第17話 ブラックウルフ
タンクさんが固唾を呑む。俺は心の中で召喚獣を呼ぶ。目の前に2m程の全身鎧を纏った『忘却の騎士』が現れた。それを見たタンクさんが驚き後退りした。
「っお、おい何だコイツは?」
「っえ?何だって召喚獣ですよ。『忘却の騎士』って言って、物凄く強いんですよ。コイツと俺のコンビは最強です。」
「・・・。」
「タンクさんは信用しているから教えたんです。他に知るものは居ません。俺の切り札ですから。」(実はトリートとメリーは騎士がエドの召喚獣であると知っている。しかし、エドは気を失っていてその事実を知らない。)
「エドの仲間ってのは、この騎士で、そいつと2人でレッドウルフを倒したって事か…。でも、コイツがそんなに強いなら、もっと沢山の素材を運んで来れるだろう?金が欲しいならそうするのに何故しない?」
「それは、目立ちたく無いからですよ。 ここに来ているのだって、色々あって冒険者ギルドへ持って行くと都合が悪いんです。出来なくは無いですが・・・冒険者ギルドは最後の手段と考えてました。」
「まあ、訳ありなのは初めから聞いてたか…。まさかこんな切り札を隠し持っていたとはな。」
「切り札は、最後まで隠してるから切り札なんです。おいそれと出せませんよ。」
「っふ。そりゃそうだ・・・。」
「そう言えば、今後も全ての素材を買取って貰えるんですよね。だったら、これもお願いします。」
俺は全て買取って貰うつもりなので、もう1体を袋から出した。
「この黒いのは物凄く強くて大変だったんですよ。死にかけました。」
「おいおいおいおいおいおいおい。そりゃーブラックウルフじゃねーか!!」
「ブラックウルフですね。」
「・・・コイツは偉いこっちゃだな。」
「今後は何でも引き取って貰えるって聞いたので、切り札をお見せした。コイツもよろしくお願いします。」
タンクさんは結構悩んでいる。
「まあ、そう言う約束だからな。分かった、どうにかしてやる。ただ、肉はもうダメそうだから、素材だけの買取りになるが良いか?」
「それは、大丈夫です。」
「明日の夕方にもう一度ここに来れるか?」
午前中に狩りに行くかどうか考えていたが、良い事を思いついた。
「それは、大丈夫です。明日、昼過ぎにまた来ます。それと、タンクさんにお願いなのです。切り札の『忘却の騎士』を教えたので、コイツがウルフを持って来たら買取って貰えますか?代金は俺が後で貰いに来ますから。」
「まあ、そんなに大量じゃ無ければ良いぞ。」
「じゃ、その時はよろしくお願いします。」
そう言って、肉卸店を後にしたのだった。レバー串を2本買って、食べながら孤児院へ帰った。
◇◆◇◆◇◆
「ただいま。」
孤児院の扉を開けてあいさつをする。
「おかえり。良かった、前みたいに帰ってこないかと思った。」
トリートは安堵の表情を浮かべている。以前のエドは、早く独り立ちして大人になりたかったらしい。12歳の時に冒険者登録を行い孤児院を飛び出た。
町を出るまでの決意と財力が無くアイスラン町で生活を送っていた。
「心配するなって、何も言わずに居なくなったりしないよ。」
トリートの頭をポンポンと優しく叩いた。
「もう、そうやって子供扱いしないでよ。」
俺の手をトリートは払い退けてくる。
「いや、ごめんごめん。可愛くてついな。」
「っな、何が可愛くてついよ。私だってもうエド同じ15歳の成人した大人なのよ!」
「はいはい。悪かったよ。」
顔を赤らめて詰め寄ってくるトリートに対して、俺は手を上げて、降参ポーズをとった。
「わ、わかれば良いのよ。それより、夕飯まだだよね?皆んなはもう食べ終わってるのよ。すぐに用意するから、座って待ってて。」
「うん。よろしく!」
「さっきは逃げられちゃったけど、ちゃんとこれまでの事を話して貰いますからね。」
「・・・はい。」
そう言って、夕飯を食べ終わった後に色々とこれまでの3年間の事を事細かにトリートより事情聴取されるのだった。
簡潔な報告に勤めたが、細かく色々とトリートは俺へ質問してくる。エドの記憶を辿りながら、話せる範囲で話してやるのだった。
「じゃあ、今日はここまでにしてあげる。」
「っえ、今日はってもう話すこと無いぞ。」
「明日は明日であるから良いのよ。まあ、明日も夕飯後だよ!」
「わ、わかったよ。」
ちょっと遅くなってしまったが、日課の訓練を行い眠りに着くのだった。
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