第16話「クエスト完了!」

 俺たち3人はギルドに戻った。今回の報酬を受け取るためだ。

 フィアナはその間にギルドに登録する。フィアナは既に決闘魔法を覚えているため試験はパスと思ったが、事務員に聞いたところ「冒険者に相応しい実力があるかを見る試験は受けてもらう」とのことだった。

 不合格の場合、再試には1ヶ月の期間を空ける必要があるらしいのだが。


「イテキマース!」


 恐ろしく呑気な女。俺でなきゃ幻滅しちゃうね。

 もちろんユーゴも呆れている。


「僕不安なので近くで見てます」


「じゃあ俺はその間報酬もらってくるZE」


「わかりました。ただし報酬もらったら走って帰ってくださいね。大金だったら強盗もあり得るから。僕は後からフィアナを連れて帰ります」


 ユーゴにハンドサインを送る。


(さ。俺はやるべきことを)


 俺は歩き出し、報酬受け渡し場の扉を開く。ここはギルドと併設されている。


「失礼します」


「早かったな」


 担当はこのクエストに許可を出してくれたのと同じ人だった。


「いいネタ詰まってます」


「ほう。じゃ早速見せてもらおうじゃねえの」


 受付さんはそう言い、俺にイラストもテキストもないカードを渡した。


「これ持って『決闘魔法、複写』って言いな。んで、明かす記憶を再生するんだ。そうすればこのカードにそれが記録される」


 へえ。意外とお手軽。


「決闘魔法、複写」


 俺は覆面との出会い、そして奴の逃走までを追憶する。フィアナとのあれこれは本人のプライバシーに配慮し、やめておいた。


「終わって、内容に納得してれば俺に渡しな」


 言われて目を開けると、そのカードに記憶のワンシーンが複写されていた。カード名はないが。


「大丈夫です」


 俺は受付さんに渡す。


「オッケーだ。じゃ俺も見るとするかな。決闘魔法、開示」


 カードが光る。

 受付の人は「おお」とか「ほう」とか「こりゃあ」とか色々反応しながら、ついにはそれを読み終えたようだ。


「ふむ……。あの覆面、カードを実体化させたのか。こりゃ一大事だ。早えとこ対処しねえと」


「神都に伝えますか?」


「もちろんだ。こんな情報は国が本腰入れるタイプだからな。つうわけで報酬持ってきてやるよ。とてもカウンター分じゃ足りねえ」


 カウンターじゃ足りないって。一体、一体。


「いくらですか?」


「俺の見立てじゃ100万はくだんねえな」


「マジか……」


 う、う、嘘だろ。確定はしてないが宝くじ規模の金だ。

 それだけ金があったら俺の人生ももっと楽だったかな。

 そんなことを考えていると、10分くらいで受付さんが戻った。


「ほらよ。クエスト完了だ。受け取んな」


 麻袋が棚にドカッと置かれた。ジャラ、と金銭感覚を歪ませる音が聞こえる。


「こ、これ。いくら――」


「500万ジュエルだ。夜道気を付けな」


「あ、あ、ありがとうございます!!!」


「おう。中には領収書とか明細とか、受け取った情報の詳細とかも入ってるからな。失くすなよ」


「はい!!!」


 俺は報酬をかばんにしまう。

 これでかばんには薬、宝石類、大金と、命に等しいものばかりが詰まることになる。


(やった。やったZE!)


 ウッキウキのウッキウキで窓口を出る。

 これでまともな家が買える。ユーゴの下宿暮らしも終わらせてやれる。

 その時。


「兄ちゃん待ちなよ。いいもん持ってんじゃん」


「お話しようぜ。その中身についてさあ」


 俺はでかい筋肉2人に絡まれた。1人はハゲ。もう1人はモヒカンだ。

 しまった。走って帰るべきだった。俺は無視を決め込み2人の脇を通り抜けようとする。


「兄ちゃん。荷物重そうだから俺らが持ってやるよ」


 しかしハゲが進むのを邪魔する。


「遠慮すんなって。親切親切」


 モヒカンが俺の肩に腕を回す。

 この雰囲気。だが一応言ってみるか。


「……冒険者のデッキケースを磨いただけだ。大した金じゃない」


「へえ。そりゃ本当かい! 小銭かどうか確かめてえなあ!」


「見せてくれたらいい感じの姉ちゃん紹介してやるよ!」


 お前ら。


「お前らそれでもデュエリストか!」


「「リアリストだ!」」


 …………。


「「検問デュエル開始ィィィ!」」


 ハゲが俺を殴りつけた。モヒカンはかばんを奪おうとする。

 やめろ。それは。それは!

