第17話「パンティーあげちゃう!」(デュエルパート)

 下宿に着いた俺たちは部屋に戻ろうとする。


「あっ」


 そこでユーゴは青い顔をした。部屋の前に大家さんがいたからだ。


「おかえりユーゴ。お前今日が何の日か忘れてないだろうね」


 大家さんはでかい図体を揺らしてユーゴを詰める。

 ああ、朝急いでたのはそういう。


「……8万でしたよね」


「ハン。そんなんじゃ足んないね。そこのガキ2人分貰ってないだろ」


「え、ショーブの家賃はまだ先ですよ。フィアナはそもそも入ってない!」


「お黙り! 貧乏人が金持ちに逆らえると思ってるのかい!」


「ぐっ」


「でもあたしは優しいからね。ふんだくろうなんて腹じゃない。だからそうだね。今月分とさっきの口答え料。その他諸々込みで100万といこうじゃないか」


「そ、そんな金は」


 あるんだけどな……。


「騙そうたってそうはいかないよ。そのかばん、食料だけじゃないだろ」


 その通りですがほとんど金と貴重品だけです……。


「あたしの勘じゃざっと500万と見たね。そのうちの100万なんてちっぽけだろ? 感謝しな」


「ど、どこまで足元見るつもり――」


 大家さんはユーゴの襟を掴む。


「払うか払わないか! どうなんだい。ええ!」


 この様子じゃ普段からかなり舐められているな。

 100万か。払えないわけじゃないがここは本人の名誉を守ろう。

 俺は大家さんの肩を掴む。


「そいつ離してやってください。それより大家さん。俺の顔に免じて8万で――」


 しかし声を出したのはユーゴだった。


「わかりました。払います。100万」


 大家さんが固まった。しかしすぐに俺とユーゴを突き飛ばす。


「なら払いな。今すぐにね」


「ユーゴくん!」


 ついにフィアナが立ち上がった。


「2人共邪魔しないで!」


 俺は眉をひそめる。


「だが!」


「お世話になったのは確かなんです。僕には払う義務がある」


「だからって100万は」


 ユーゴはムッとし、俺に耳打ちする。


(どうして僕の演技がわからないんです!)


(えっ)


(この人が100万って言ってるならそれで済ませるのが賢明です。かばんの中身知られたら目も当てられないよ!)


(でも、それじゃお前が……)


(安心して。タダで払うわけじゃない。僕は賭けに出る)


 ユーゴが立つと、大家さんはそれを鼻で笑う。


「友達にお別れの挨拶かい」


「まさか。別れるのはあんたとだ」


「はあ?」


「僕とデュエルだ。払うのはそれからにしろ」


「何言って――」


「僕が勝ったら払うのは正規の家賃8万だ。解約もしてもらう。その代わり負けたら100万。しっかり払いましょう」


 大家さんはすぐに顔を真っ赤にする。


「舐めてんじゃないよ! あんた駆け引き打てる立場じゃないだろ!?」


「フィアナ」


 ユーゴは床に落ちていた小石をフィアナに渡した。


「それ握り潰して」


「フンッッッッッ」


 こいつ小石を砂にしやがった……。


「これでいい?」


「完璧です」


 こいつ絶対怒らせないようにしよう。


「どうしますか」


 だがさすがの大家さんもこれには青ざめた。こうかばつぐんだ!


「チッ……。わかったよ! やればいいんだろやれば!」


「話が早い。それではデュエル!」


 決闘魔法はユーゴが使った。






【大家さんの先攻】


 舞台は近くの河川敷。先攻は大家さんだ。


「行くよあたしのターン。あたしは『ゆるふわゴリラ』を召喚。その時の効果であたしの山札の下3枚をゲームから取り除き、攻撃力を500上げる!」


 ピンクのゴリラ!? 頭のてっぺんにリボンと口紅まで……。大家さんあんたセンスやばいZE。


「さらにもう1体ゆるふわゴリラを召喚し、同じ効果をもう1回使う!」


 いきなり2300のモンスターが2体。絵面きっつ!


「あたしはカードを3枚伏せて終わり!」






【ユーゴのターン】


「僕のターン、ドロー」


 どう出るか。相手の場は堅いぞ。


「大家さん。いい鳴き声あげてね?」


「ウホ?」


「僕は魔法『大掃除』を発動! ライフを半分払い、自身以外の魔法を全て破壊する!」


 ライフ4000→2000!


(何!?!?!?)


