第7話 マリアさん


露天屋のおじさんが言ってた肉の卸屋を探すと意外とすぐに見つかった。



「すみません。肉を買い取って欲しいのですが〜。」


何度か大きな声で叫ぶと、肉の卸屋の中からガタイの良い強面のおじさんが出てきた。


「そんな喚かんでも聞こえてるわ。ところで、肉の買い取りか?」


「はい、そうです。初めて何ですが大丈夫ですか?」


「それは大丈夫だが・・・。お前さんが仕留めた獲物か?」


「そうです。これなんですが、可能ですか?」


俺が袋からラビット1匹を取り出すと、おじさんはそれを受け取りじっくりと確認する。


「これはお前が処理したのか?」


「そうですが、何か問題でもありますか?」


「・・・いや、綺麗に下処理されている。全部買い取ってやるから全部だせ。あと何匹いる?」


「ありがとうございます。ただ、買い取り額を聞いてないので、それから判断させて下さい。」


おじさんが、っふと少し笑う。


「・・・しっかりしてやがる。確かに買い取り額を提示してないのは、失礼だったな。良い下処理がしてあるし、1匹300ニルだな。どうだ?」


確かに冒険者ギルドへ持ち込めば、300ニルだったと記憶している(エド情報)。ただ、それは下処理などしてないラビットの素材としての値段だ。下処理してあり、肉にも価値があればもっと良いのでは?


「おじさん、それは足元見すぎでしょ。冒険者ギルドへ持ち込んでも300ニルだよ。下処理が出来てるから肉にも価値がある。ってことは、600ニルでも良いんじゃない?」


おじさんは、ちょっと驚いた顔をしてこっちを見てきた。


「・・・まあ、300ニルは安すぎだな。だが、500ニルが限界だな。確かにお前さんを試したのは悪かった。が、素材として300ニルとして、その中にクズとはいえ肉も含まれている。その肉が良質の肉になっても倍額までは出せない。これからもこの状態で持ってくるなら今後も1匹500ニルで引き取ってやる。もちろん、他の卸屋で確認してそっちが良けりゃあそっちに卸せ。」


おれは少しおじさんの顔を見てから、すぐに決断をした。こういった事はグチグチせずに即決した方が互いに気持ちいい。


「OKじゃあ、4匹いるので全てお願いします。」


「他の所へ持ち込んで確認しなくて良いのか?」


「良いですよ。おじさんの査定は他所でも変わらないでしょう。下手すれば下がる可能性さえある。だったら、おじさんの信頼を少しでも買うために即決した。ただ、それだけです。」


おじさんが、少し驚いた顔をしている。


「はははは。面白いやつだな。名は何ていう?」


「エドです。これからもよろしく。」


「エドか、ああ、こちらこそよろしく頼む。俺は、タンクだ。他に何かあれば、買い取るぞ。」


「タンクさん、ウルフの毛皮って扱ってます?それとその肉も?」


タンクはちょっと驚いている。


「ウルフをお前みたいなのが倒したっていうのか?しかもソロか?」


「タンクさん、お前みたいのがって・・・俺だってれっきとした冒険者なんだから。」


「いや、すまんすまん。毛皮も扱ってやるぞ。どうせ解体し終わった素材は、商人ギルドへ販売することになっているし、そのついでだ。」


タンクさんは強面だが、いい人そうで良かった。ただ、心を許すのはまだ禁物だな。最低限の警戒はしておかないと。


タンクさんへ剥ぎ取った毛皮を渡すと、買取り査定が下がった・・・。


「こりゃ駄目だ。所々に肉が多めに残ってたり、逆に薄すぎる部分がある。通常なら毛皮だけで3,000ニル程度出せるが、今回は1枚1,500ニルってとこだな。3枚で4,500ニルでどうだ?」


「・・・自分では上手く出来たと思ったのにやぱっりプロとは全然違うか・・・。それの金額でお願いします。」


さっきタンクが持ってきてくれた見本の毛皮を見ると流石としか言えなかった。


・ラビット4匹×500ニル

・毛皮3枚×1,500ニル

・ハイラビット1匹が3,000ニルだった。


合計9,500ニルとなりこれで生活が成り立つ。


結局、タンクさんにダメ元で薬草の買取りもお願いしたら、今回に限り買取ってくれた。最終的に商人の所へ売るとのこと。



薬草10本×200ニルで2,000ニルとなり、総合計は11,500ニルとなった。銀貨1枚と銅貨15枚を受け取った。





そうこうしている内に夕方になっていた。急いで、昨日泊まった宿へ向かい2泊分お金を払った。


そして、またスゥリールを訪れる。まんまと看板娘作戦に引っ掛かってしまったが、俺はあくまで料理が美味しいから、通っているのだ。


「いらっしゃい。お客さんまた来てくれたんだね。1日2回って若いのに懐は大丈夫?」


「大丈夫だよ。ここに通えるくらいには稼いでいるよ。」


彼女は俺が無理して通っているのではと心配してくれていたようだ。


「だったら、何にします?」


「えっと、今日は定食Bにしてみようかな。色々と試して見ようかと!」


「それ、いいと思う。それじゃ、定食Bね。待ってて。」


そういって、こっちへ手を振って奥へ引っ込んでいった。夕飯時で意外と客が多く、俺への視線が痛い・・・。「誰だあいつは?」「俺のマリアちゃんに〜」などど声が聞こえる。


ここで、彼女の名前が「マリア」と判明した。視線は痛いが、思わぬ収穫があった。


料理を運んでマリアさんがやってきた。


「はい。おまたせしました。定食Bです。」


「マリアさん、ありがとう。」


マリアさんがちょっと驚いている。


「っえ、何で私の名前知っているの?」


「何か、周りの人達がマリアさんを呼んでるのが聞こえて・・・。」


「そっか、そうだよね。これからもよろしくお願いします。」


「俺はエドって言うんで、こちらこそよろしく。」


ペコリとお辞儀をしておく。


「エドくんか〜。わかった、よろしくね。」


そういって、マリアさんは別のお客の接客へと戻っていった。



やっぱり、定食Bも抜群の美味しさでした。



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