屍界モンスター1体につき攻撃力が300上がる」


「何?」


「僕の墓地には屍界モンスターが9体。よって攻撃力は2700!」


「チッ。ハンデスしたカードは全部屍界モンスターだったか。だが打点が上がったくらいでいい気になるなよ。返しのターンで除去して――」


「ライオットを召喚した時の効果を発動。このモンスターより攻撃力が低いモンスターを全て破壊する!」


 マクシムは冷や汗をかき、咄嗟に盤面を確認する。


(お前のモンスターで1番攻撃力が高いのは『マーメイド・ザ・マッドネス』。その攻撃力は2500!)


 ライオットの射程範囲だ。


「くそ!」


 ライオットが黒い炎を吐き出し、マッドネスモンスターを全て焼き尽くした。


「ぐっ!」


 マクシムは炎に体を焼かれる。僕は咄嗟に後退りする。


(混沌のデュエルは対戦相手のカードも実体化させるのか!)


 しかしこちらの逡巡をよそに、マクシムの火傷はすぐに再生される。


「……なんてな。俺がこの程度で終わると思ったか?」


「何?」


「マーメイドの効果発動! こいつが破壊された時、俺の手札を全て捨てる!」


 マクシムは嬉々として手札を捨てた。マッドネスはそうして展開するからだ。


「くく。アントワネットと違って手札入れ替えではないが、これでマッドネスたちが復活――」


 しかし墓地は光らなかった。

 決闘魔法に処理のミスはない。マクシムの余裕は崩れる。


「何? なぜ発動しない!」


「残念だったな。ライオットの永続効果が適用されている」


「永続効果だと?」


「こいつが場にある限り、次の僕のターン終わりまでお互いのプレイヤーはライオットの攻撃力以下のモンスターを召喚出来ない――」


「な、なんだと!」


「バトル。ライオットでダイレクトアタック!」


 禍々しい咆哮と共にライオットが黒い炎を吐く。

 4000→1300!


「ぐうあああ!」


 黒い炎がまたもマクシムを焼く。


(くそ。仇とはいえ傷付けるのは爽快とは言えない……)


 だが有利なのは確かだ。悩むのは後でいい。

 さらにマクシムは火傷の再生をしていない。ダメージでの負傷は治せないらしい。


「僕はこれでターンエンド!」






【マクシムのターン】


 マクシムは震えていた。盤面がひっくり返されたからだ。


「お、俺のターン……。ド、ドロー……」


 マクシムは力なく手札を取り落とす。そのモンスターの攻撃力は1500。ライオットの制約によって召喚出来ない。


「……ターンエンド」






【ユーゴのターン】


「僕のターン、ドロー!」


 このままライオットで殴れば終わる。だがその時は奴が死ぬ時。

 やはりと言うべきか、マクシムは腰を抜かしている。


「ま、待ってくれ。俺はアンセルに言われて動いているだけだ。それに俺を殺せばこいつの情報も渡せなくなるぞ!」


(こいつ……)


「よ、よく考えてみろ。今ここで俺を殺せばお前は人殺しになる。汚名もいいとこだ」


 生かすだけ無駄なクソ野郎だ。だが。


(もしここで殺したらショーブはどう思うだろう……)


 その時だった。足音と共にその声が聞こえる。


「悩んでるのか」


 聞き慣れた声が僕に耳をついた。そちらを振り返る。


「……悪いな。俺のスタンスがお前を惑わしたかもしれない」


「ショーブ」


 隣にはフィアナがいた。2人共、戻ってきたのか。


「ショーブくんは人を傷付けないデュエルを目指してるけど『それは俺が決めたやり方だから、他の人に押し付ける気はない』だってさ」


「フィアナ」


 ショーブは言う。


「人間どこかで踏ん張らないと腹が決まらない時がある。悔いのないほうを選びな」


「…………」


「逃がしても構わない。だが、そうして生まれた責任はお前自身が負うことになる」


 そうだ。逃せば迷惑がかかるのだ。

 僕は乾いた口で言う。


「……ショーブ。僕は、こいつを見逃したくない」


 ショーブはただ静かに頷く。


「こいつやアンセルにケジメを付けさせるのは僕が決めた覚悟でもある。それにこいつはアンセルに狂信的で、僕を傷付けるのにためらいがなかった」


「うん」


「僕はやるよ」


「そっか」


 僕はマクシムを睨む。


「悪いなマクシム」


「あ……。ああ」


 マクシムはついに叫び、その場から逃げ出した。


「う、うわあああ! やめてくれ頼む!」


「ライオットでダイレクトアタック」


 目は、離さない。手痛い現実に面食らった時こそ目を離すな。僕は今から人を殺すのだから。


(そうだ。僕は今日から本物の『デュエリストハンター』になるんだ――)


 黒い炎が、僕のわだかまりと因縁を焼き払った。






【今日の最強カード】


【屍界竜 ライオット】


生息地:闇の国

種族:リビングデッド


攻撃力:0

防御力:0


効果

このモンスターは自分の墓地に屍界モンスターが3体以上ある、先攻以外のターンでのみ召喚出来る。


このモンスターの攻撃力は自分の墓地にある「屍界」モンスター1体につき300アップする。


このモンスターが召喚された時に発動する。このモンスターの攻撃力以下のモンスターを全て破壊する。


このモンスターがフィールドに存在する限り、自分の次のターンの終わりまでお互いのプレイヤーはこのモンスターの攻撃力以下のモンスターを召喚出来ない。


フレーバーテキスト

冥府に轟く咆哮は、ともに捧げるレクイエム。






【作者より】

 ここまで読んでくださりありがとうございます!

 混沌のデュエルは対戦相手の扱うカードも実体化させる危険なデュエルです。


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 次回は明日12:00〜13:00頃に投稿予定です。よろしくお願いします!

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