第29話「正しいこと」

 消し炭も残さずにマクシムを燃やした。


「…………」


 僕は立ち塞がり、膝を折る。

 ショーブは僕の肩に手を置いて、黙ったままだった。


「僕は正しかったんでしょうか」


 ショーブは答えた。


「これはお前の事情だから深入りするつもりはない。ただ、お前の行動は道理に則ってたよ。仇だからそれを討つ。何も間違っちゃいない」


「…………」


「それに、正しいかどうかなんて俺に聞いてもしょうがない。それはお前が決めることだからな」


 俺は項垂れた。


「そう。そうですよね」


「ユーゴ」


 僕はこの旅でその答えを見つけていくんだ。

 狩るデュエルが僕の運命の歯車をどう狂わせていくのか。それは僕自身が知ることだ。


「迷惑かけてごめんね」


「いいさ」


 ショーブはそう言って僕の頭をぽんぽんした。またかよ。なんだよそれ。

 ショーブは咄嗟に手を離す。


「あ、悪い。これ気に入らないんだったな」


 僕はショーブから目を逸らしながら、離した手を僕の頭に置く。


「もっとやって」


「…………」


「よおおおおおおおおし」


「!?」


「よおおあおおしよしよしよしよしよしよしよし」


 ショーブはそう言って僕の頭をめちゃくちゃに撫でた。違う、違う。そうじゃ、そうじゃない。

 ああもう。僕は手をはたく。


「そういうとこですよ! デュエルターミナルだろ君!」


「な、なんで知ってんの!?」


「距離感クソ! バレバレですよ!」











【夢藤視点】


 そんな感じで俺たちがガヤガヤ言い合っていると、フィアナがカルトを連れた。


「カルトちゃんから、言いたいことがあるって」


 俺たちは止まり、彼女の言葉を待つ。


「……私、あなたたちについていくわ」


 俺は少し目を見開いた。

 カルトは取り落としていたレムちゃんを拾って言う。


「決めたのか」


「ええ。あのマクシムとかいう男、ユーゴくんを傷付けても平気だったわ。あいつを見て、やっぱり私は非情になり切れないと思った。あんなデュエルを続けられる自信はない」


「じゃあ」


「いえ、レムちゃんは諦めないわ。諦めないけど、もう少し現実を疑ってみてもいいと思った。憎んでるってほどではないけど、今の私はアンセル様を少し睨んでるわ」


 そう言い切ったカルトは、もうレムちゃんで顔を隠してはいなかった。

 アンセルへの忠誠心が揺らいだわけか。それでいい。成長だよ。


「ごめんなさい。こんな簡単なことに気付くより先に痛めつけてしまって。やっぱり人を傷付けるのってだめよね……」


 カルトはそう言って俺に手を差し出す。これがこの世界での謝罪の形式か。


「いいさ。わかってくれれば俺は。その代わり『あれ』を教えてくれ」


「あれ?」


「ギルドで俺を見て文句言ってたって奴。なんていうんだ?」


 カルトはそれを聞くと、合点がいったようだった。


「……名前はハガー・ジャバン。昆虫デッキを使う男よ。ちなみに元カレ」


「!?」


「他人の不幸を笑うし品性はカスだし。ダーリンって慕ってたのが悔やまれるわ」


(ダーリン!? いや、それよりも――)


 他人の不幸を笑う、か。そいつが俺を地下に落とした奴と見て間違いないか。どちらにしても会えば問いただせる。


「そいつは今どこに?」


「今は神都の東にあるアジトね。ドワーフのいる街の奥地」


「何? てことは奴ら、ドワーフを追い出したってことか?」


「いえ。アンセル様は支配してるだけ」


「支配か……」


「正確には買収ね。きんを生み出すカードを実体化させて働かせてる。ドワーフたちも以前よりも儲かるからって喜んで働いてるって聞いてるけど、今思えば私には都合のいいことだけを話してたのかもね」


「なるほど」


 カルトが話を終えると、フィアナが熱い息を吐いていた。


「どうしたお前」


「イケメンパラダイス……!」


 お前……。


「まあいい。アジトがわかったなら突っ込むだけだZE」


 その時、ユーゴが肩を叩く。


「聞き忘れてました。2人共、デッキ強化は?」


 俺とフィアナはお互い見合わせて「万全!」と言う。


「ユーゴ。お前も行っておいたほうがいいZE」


「わかりました」


 ユーゴは自らのデッキを見つめながら言った。

 そんなユーゴにカルトは話しかける。


「あなたもごめんね……。実行犯ではないとはいえ、アンセル様の計画に手を染めてしまった」


「いいですよ。僕も君の仲間を殺した身だし、これでお互い様だ」


 話は終わったようだな。


「よし。全員、準備をしよう。まずデッキ!」


 俺がデッキを構えると、他3人もそれぞれにデッキを構える。


「よし! そして荷物は俺が持ってる。これで万全だな!」


 まずはユーゴのデッキを強化するため、いったん神都に向かう。その後はまたギルドに戻り、再び情報を集める。

 夜襲を仕掛けるか明日に備えるか。それはもう少し後から決めてもいいか。


(どっちにしても……)


 待ってろよアンセル。お前の計画、止めてみせる。











【???】


 アンセル様からの報告だ。マクシムの生体反応が消えたらしい。

 混沌のデュエリストはデュエルでしか殺せない。ということは。

 アンセル様は暗い部屋で、座椅子をこちらに回しながら言う。


「私たちの計画を邪魔する輩が動き出しました。誰が彼を殺したかもその人数もわかりませんが、万全の準備を整えておくよう」


 私を含め、他の配下はその下で敬意を示す姿勢だった。

 それにしてもマクシムがやられたとは。奴は配下の中では最強だった。

 それを倒したとなると、相手はかなりの手練れと見た。


「アンセル様。マクシムがやられたのなら私たちも日和見ではいられない。提案があります」


 アンセルは微笑みながら言う。


「デッキ強化のいとま、ですか?」


「……左様にございます」


「構いません。というより必ず強化してください。でなければ返り討ちに遭うのはこちらですからね。そして勝ち、魔力を集めるのです。期待していますよ」


 アンセル様は私たちにそう告げ、部屋を去る。


「とのことだ。起きろ奴隷」


 俺は首輪に繋げたドワーフを引っ張る。奴はこの村の副村長だ。奴はうつ伏せのまま言う。


「ぐっ……。誰が貴様らなんぞに」


 その時、ハガーが言う。


「娘さんたちの命が惜しくないのかい」


 村長はそれを聞いたきり項垂れた。ハガーはそれを見て笑う。


「そうそう、その態度だ。君の働きには感謝しているよ。おかげで秘密裏に計画を進められている。さすがは神都にカード生成の技術を持ち込んだ種族の長なだけある」


 その通り。アンセル様の計画がうまく運べば、また私たちの時代だ。


 デュエルを作ったのは私たちエルフ族。

 あらゆる種族から迫害され、ひっそりと森の奥地で暮らすのには飽き飽きだ。

 この世を実体化したカードの渦に巻き込み、エルフ族を再興させる。


 その暁に、我らエルフ族が受けた呪いを解くのだ。






【作者より】

 ここまで読んでくださりありがとうございます!

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 次の章からはいよいよ折り返しです!


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 次回の投稿は今日17:00〜20:00頃です。よろしくお願いします!

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