第5話「ならギ店に行くZE!」

 決闘魔法が解れたのか、デッキが足元に落ちていた。

 綺麗に整えられていたそれを拾い上げて言う。


「楽しいデュエルだったZE!」


「うるさいです……」


 ユーゴは最後に吐き捨てて倒れた。


「疲れた……。ご飯……」


「大丈夫か! オラッ!」


 咄嗟に抱きかかえると、俺は懐のパンを取り出してユーゴの口に詰め込んだ。

 少しすると目を覚まし、「ありがとう」と俺に感謝を述べた。さらに財布やコイントスに使った10円玉も返してくれた。


「デュエリストハンターは礼儀正しいんだな」


「義理ですから……」


 なんだか恥ずかしそうな顔。ユーゴが切り出す。


「き、聞きたいことがあります。あなた決闘魔法を使えないのに強かったです。何者ですか」


 ああ、聞かれる流れか。

 どうすればいい。異世界からやって来たとか言っても納得しないだろうし。


(仕方ない。なんかそれっぽいこと言っておくか)


「バウンティハンターだ。デュエリスト専門のな」


「デュエリストを狩る人ってこと?」


 ユーゴは起き上がり、どこか目を輝かせていた。


「あ、ああ」


 その時、ユーゴは「道理で」と何かに納得した雰囲気だった。


「適切なプレイング。計算性。ここぞという時の引きの強さ。決めた!」


「ん?」


 ユーゴは俺の肩を掴み、悲壮な目で言う。


「ひ、人のものを奪っておいてアレなんですけど、頼みがあります! 聞いてくれませんか?」


「頼み?」


「ある男を探して欲しいんです。僕の家族を皆殺しにした男を!」


 家族を皆殺しに……。

 のっぴきならない事情を抱えている雰囲気。聞くだけ聞いてみよう。


「なんて奴だ?」


「アンセル。下の名前はわかりません。経歴は一切不明です……」


「ユーゴ」


「い、いえ。張り切りすぎました。迷惑かけましたし、嫌だったらいいんです。ごめんなさい」


 異世界も世知辛いな。どこに行っても底で生きる人間ってのは生まれてしまうらしい。


(俺もそうだったな……)


 放火によって家族を全員失い、あろうことかその罪を被せられた俺にとって、この子の不幸は他人のようには思えなかった。


(俺と君は同じかもしれない……)


 なんとか手を差しのばしてやりたい。それが人ってもんだ。

 それにこの子は俺と異世界を社会的に繋げてくれるかもしれない。それに見ず知らずの人間にここまで関われるチャンスなんてそうないだろうし。

 そういう打算も込みで受けてみよう!


「そうか。事情はよく飲み込めてはいないが、その頼み引き受けたZE」


「え」


「そいつをギャフンと言わせて、ついでにこの国の治安機構か何かにしょっぴいてやるZE!」


「い、いいの? 僕、人のもの盗んだのに」


「もう気にしてないZE。ただしそれとは別に報酬は弾んでもらう」


 ユーゴは途端に渋い顔をした。


「ごめんなさい。僕、全部を失ってからは素寒貧なんです。日雇いバイトや簡単なクエストばかりこなしてる身だからまともな収入がないんだ」


「そんなことないZE。君にも払える報酬がある!」


「えっ?」


「俺に決闘魔法を教えてくれ!」


「決闘魔法を?」


「それが使えないと人権がないんだろ? なんとか習得して社会保障の対象にあずかりたいんだ」


 ユーゴは目を白黒させたが、すぐに答えた。


「……僕は決闘魔法は教えられません。専門技術が必要ですから。その代わり、それを授けてくれる場所なら教えられます。報酬はそれにしてもらえないですか?」


「構わないZE」


 それを聞くと、ユーゴはわずかに涙ぐんで言った。


「……ありがとうございます。こんな僕だけど力になれることならなんでも言ってください。えっと」


「ショーブ・ムトーだZE」


「ぼ、僕ユーゴ・べトール。よろしくお願いしますショーブさん」


「ああ、こちらこそよろしく頼むZE! あと敬語じゃなくていいZE」


「え、ああ。これは癖っていうか」


「じゃあショーブでいいZE。なんかそわそわするしな」


「は、はい。えっとショーブ」


「うん!」


 ふらふらだったが、ひとまず目標は出来た!

 決闘魔法を覚える。これが今俺が1番にクリアすべき課題だ。


「……さてショーブ。決闘魔法を覚えるんでしたよね。ならギルドに行きましょう」


「ギルド?」


「デュエリストが『冒険者』という役職になり、クエストをこなしていく場です」


「へえ。そんなところがあるのか」


「それだけじゃないですよ。ギルドは社会インフラを担ってるんです」


「インフレ? カードパワーのインフレなら日常茶飯事――」


「決闘魔法を覚えられます!」


 カン☆コーン!


「な゛に゛! 条件はなんだ!」


「試験官にデュエルで勝つだけ。わかりやすいでしょ」


 おお、なんて簡潔!


「それはありがたいZE! 俺の国で保証を受けるにはやれ申請しろだの書類を出せだの、色々クリアしてやっとだからな!」


「お堅い国ですね。ですがこっちも簡単じゃないですよ。試験官は強いんです。決闘魔法は実力の伴っていない人が習得出来るほどヤワじゃないってこと」


「なるほど。そこに行けば決闘魔法を覚えられて、しかも冒険者が出入りする分アンセルの情報集めも出来るわけだ。一石二鳥だZE!」


「わかってもらえたようですね」


「ああ。そしてこの雰囲気。言うしかないZE」


「はい!」






 ならギルドに行くZE!






 俺は街に向かうユーゴを追いながら思い出した。


(ん……? 何か忘れてるような)


 ――1日1回パックを開けられるスキルよ。


 カン☆コーン!


 忘れてたZE!!!!!

 ユーゴには悪いが隠れてこそっと開封の儀だZE!

 ッハァーン! 俺はポケットからパックをドロー!


 バリッ、ベリベリッ!バリッ!

 カサッ!


 ふお゛お゛! ふほほっ! ふほっふほっ! お゛お゛お゛お゛お゛!

 こいつは「物欲の壺」! 強すぎてデッキに1枚しか入れられない制限カード!


 やったZE!!!!!(ガッツポーズ)


「ん? 今なんか言いました?」


「なんでもないZE!!!!!」(無言のデッキ投入)






【今日の最強カード】


【物欲の壺】


単発魔法


①カードを2枚ドローする。


フレーバーテキスト

損はさせませんよ。

――怪しい占い師






【作者より】

 ここまで読んでくださりありがとうございます。

 パック開ける時の夢藤の言葉遣い元ネタわかる方いますかね。某カードゲームに関係するYoutuberの方なのですが。


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 次回は本日17:00~20:00頃に投稿予定です。よろしくお願いします!

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