第39話「緑の回廊」

【フィアナ】


「神緑のフェニックス」の効果により、ザミエルの攻撃力分だけフェニックスの打点が上がり、ついに戦闘で破壊した。


「この時、墓地にある『グリーン・コリドー 親愛のカカポ』の効果発動! 相手に1000ダメージを与える!」


 ずんぐりむっくりしたオウムの形をした、緑の風が優しくお兄様を包み込んだ。


「ぐっ……」


 1000→0。






デュエル終了

勝者 フィアナ・ガレア






【フィアナ】


「お兄様!」


 あたしはお兄様に駆け寄った。


「お兄様に闇のカードは似合わないわ……」


 お兄様はカードにより傷付いていたが、エルフの特性により少しずつ傷は治り初めていた。


「私の負け、か……。完敗だフィアナ。私から初めてもぎ取った勝利だ。しっかり噛み締めるといい……」


 負けに負けたお兄様は今まで見たことのないような清々しい顔だった。


「ありがとう」


「なんのことだ……」


「お兄様はあたしに笑顔をくれたわ」


「……何?」


「お兄様がいなかったらあたしはどうなっていたかわからなかったもの」


「フィアナ」


「お兄様があたしのことをどう思ってるかどうかはわからないけど、あたしはお兄様のことをとても大切に思ってるわ」


「お前」


 お兄様の傷ももう目立たないほどになっていた。

 その時、お兄様があたしを抱きしめる。


「すまなかった……! 実の妹、妬んでいたことを許して欲しい……。私と違って健康で元気なお前に嫉妬をしていたのだ。エルフ族の栄光などよりもそれの方に気を病んでいたのだ。だがお前を思う気持ちも本当ののこと……」


 そう言ってお兄様は自らのデッキを取り出し、40枚丸ごと――。


「混沌の力などいらぬ!」


 引きちぎった。

 お兄様は病弱ではあっても虚弱なわけではない。


「正気に戻ってくれて嬉しいよ」


「ふ……」


 あたしはお兄様の背中を撫でる。しかしその背中はもう確かに肉はついていなかった。

 混沌の力が抜けたのだろう。

 その時「いたぞ!」との声が聞こえた。あたしが吹き飛ばした兵士たちが立ち上がったのだ。


 ――バカな! ド、ドラゴンが消えている!


 ――見ていたぞ。あの女が倒したのだ!


 ――捕らえろ! 本部に入らせるな!


 あたしはさすがに息が上がっていた。徒手空拳を使い回し、お兄様とのデュエルでさすがに疲れている。


「な、なんとか倒さないと……」


 そう言ってカルトちゃんを抱えて立ち上がるが、オーラを出してもうまく発揮出来ない。


(力を発揮するだけの体力が……)


 その時、お兄様があたしの肩を掴んだ。


「フィアナ。お前は基地に進め」


「お兄様。でも体力が……」


「お前はその子を連れてアンセルを倒せ。ここは私が食い止める」


「でも」


「……妹を守るのが兄の役目さ」


 …………。


「わかった。でも無理しないで!」


「誰の心配をしている」


「そうだね!」


 あたしはカルトちゃんを背負い直した。目覚めるまであと数分か。


 ――裏切るのかダヴィンチ殿!


「こちらにつく意味がなくなったのでな。そして混沌の力はもう捨てた。悪いがリアルファイトさせてもらうぞ!」


 お兄様はそう言って姿勢を正し、拳で空気を吹き飛ばした。

 兵士たちはたちまち吹き飛んだ。お兄様はしっかり動けるらしい。


 ――ぐあああああ!


 ――バカな! 病弱ではなかったのか!?


「妙なうわさも流れたものだ。確かに私は病弱だが、虚弱なわけはない!」


 そう。そうだ。お兄様はあたしほどではないものの、大人10単位を1人で叩きのめせる程の強さを持つのだ。


「動けるねお兄様! あとはお願い!」


「任せておけ!」


 あたしは大きく頷き、基地に侵入する。

 この先にアンセルやその部下たちがいる。へばってないで進むんだ!











【夢藤】


 なんとかハガーを倒した。おかげでユーゴもバルムンクさんも共に侵入出来た。


「バルムンクさん。とりあえず虫野郎は締め出しましょう」


「そうだな。ついでに羽もぶっ壊しとくか」


 バルムンクさんはそう言ってハガーの背中についていた羽をもいだ。鉄が異様な音を立てて折り曲がる。この人もフィアナに負けず劣らずの怪力かよ。


「ありがとうございます。じゃあみんな行くZE」


 俺はすぐに扉に手をかけようとしたが、バルムンクさんが止めた。


「チッチッチッ。裏口とはいえ鍵がかかってるに決まってんだろ。ちょいとどいてな」


 ああ。確かに無防備なはずがないもんな。俺は頷いて横にどく。

 バルムンクさんは懐から鍵を取り出した。おお。


「開けるぜてめえら」


 バルムンクさんはそう意気込み、鍵をバチン、と解き、扉を開ける。俺たちは順番に入ったが、すぐに呆気に取られた。


(なんだここは……)


