第5話 スキル検証と手応え



協会を後にして、腹も減っていたので今まで通ったことがない、且つ客が多少居る適当な飯屋に入った。


「いらっしゃい。何になさいますか?」


看板娘だろうか。歳はエドよりちょっと上くらいの17〜18歳程度。髪が肩に掛かるくらいな赤毛のショートカットで、元気ハツラツ。綺麗でちょっと大人びた感じの女性が俺を出迎えてくれた。ちょっと身なりを整えれば、都会の大学生っていっても通る。


飯時じゃ無いが、程々に男性客が入っているのは、この子目当てに来ているのかな?って思う感じ。考えていると。


「お客さん、どうしました?」


「って、・・・えっとメニューは?」


「ああ、初めてのお客さんですね。あそこの壁に張ってあるのがメニューになります。おすすめは、定食Aセットです。お金に余裕が無ければ、定食Cセットもおすすめですよ。」


定食Aセットは、1,200ニル。

定食Cセットは、800ニル。


「じゃあ、定食Aセットをお願いします。」


「わかりました。少々お待ち下さい。」


予算をだいぶオーバーしてしまったが、可愛い子の前でちょっと見栄を張ってしまった。男の性だな。



定食Aセットで正解だった。この世界に来て初めての食事は成功だった。その分いい値段したけど。


その後、看板娘の彼女にこの辺りで手頃な値段のオススメ宿を聞いて、食事の代金を支払って店を後にした。




無事に宿を1泊分確保して、その足で素材剥ぎ取り用のナイフと大きめな袋を買いに宿を出た。宿は、ホタン達の拠点とは別の区画で、アイツラが足を運ばないだろうと想定する場所である。町中でバッタリ会いたくない。



無事に目的のナイフと袋を購入した後、野宿用に調味料などを購入しようと下が、懐に余裕が無く断念した。


アイスラン町は、中央に領主邸があり、それを囲うように周囲に町が展開されている。


・北と東が主に住宅区。

・南が商業区。

・西が冒険者ギルドや武器防具店など。


大雑把にはこんな感じに分かれている。道も入り組んでおり、ちゃんとした区画整理もされていない。はっきり言って迷路のようだ。エドの知識があるから良いものの、慣れるまで大変だと思う。


そこら辺をほっつき歩いてホタン達に遭遇するのも嫌なので、宿で食べる夕食を買ってすぐに宿へ戻った。


あっという間に1日が過ぎた。


宿で食事を取ったらすぐに眠気が出てやる事も無いので早々に寝てしまった。何やかんやで気を張っていたのだろう、ベッドに横になるとすぐに意識を手放した。






次の日は、朝食を昨日の飯屋で取る事にした。店名はスゥリール(笑顔)だ。


「いらっしゃい。昨日の人だね。毎度ありがとうございます。これからも贔屓にして下さいね。朝定食がオススメですよ。それか、定食Aか定食Cかな。」


昨日のように綺麗な看板娘が俺を出迎えてくれて、ちょっと気分が上がる。


「じゃあ綺麗なお姉さんのオススメの朝定食を頂こうかな。」


「何言ってるの。そんな事言っても何も出ませんよ。」


などとちょっとした会話をする。そういえば、こんなゆっくり人と話すなんて久しぶりだな。こっちに来る前は、ブラック企業に勤めてて仕事漬けだったからな…。


出てきた朝定食も美味しかった。この定食屋は当たりのようだ!看板娘も可愛いし、食事も美味しい。料金はちょっとだけお高めかな。ただ、この量と味なら満足行く。支払いは、ギリギリ足りたが今日稼がないと、明日以降が野宿確定である。


今一度気合を入れて町を後にするのだった。






◇◆◇◆◇◆



西の森。


まずは、最低限の資金の目処だけつける為に、薬草を採取する。いでよ『忘却の騎士』と心の中で念じると『忘却の騎士』が現れた。周りのモンスター排除の命令を出すと了解と言わんばかりに頷き動き出す。


俺はというとエドの知識をフル活用して、薬草を探す。凄い量とはいかないまでも、エドの1/4程度の薬草を採取した。その間に『忘却の騎士』がラビット2体とウルフ1体を運んで来た。



ウルフらをこれまたエドの知識を使って解体する。エド様様である。ただ、メンタルは健全な日本人のものであり、グロテスクな解体作業に何度も挫折しそうになった。


さっき食べた朝食を全部吐き出したと思わんくらいに嘔吐した。肉の加工業者さんや医者など病院関係者くらいしか耐えられない無いだろう。


生暖かい状態の肉を切り裂き、毛皮を剥ぐ作業は、想像以上に俺の精神を削った。


「っう。もう無理だ・・・。」


何度目の嘔吐だろうか、顔が真っ青で朝の元気は何処へ行ってしまった。


「戻っておいで〜元気くん。」


こんな無駄口を叩けるだけ大丈夫だろうか?ウルフ1体の毛皮を剥いだ所でギブアップとなった。少し休んで、ラビットはそのまま持って帰る事にする。首を切り裂き足を草の蔦で縛って宙吊りにすることにより血抜きをしておく。ウルフの解体に比べれば精神的なダメージは受けなかった。






少し休んだ後に、気分が落ち着いてきたので、いよいよ憑依スキルの実験である。


憑依って事だから、

・俺が誰かに憑依する?

・相手が俺に憑依する?


大きくはこの2つが考えられるな。

・または、勝手に憑依スキルの何が俺に憑依するのか?


想定して頭の体操をしつつ、考えてても答えが出ないので、いよいよ憑依スキルを使用してみる。


まず、憑依スキルと念じるが何も起こらなかった。次に対象を選ぶ感じかな。思い切って、『忘却の騎士』に使ってみたら、当たりだった。


した。


「っうお、すげ〜。何か力が溢れてくる感じがする。これが憑依スキルの力か・・・。」


俺は少し呆気に取られてしまったが、この力を早く試してみたくて仕方なかった。手持ちには素材剥ぎ取り用のナイフしか無い。ダメなら素手でも良いくらいに力が溢れてくる。


試しに普段では持てないような100kg以上ある大岩を力を込めて持ち上げると・・・持てる様になっていた。


「な、何だよこの力。これが憑依スキルの力なのか。凄いな。」


後々判明するが、憑依スキルは凄いスキルだが、。力が強い者だと、力が強くなるなど。様々な特徴が出る。


そして、この力を使ってこの世界を生き抜くために必要なモンスターとの戦闘訓練を始めるのだった。









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