第29話「正しいこと」
消し炭も残さずにマクシムを燃やした。
「…………」
僕は立ち塞がり、膝を折る。
ショーブは僕の肩に手を置いて、黙ったままだった。
「僕は正しかったんでしょうか」
ショーブは答えた。
「これはお前の事情だから深入りするつもりはない。ただ、お前の行動は道理に則ってたよ。仇だからそれを討つ。何も間違っちゃいない」
「…………」
「それに、正しいかどうかなんて俺に聞いてもしょうがない。それはお前が決めることだからな」
俺は項垂れた。
「そう。そうですよね」
「ユーゴ」
僕はこの旅でその答えを見つけていくんだ。
狩るデュエルが僕の運命の歯車をどう狂わせていくのか。それは僕自身が知ることだ。
「迷惑かけてごめんね」
「いいさ」
ショーブはそう言って僕の頭をぽんぽんした。またかよ。なんだよそれ。
ショーブは咄嗟に手を離す。
「あ、悪い。これ気に入らないんだったな」
僕はショーブから目を逸らしながら、離した手を僕の頭に置く。
「もっとやって」
「…………」
「よおおおおおおおおし」
「!?」
「よおおあおおしよしよしよしよしよしよしよし」
ショーブはそう言って僕の頭をめちゃくちゃに撫でた。違う、違う。そうじゃ、そうじゃない。
ああもう。僕は手をはたく。
「そういうとこですよ!
「な、なんで知ってんの!?」
「距離感クソ! バレバレですよ!」
*
【夢藤視点】
そんな感じで俺たちがガヤガヤ言い合っていると、フィアナがカルトを連れた。
「カルトちゃんから、言いたいことがあるって」
俺たちは止まり、彼女の言葉を待つ。
「……私、あなたたちについていくわ」
俺は少し目を見開いた。
カルトは取り落としていたレムちゃんを拾って言う。
「決めたのか」
「ええ。あのマクシムとかいう男、ユーゴくんを傷付けても平気だったわ。あいつを見て、やっぱり私は非情になり切れないと思った。あんなデュエルを続けられる自信はない」
「じゃあ」
「いえ、レムちゃんは諦めないわ。諦めないけど、もう少し現実を疑ってみてもいいと思った。憎んでるってほどではないけど、今の私はアンセル様を少し睨んでるわ」
そう言い切ったカルトは、もうレムちゃんで顔を隠してはいなかった。
アンセルへの忠誠心が揺らいだわけか。それでいい。成長だよ。
「ごめんなさい。こんな簡単なことに気付くより先に痛めつけてしまって。やっぱり人を傷付けるのってだめよね……」
カルトはそう言って俺に手を差し出す。これがこの世界での謝罪の形式か。
「いいさ。わかってくれれば俺は。その代わり『あれ』を教えてくれ」
「あれ?」
「ギルドで俺を見て文句言ってたって奴。なんていうんだ?」
カルトはそれを聞くと、合点がいったようだった。
「……名前はハガー・ジャバン。昆虫デッキを使う男よ。ちなみに元カレ」
「!?」
「他人の不幸を笑うし品性はカスだし。ダーリンって慕ってたのが悔やまれるわ」
(ダーリン!? いや、それよりも――)
他人の不幸を笑う、か。そいつが俺を地下に落とした奴と見て間違いないか。どちらにしても会えば問いただせる。
「そいつは今どこに?」
「今は神都の東にあるアジトね。ドワーフのいる街の奥地」
「何? てことは奴ら、ドワーフを追い出したってことか?」
「いえ。アンセル様は支配してるだけ」
「支配か……」
「正確には買収ね。
「なるほど」
カルトが話を終えると、フィアナが熱い息を吐いていた。
「どうしたお前」
「イケメンパラダイス……!」
お前……。
「まあいい。アジトがわかったなら突っ込むだけだZE」
その時、ユーゴが肩を叩く。
「聞き忘れてました。2人共、デッキ強化は?」
俺とフィアナはお互い見合わせて「万全!」と言う。
「ユーゴ。お前も行っておいたほうがいいZE」
「わかりました」
ユーゴは自らのデッキを見つめながら言った。
そんなユーゴにカルトは話しかける。
「あなたもごめんね……。実行犯ではないとはいえ、アンセル様の計画に手を染めてしまった」
「いいですよ。僕も君の仲間を殺した身だし、これでお互い様だ」
話は終わったようだな。
「よし。全員、準備をしよう。まずデッキ!」
俺がデッキを構えると、他3人もそれぞれにデッキを構える。
「よし! そして荷物は俺が持ってる。これで万全だな!」
まずはユーゴのデッキを強化するため、いったん神都に向かう。その後はまたギルドに戻り、再び情報を集める。
夜襲を仕掛けるか明日に備えるか。それはもう少し後から決めてもいいか。
(どっちにしても……)
待ってろよアンセル。お前の計画、止めてみせる。
*
【???】
アンセル様からの報告だ。マクシムの生体反応が消えたらしい。
混沌のデュエリストはデュエルでしか殺せない。ということは。
アンセル様は暗い部屋で、座椅子をこちらに回しながら言う。
「私たちの計画を邪魔する輩が動き出しました。誰が彼を殺したかもその人数もわかりませんが、万全の準備を整えておくよう」
私を含め、他の配下はその下で敬意を示す姿勢だった。
それにしてもマクシムがやられたとは。奴は配下の中では最強だった。
それを倒したとなると、相手はかなりの手練れと見た。
「アンセル様。マクシムがやられたのなら私たちも日和見ではいられない。提案があります」
アンセルは微笑みながら言う。
「デッキ強化の
「……左様にございます」
「構いません。というより必ず強化してください。でなければ返り討ちに遭うのはこちらですからね。そして勝ち、魔力を集めるのです。期待していますよ」
アンセル様は私たちにそう告げ、部屋を去る。
「とのことだ。起きろ奴隷」
俺は首輪に繋げたドワーフを引っ張る。奴はこの村の副村長だ。奴はうつ伏せのまま言う。
「ぐっ……。誰が貴様らなんぞに」
その時、ハガーが言う。
「娘さんたちの命が惜しくないのかい」
村長はそれを聞いたきり項垂れた。ハガーはそれを見て笑う。
「そうそう、その態度だ。君の働きには感謝しているよ。おかげで秘密裏に計画を進められている。さすがは神都にカード生成の技術を持ち込んだ種族の長なだけある」
その通り。アンセル様の計画がうまく運べば、また私たちの時代だ。
デュエルを作ったのは私たちエルフ族。
あらゆる種族から迫害され、ひっそりと森の奥地で暮らすのには飽き飽きだ。
この世を実体化したカードの渦に巻き込み、エルフ族を再興させる。
その暁に、我らエルフ族が受けた呪いを解くのだ。
【作者より】
ここまで読んでくださりありがとうございます!
皆さんの応援の甲斐あっても、いよいよ3章も終了です!
次の章からはいよいよ折り返しです!
いいね、コメントなどくださるととても励みになります。星での評価、レビュー、作者や作品のフォローなども入れてくださると泣いて喜びます。
次回の投稿は今日17:00〜20:00頃です。よろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます