第51話 絶体絶命



俺は怒りを抑えきれずに表に出していた。


厨房の床に倒れている女性の足が見えたからだ…。



恐る恐る、ゆっくりと厨房へ向かう・・・。


厨房の中を見ると仰向けで絶命している女性がいた。腹部から血が流れており、内臓が露わになっている。


レッドウルフの餌食になっていたのだろう・・・。


しかし、ホッとしている自分がいた。「・・・・最低だな・・・・・。」横たわっている女性は、マリアさんではなかった。


店長とマリアさんの姿が見えなかった。


すると、裏庭から悲鳴が聞こえた。



◇◆◇◆◇◆



<マリア視点>


数日前からモード町付近で発生するスタンピードの話しで持ちきりだった。


そして、冒険者ギルドが率先して、スタンピードへ備えて町の防衛対策を行っている。私は、そんな皆が少しでも元気になるように毎日美味しい料理を提供している。



それにしても、領主様は・・・あまり良い噂を聞いていなかったが、最低だと思う。


騎士団を住民のために活用せず、私利私欲のために・・・領主邸の警護のために使っているようだ。なぜこんな領主様が私達の領主なのか・・・。




そんな中、ふとあの人エドくんのことを思い出してしまう・・・。


「エドくん、君は大丈夫だよね・・・?」


彼がこの町を出てからもうそろそろ2ヶ月が経過する。彼は、南へ向かうと言っていたので、だぶんモード町へ向かったのだろう。


モード町付近からスタンピードが発生するという事は、それだけ彼に危険が迫るという事だ。


気になる人に2ヶ月も逢えないのは結構辛い…。






そんな矢先、町全体が慌ただしくなった。


来店するお客さんからの情報だと、スタンピードが起こったとの事だった。門が固く閉ざされてモンスターの侵入を防いでいるが、時間が経つにつれて状況が悪くなっているらしい。


そして、とうとうあちこちで危険を知らせる鐘が鳴り響き始めた。



「店長、何かあったみたいですよ。さっきから鐘が鳴り響いていますもん。」


鐘がなり始めて暫くして店長と会話をしていると、常連客が店に走り込んで来た。


「モンスターが町に侵入した!マリアちゃん達も安全な場所に避難するんだ!」


わざわざ、危険が迫っている事を知らせてくれた。そして、それを聞いた店長はすぐに店内の客に向かって大声で叫んだ。


「お代はいいから、皆もすぐに安全な場所へ避難するんだ!」


「「「うわぁーーーーー。」」」


お客さんが次々と席を立って逃げ出し始める。私は店内からお客さんが出ていくのを誘導していると突然窓ガラスが割れた!


バリン、ガチャン。


窓からウルフが飛び込んで来たのだ。


まだ残っていたお客さんもおり店内はパニックになる。私も恐怖で頭が真っ白になってしまった。


その後の事は良く覚えていない。


気付いたら、店長に腕を引っ張られて裏庭まで逃げていた。そして、裏庭の食糧庫へ押し込まれた。


「マリアはここで助けが来るのを待ってろ!俺は、ウルフ達を引き連れて遠くへ行く。」


「そ、それじゃあ店長が危険です!ここで一緒に助けを待っていれば…。」


「・・・ウルフの1匹や2匹、俺だったら大丈夫だ!店内にもまだ客が居るかも知れんから、見回ってから行く。」


何も出来ない私がそれ以上意見を言う事は出来なかった。


「…わかりました。無理はしないで下さい。気を付けて…。」


店長の手には、出刃包丁と鉄のフライパンが握り締められていた。そして、店長が店内へと戻って行くのをただ見ていた。




どれくらい経っただろうか。騒がしかった音が聞こえなくなっていた。


しかし次の瞬間、食糧庫の扉が激しく叩かれる音がする。その後も何がぶつかる音が鳴る。


ドカン。ドカン。


明らかに人による音では無い。何が扉へぶつかる様な音……。


そして、その正体が露わになった。


ドカン。っとの音と共に食糧庫の扉が壊れると、レッドウルフが現れた。その姿を見た瞬間に大声で悲鳴をあげていた。


「キャーーー。」


そんな私を見てレッドウルフがジリジリと近づいてくる。


私は近くの棚にしまってあった食料を手当たり次第にレッドウルフへ投げ付ける。何かに興味を持って食らい付いてくれれば良いと思っていたが、そんな事にはならなかった。


レッドウルフの目には私が獲物として写っている様だった…。


レッドウルフが飛び掛かって来ると思ったら、そんな事は無くレッドウルフが地面に倒れ込んでいた。


代わりに私の目の前には、逢いたかった人が現れた。


「マリアさん、大丈夫だったか?」


「っえ、嘘。どうしてここに……。」


「マリアさんのことが心配で駆けつけたに決まってるだろ。」


「でも、エドくんはモード町方面へ行ったんじゃなかった?」


「そうだが、好きな女が危険と分かっていれば駆け付けるさ。」


「エドくん……。」


私はエドくんの胸へ飛び込んでいた。





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