 その時だった。






「シ゛ョ゛ー゛ブ゛く゛ん゛に゛何゛し゛て゛ん゛の゛よ゛!゛!゛!゛」






「「タコスッッッ」」


 聞き慣れたデュエルバカの声が耳をつんざいた。咄嗟に目をつぶる。

 その間、鈍い音やらわけのわからない音やらが何度も何度も鳴り響く。そのたびに男2人のうめき声が聞こえる。


「やばい……」


「に、にげ……」


「ず゛っ゛と゛あ゛た゛し゛の゛タ゛ー゛ン゛!゛!゛!゛」


「ま、まっで……」


「だずげ……」


「ま゛だ゛タ゛ー゛ン゛が゛続゛い゛て゛る゛で゛し゛ょ゛う゛が゛!」


「モウムリ……」


「コロシテ……」


 死を懇願するほどの痛めつけ……。おかしいな。エルフって貧弱じゃなかったか?


「ちょっと!」


 あ、ユーゴ来てくれた。


「死んじゃう! 死んじゃいますそれ以上は!」


 俺もなんとか立ち上がる。


「そ、そうだぞフィアナ……。それに早く逃げないとかばん取られるぞ……」


「金って何? どんな効果? いつ発動するの?」


「うだうだ言ってると俺とユーゴはお前ともうデュエルしねえぞ……」


「やだあああああ」


 俺はフィアナの首根っこを掴み、ユーゴは転がっていたかばんを背負い、その場からずらかった。

 振り向くと男たちは依然倒れたままだった。なんとかなったようだ。


(死んでないよな……)


「ママ……」


「あ、お迎えだ……」


 よかった生きてる。

 するとユーゴが不安げに言う。


「怪我大丈夫でしたか?」


「ケツに指突っ込まれたりしてない?」


「まだ痛むZE……。ていうかフィアナは何気にしてんだよ」


 するとフィアナが手を叩く。


「薬の出番だね!」


「あ、そうだ。試してみようZE!」


 俺たちは歩みを止め、かばんから小箱を取り出す。2人も止まった。

 開けて小瓶を取り出し、腫れに一滴塗る。


「おお痛みが引く!」


「腫れも引きましたね!」


「けつにも入れよっか」


「遠慮しとくZE」


 ともあれこれでひと安心。

 あ、そういえば。


「フィアナ。そういえば試験どうだった?」


「うん? ああ受かったよ。楽勝だった」


「それはよかっ」


「何もよくないわなんにも! なーにがハンデッドキースよ! ハンデスハンデスうっさいから先攻ワンキルかましてやったわ!!! ざまあねえっての!!!」


「ええ……」


「おかげで全っ然デュエルし足りないわ。ショーブくんユーゴくん、あとでろッッッ」


「フィアナ。お前明日から種族オーガに変えたほうがいい」


「なんで? あたしか弱い乙女なんだけど」


(無視だ無視)











 それから30分ほど。閑散とした街並みが見えてくる。


「下宿見えてきましたね」


「ああ。でも多分今日で解約だ。あの大家さんマジ当たりきついからな」


「賛成です。僕ももうごめんです。早く次の宿探さないと」


「大丈夫だろ――」


「「こいつが変なことしなければ」」


「なんであたし見てるの2人とも」






【作者より】

 ここまで読んでくださりありがとうございます!

 どうでもいい情報ですがフィアナは「でかい」です。


 いいね、コメントなどくださるととても励みになります。星での評価、レビュー、作者や作品のフォローなども入れてくださると泣いて喜びます。

 次回は本日17:00〜20:00頃に投稿予定です。よろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る