 効果も通り、大家さんの魔法は全て飛ばされた。


「ふざけんじゃないわよ1/3交換じゃないの! アドバンテージ警察呼ぶわよ!」


「さらに僕は『屍界の狼男』を召喚し、その時の効果発動!」


「無視!?」


「出た時、相手の場にモンスターがいれば僕の山札の上5枚を墓地に送る! さらに落ちた屍界モンスター1枚につきその攻撃力を500上げる!」


 現れた山札の上5枚が闇に包まれる。


「ハッ。1枚も当たらないよ。あんたはそういうツキさ!」


 しかし内訳を見て大家さんは冷や汗をだらだらさせる。


「嘘だろ……」


「残念。5枚ヒットし、攻撃力は2500です。ツキがあったみたいですよ? 狼男なだけに」


 攻撃力0→2500!


「こ、この」


「さらに墓地の『屍界のグリマルキン』2体の効果発動! 屍界モンスターがいるので墓地から召喚!」


「で、でも打点が足りないね!」


「なら潰すまでです。魔法『屍界の災い』を発動! 自分の場に屍界モンスターがいれば相手のカードを2枚破壊!」


「何してくれんのよウッホオオオ!!!」


 大家さんがついにドラミングを始めた。


「うるさいですね! 永続魔法『屍界』を発動! 屍界モンスター全ての攻撃力が500上がる!」


 大家さんが一気に青ざめた。


「ま、待って! 8万でいい8万でいいから!」


「バトル! グリマルキンでダイレクトアタック!」


 4000→2200!


「か、解約するから! もう酷いこともしないしちゃんと謝」


「もう1体のグリマルキンでダイレクトアタック!」


 2200→400!


「あっそうだキスとかどう!? 初めてでしょあんた! お姉さんが悶えさせてあ・げ」


「狼男でダイレクトアタック!」


「あっそうだあたしのパンティーあげちゃう! キャー恥ずかしい! もうあげちゃうわあたしのパン」


 1000→0!






デュエル終了

勝者 ユーゴ・べトール






 大家さんは気絶した。

 しかしユーゴはまだ何か用があるのか、麻袋から金を取り出すとそれを大家さんの頬に叩きつけた。


「8万ジュエルでダイレクトアタック!」


 0→−80000!


 いいねそれ。俺もやろう。


「ユーゴ。かばんから2万出しても?」


「どうぞ。今回のクエストの主役はあなたです。それくらいは」


 よし。ユーゴを苦しめた罰だ。


「短い間クソお世話になりました料でダイレクトアタック!」


 80000→−100000!


「行きましょうか」


「おう」


「あたしもやる〜」


「「やめろ!」」











 その後、俺たちは正式に大家さんのところと解約した。新たな宿を探さねばならない。


「ま、しばらく転々としながらクエストだな。で神都や政府関係に今回のクエストの情報が行き渡ったら俺たちを売り込む。もちろんアンセルの情報も探さないとな」


「ですね。だからフィアナさんもちゃんと金稼いでくださいよ」


「金って何? どんな効果? いつ発動する?」


「お金はデュエルじゃないんですけど」


「何!? お金とはデュエルではないのか!?」


「ムトー。あとでこの子にちゃんとした教育与えてやりましょう。貨幣経済社会にいなかった弊害がでかすぎる」


「うん。みっちりな」


 しばらく歩いていると、ユーゴが俺を小突いた。まーたにやけて。


(今回のクエスト、ありがとうね)


「……ふふ」


 いい子だ。頭ぽんぽんしてやろう。


「あの、さっきからそれなんですか? 今日ずっと気になってるんですが」


 やめろ! そんな目で俺を見るな!


「……俺の国の、信頼の証」


 ユーゴは咄嗟に尻を隠した。

 違う、違う。そうじゃ、そうじゃない。






【今日の最強カード】


【大掃除】


単発魔法


効果

①ライフを半分払い、このカード以外の魔法を全て破壊する。


フレーバーテキスト

そうじゃない!掃除はもっと勇ましく!






【屍界の狼男】


生息地:闇の国

種族:リビング・デッド


攻撃力:0

守備力:0


効果

①このモンスターがフィールドに出た時に発動する。自分の山札の上から5枚を墓地に送り、こうして送られた「屍界」モンスター1体につき自身の攻撃力を500上げる。


フレーバーテキスト

魂の光を浴び、獰猛にも襲い掛かる。






【作者より】

 ここまで読んでくださりありがとうございます!

 今回は多分初めてのギャグ回です。

 次回からはいよいよ夢藤の掘り下げ回です!


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 次回は本日頃に投稿予定です。よろしくお願いします!

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