第50話 スゥリールの惨劇


転生111日目の夜。


<エド視点>


ギルド長の依頼で、アイスラン町の南側の森の中にいる。


分身も1人おり、2人でモード町のスタンピードの余波に対応している。ダンジョン側のスタンピードで大変なアイスラン町には、2人の分身がいる。(あと、シキもいる。)



夕方にこの場所に着いて、すでに5時間以上経過している。ザコばかりであるが、1,000体以上のモンスターを既に討伐した。


ザコばかりと言いつつ、オークやレッドウルフも含まれる。銀プレートの冒険者からすれば、オークやレッドウルフはある程度手こずるモンスターである。



なお、森での戦闘においては、北のアイスラン町へ向かっているモンスターだけ討伐している。戦闘によって東や西へ逃げていく者は、放っておく。いちいち全滅させていたら、キリが無い。



そして、既に分身を送ってアイスラン町の冒険者ギルド長へモード町で発生したスタンピードの情報を報告している。更に「可能な範囲でスタンピードの足止めを行う。」と伝えて今に至る。



ギルド長としては、町から僅か数時間の所までモード町のスタンピードが迫っているので、対策準備の時間が欲しいはずだ。


その対策準備時間を俺がどれだけ稼げるかで、町全体の生存確率も変わってくるだろう。



・・・・



転生112日目の明方。


更に7〜8時間が経過した。


これまでの疲労が蓄積されており、かなり限界近くなってきた。精彩を欠き、ちょっとしたミスが増えていた。


若干であるが、狙った場所より数cm単位で斬撃の位置がズレる。また、剣速も遅くなっている気がする。剣を持つ手が少しづつ重く感じる。


残念だが決定的なミスが発生する前に、撤退を試みることにした。分身に殿しんがりをさせて、本体の俺は先行してアイスラン町へ戻った。




◇◆◇◆◇◆



転生112日目の昼。


アイスラン町の某部屋。


「っは・・・・・よく寝たな・・・。」


見慣れない部屋で目を覚ました。部屋には、簡素なベッドに机と椅子があるだけ。


少し喉が乾いていたので、収納スキルから水を出してゴクゴクと飲む。一息つくと、急に分身の記憶が俺の頭に入ってくる。


すぐに起き上がり窓を開けると、町中に危険を知らせる鐘が鳴り響いていた。少し遠くの方だろうか、戦闘音も聞こえてくる。


「やばいな。」




朝方に南側の森の偵察から帰還してすぐに、偵察情報をギルド長へ報告。


その後、疲れがピークに達しており、眠気が襲ってきてそのまま冒険者ギルド内で倒れた。たぶんここは、冒険者ギルドの仮眠室なんかだろう。


そして、爆睡してしまった・・・。


その結果、只今、太陽の位置からして、昼過ぎ・・・7時間ほどは寝ていた。ただ、そのおかげて体力・魔力共に満タンで、疲れはすっかり抜けている。



寝ている間に消えた分身は2人。南地区と北地区だな・・・。状況からして、両方ともまずい状況。それでも、北地区はまだ幾分かましだ。


となると、南地区へ向かうのが最善か?


部屋を出て、そのまま受付まで走る。ギルド長に状況を確認しようとしたが、既に南地区へ向かったとの事だった。


「エドさんは、南地区へ向かって下さい。今の所、北地区は何とかなっています。だた、既に南地区の門が崩壊されてモンスターが町中へ入り込んでいます。」


「わかった。俺はこれから、町のモンスターを殲滅しつつ南地区へ向かう。」


「よろしくお願いします。・・・あと、これお守りとして持って行って下さい。絶対に、絶対に、後で返して下さいね!約束です。」


この受付嬢とは、最近ちょこちょこ話してはいたが・・・。勢いに押されて、彼女が身につけていたペンダントを受け取ってしまった。


「お、おう。・・・ちゃんと、後で返すわ。」


「絶対ですよ。」


「絶対だ。」


「はい・・・待ってます。」


恋人同士じゃないんだけど。受付嬢の頬が赤く染まってる・・・。本当に隙きあらば、色々と恋愛イベントが発生するな!!


本当は恋愛RPGゲームに転生って訳じゃないよな??(『違います!』)




冒険者ギルドを飛び出して、移動しながら分身2人を出しその顔を隠させる。そして、3人で話しをする。


「南門が破壊されている。とりあえず、散り散りになって各自モンスターを殲滅しつつ南門へ向かって移動。南門で合流だ!後の事はその場の指示に従おう。」


「了解!ところで、マリアさんが気になるんだがどうする?」


「俺もだ!トリートと孤児院はシキが守ってくれている。しかし、マリアさんとまだ逢えてないから、彼女の安全を確認出来てない。町中にモンスターが入り込んでいる状況だから尚のこと心配だ!」


「じゃあ、俺がちょっと様子を見てくる。状況がヤバかったら、空にファイアボール花火でも上げて知らせてくれ。」


「分かった!じゃあ、マリアさんは任せた!」


「おう。任せておけ!」




本体の俺がマリアさんの様子を見る役割だ。と言っても、時間が無いので直ぐに料理店に行く。彼女の無事を確認し、安全を確保したらすぐさま南門へ向かう。


店へ向かう間。

それこそ5分足らずだったが、10匹程のウルフと遭遇した。もちろん、サクサクと倒したが想像より町中へ入り込んでいるモンスターの数が多い。


スゥリール料理店に着くと店の周りに数匹のウルフがいた。外のウルフを倒して店の中に入ると、荒れ果てている・・・。



ランチ時であっただろう店内。テーブルは倒れて、食事も散らばっている。


戦いが起こっていたのだろうか?

そんな感じの荒れ方だ。


厨房からは鍋がグツグツと煮立っている音がする。火は付けっぱなしのようだ。



店内の様子を伺っていると床に散らばった物を食べていたウルフ3匹が俺に気づいてこっちを向いた。


牙を剥き出しにして、襲いかかって来る。俺は怒りを抑えて冷静にウルフを葬り去る。


すぐさま、厨房から俺の不意を突いてレッドウルフ2匹が俺の足と首元を目掛けて飛び掛かってくる。しかし、不意を突かれようが、たかがレッドウルフに遅れを取らない。


足を狙って来た奴にはカウンターで蹴りを入れ。首を狙って飛び掛かってきた奴には、拳をお見舞いした。


それだけで、レッドウルフの頭は変な方向へ曲がって、首の骨が折れた。


俺は怒りを抑えきれずに表に出していた。


厨房の床に倒れている女性の足が見えたからだ…。





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