 俺たちはゆっくり歩いていたが、その歩みに言葉はなかった。いや、失ったというべきか。

 壁は鉄で覆われ、壁の隙間から見たこともない光がチカチカと灯っていた。

 超高層オフィスビルの一角といった雰囲気だ。俺はハガーの言葉を思い出す。


 ――この羽根は仲間から授けられたものさ。


 仲間……。高度な機械技術を持つ奴がいるとしたら有り得る話だ。


(なんだここは。ここ異世界だよな? テクノロジーの塊というかなんというか……)


 その時、バルムンクさんの歯軋りが聞こえた。


「あのハガーとか言う奴の装備からして嫌な予感がしてたが、ここまでとはな。どす黒い気持ちになるぜ」


「バルムンクさん?」


 ユーゴが冷や汗混じりに聞く。


「ここは元々古代ドワーフ族が暮らした遺跡。文化財だったんだ。近年ここを多種族向けの観光地として売り出そうって計画が出てて、俺はその交渉やらで出稼ぎに行ってたんだが、奴ら俺のいない間にこんなことを……」


 バルムンクさんは静かに拳を握り締める。確かに神社や寺がこんなおかしな感じに改造されてたら怒りも湧くよな。


「そういえばバルムンクさん。この街には長がいるって話でしたよね。彼はどこですか?」


 ユーゴが聞いた。あ、それ俺も聞きたい。


「確かに見ねえな。町の奴らに聞いとくべきだったか」


 バルムンクさんは「へましたな」とため息をついたその時、壁から大きな壁が開いた。


 ――町長の居場所か? もうそんなこと気にするな。


 壁からそんな声が聞こえた。


 ――なぜならお前たちはここで死ぬのだからな。


 その時、壁から大きな壁が開く。そのからミサイルが飛び出した。

 俺とユーゴは前の戦いで疲れていた分、反応に遅れを取った。しまった。当たる!


「ぐっ!」


 その時、バルムンクさんが俺たちにタックルして吹き飛ばした。しかしミサイルに被弾してしまった。


「「バルムンクさん!」」


 俺たちは咄嗟に声を上げた。


「その声! デュランダルだな?」


 バルムンクさんは頑丈な体とエルフの薬の効果で平気なようだったが、青筋を立てていた。デュランダル?


 ――久しぶりだな。バルムンク。


「……早めに気付いておくべきだったぜ。そういえばお前『電気』とかいうエネルギーを開発してたな。この建物はそれか」


 何? 電気の開発、だと。

 その時、またも壁から穴が開く。またミサイルか。


「覚えくれてて光栄だよ。バルムンク」


 しかし人影と声で俺はミサイルではないと気付いた。


「お、お前!」


 覆面の男だった。俺たちが初めて目撃した混沌のデュエリストだ。フィアナを傷付けた奴……。

 俺は奴を睨む。


「お前、ここにいたのか」


「……ああ。お前は確かエルフの少女をギリギリで助けた男か。何にし来た」


「知れたこと。アンセルの野郎を打ち砕くためだZE」


「まだそんな妄想を抱いているのか」


「果たして妄想で終わるかな」


 俺はデッキを構えた。しかしその肩に手が置かれる。


「どきな。こいつは俺がやる。お前らは先に行け」


「バルムンクさん」


「アンセルとの戦いって時にぶっ倒れちゃ困るんでな。それにこいつとはちょっとした因縁があってな。いつか懲らしめてやりたいと思ってたのよ」


 その目には確かな炎が灯っていた。


「その熱気、相変わらずだな。まるで蒸気機関のようだ。いいだろう相手になってやる」


 覆面はそう言ってデッキを構えた。


「あくまで答えるか。お前こそ痺れるようなデュエ魂持ってんじゃねえか」


「皮肉か? まあいい。強化したデッキの力、とくと味わうがいい」


「来やがれ」


 俺とユーゴは静かな状況をやや見つめていたが、すぐに走り出した。


「バルムンクさんお願いします! 俺はアンセルを倒してくる!」


「僕も一緒に戦う! 新しいデッキの力を見せるんだ!」


 バルムンクさんは無言で親指を立てた。

 デュエルの腕は足りないと言っていたが、本人たちはしっかりその気だ。もうここは任せるしかない。


 走っていると新たな扉が目についた。その時、あの掛け声が聞こえた。


「「デュエル!」」






【作者より】

 ここまで読んでくださりありがとうございます!

 デュエルはいよいよデュランダル戦とアンセル戦を残すのみ! 最後までお付き合いください!


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 次回は本日17:00〜20:00頃、いつも通りおまけ投稿予定です。よろしくお願いします!

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