第6話 肉の仕入れ先



憑依スキルにより、『忘却の騎士』を纏う事が出来た俺は、周辺を探索する。流石に強くなったが、ブラック企業勤めの現代っ子であり、正直喧嘩をした経験が無い。


ガサッとラビットが飛び出してきた。


最初の相手としては、良いと思う。エド単体でも倒せてたし、今の俺なら余裕だろう。


ナイフを右手に持って、左足を後ろ、右足を前の体制を取る。後ろの左足に力を込めて剣道の踏み込みのように一気にラビットとの距離を詰める。俺はそのまま右手に持ったナイフを横に払うように振った。少し手に肉を裂く感覚が伝わる・・・。


今まで感じた事がないスピードで相手との距離が詰まり、そのスピードにちょっと酔ってしまうくらいだ・・・。


「やっぱり、刃物で肉を切り裂く感覚は、慣れないし、このスピードにも酔いそうだ。まだまだ、訓練が必要だな。」


目の前には、先程まで生きていたラビットが横たわっており、ピクピクと動いている。トドメを刺して、楽にしてやる。



すぐさまウルフ3匹が草むらから、俺に向かって奇襲を掛けてきた。一瞬驚いたが、思った程ウフルの動きが早いと感じなかった。身体能力が上がったと同時に意識すると敵の動きも遅くなって感じるようになった。動体視力が上がった感じだ。


1匹目の左から襲ってきたウルフへは、左手で払い退ける。裏拳の様な形でウルフの顔面にヒットして、ウルフが吹っ飛ぶ。


2匹目の後ろから迫ってきたウルフには、裏拳を出した勢いのまま体を素直に回転させて回し蹴りを入れる。


3匹目のウルフは、奇襲が不発に終わってたじろいでいた。ラビットのときと同じ様に剣道の踏み込みと同時にナイフで横一線。ウルフが必死にその攻撃を躱そうと動くが、完全に躱せずに俺の攻撃はウルフの左前足を切りつけた。



以外にも喧嘩をしたことが無くても動けている。最初にウフルの解体を体験して、多少免疫が着いた。アレはアレで最初に体験しておいて良かった。


まずは、足が怪我をしているウルフへ更に近づき、腹部を突き刺す。そのままナイフを下方へ動かす。傷口から大量の血と内臓が出て、ウフルは絶命した。手には結構な血が付いてしまった。


血には構わず、残り2匹のウルフの方を向く。


残り2匹も裏拳と回し蹴りをカウンター気味に入って、足元がおぼつかないでいた。願ってもないチャンスなので、2匹ともサクッと急所を突いて倒した。



その後ハイラビットが近寄ってくる。次から次へとモンスターが出てくる。


理由は単純だった。血の匂いにモンスターが集まって来たのである。ここらのラビットは草食ではなく、雑食なので、野菜でも肉でも何でも食べる。さすがモンスターだ、血の匂いに寄ってくるのだ。


すぐさまラビット1匹、ウルフ3匹、ハイラビット1匹を持って近くの川へ直行する。とりあえず、獲物を水の中に放り込んで獲物の体温を下げる。ついでに最初に血抜きしているラビット2匹も水の中に入れて冷やす。


昔、ネットで見たことあるのだが、獣は血抜き+冷やす事が重要らしい。血抜きは単純に血が一番腐食が早いからだ。次に冷やすのは微生物の繁殖を防ぐためだ。この微生物が血液を媒体に体中に繁殖すると血なまぐさい肉になってしまう。微生物が繁殖するのが25℃〜35℃なため、この温度帯を脱するために冷やす事が必要なのである。



嘔吐しながら、ウルフ3匹の内蔵を川の中で洗いだし、毛皮を剥いだ。食われてしまうかも知れないが、ウルフ3匹は足を植物のツタを使って括り、このまま川で冷やしておくことにした。


今日の戦果は、薬草10本、ウルフの毛皮4枚、ラビット4匹、ハイラビット1匹である。


ラビットとハイラビットを持って、肉を扱っている商店を訪れる。


「すみません。」


「はーい。いらっしゃい。何の肉をどのくらい必要ですか?」


人当たりが良さそうなおじさんが出てきた。


「えっと、肉の購入じゃなくて、これを引き取って欲しいんですが、可能ですか?」


そういって、大きな袋からラビットを1匹取り出して、おじさんへ見せる。


「あぁ〜、折角だがその手の買い取りはご法度なんだよ。」


「っえ、何でですか?」


「・・・税金の管理上の話さ。個人から購入した肉だと、帳簿の管理などしなくてもいくらでも脱税が出来てしまう。だから、商店では仕入先をしっかりして、帳簿もしっかりつけいているのさ。ウチは真っ当な店だから、買い取りは出来ないね。」


「・・・そうなんですね。分かりました、ありがとうございます。」


最初から躓いてしまった。このままだと今日の寝床が確保できない・・・。でも、商店もどこからか肉を購入するってことは、そこに卸すのは可能か・・・?


ちょうど、小腹が空いていたので、露天でラビット肉の串焼きを焼いている店で聞いてみることにした。


「おじさん、1っ本くれ。」


「あいよ。1本銅貨1枚だよ。」


懐から銅貨1枚取り出して、おじさんへ渡す。


「ところで、このお肉って何処から仕入れてきているの?おじさんが仕留めてるの?」


「いやいや、おじさんは冒険者じゃないし仕留めてこないよ。肉の卸屋があって、そこから購入してきてるんだよ。この周辺にも3軒あるぞ。」


「ふ〜ん。でも、誰かから直接買ってしまった方が安く済むんじゃないの?」


「・・・まあ、そうだが。そんな事して見つかったら、俺たちは脱税の罪を受ける。追徴課税が払えなければ借金奴隷の仲間入りさ。少しの利益のためにそんなリスクは犯せないさ。」


「そっか。大変そうだなね。これ美味しかったよ。ありがとう。」


ラビット肉を食べ終わって、串を店に返して立ち去る。あの屋台は、買い取りしてそうな雰囲気だったが、まあ、そんなリスクを犯す必要はないな。


さっきのおじさんが言ってた肉の卸屋を探すと意外とすぐに見つかった。



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