第44話 孤児院の危機


転生111日目の昼。



俺がアイスラン町のそばに着いたときには、おびただしい数のモンスターが町を襲っていた。


「な、なんでこんな事になっているんだよ・・・。」


俺は、その場に両膝をついてしまった。


絶望の中に陥りそうになったが、よく見るとまだ町壁でどうにかモンスターの攻撃を耐えていた。


希望が生まれ、すぐさま立ち上がる。


「ま、まだ大丈夫そうだ!!ということは、シキが戻って来たのはなぜだ? この様子だと、町へモンスターが侵入している訳では無さそうだ…。」


いや、そんな事を考えるより先にやる事がある。


俺は、アイスラン町とモード町の間にいる分身を消す。これで、現在の分身は2人。


俺は、分身を改めて2人出す。そして、顔を隠すように兜を装備したり、布を巻くなどした。更に武器も、鉄の剣、ロングソード、ショートソードの二刀流などバラバラにした。



3人同時にアイスラン町目指して駆け出した。町門がある場所を外して、町壁を目指す。




俺達3人は、町壁に群がるモンスター達をバッタバッタと物凄い勢いで倒していく。


互いの攻撃範囲内には入らず、一定の距離を取りつつ横一列で移動する。


普通であれば、縦一列となって、矢の如くモンスターの群を突き進むのだろう。ただ、俺達には、そんな事は必要ない。


銀プレートでも手こずると言われるオークナイトやゴーレムだろうが、俺の相手では無い。バターの様にスパスパと切り刻む事が出来る。



町壁の上に登っている冒険者が俺達の存在に気付き、歓声と共にこちらへの攻撃の手を止める。


「おい、見ろ!金プレートの援軍だ!」

「本当だ!これで、助かるかも知れないぞ。」

「何だよあれ、ゴーレムが一瞬でやられてるぞ。・・・流石が金プレートだな。」

「あの人達の方へ援護攻撃は不要だ。邪魔にならない様に気を付けろ。」


20分程である程度範囲のモンスターを討伐した。町壁までモンスターはいない。


そして俺達は、そのままジャンプをして町壁を越えた。身体強化スキル(上)となった事により、体感で身体能力が『1.5倍』ほどに高まった。あくまで感覚だ。垂直跳びなら4m以上は跳べるだろう。




すたっ。


町の中へ3人揃って無事に入る事が出来た。


俺は名乗っていないし階級も明かしていない。俺の戦いを観戦していた冒険者達が勝手に俺を金プレートと誤認識した。


そして、俺達に対して尊敬の眼差しで、且つ敬意を示して話しかけてきた。


「近くの町から援軍に来てくれたんですか?数はどのくらいですか?」


「モードから援護に来たが、俺達個人の判断で来ただけだ。」


「そ、そうですか…。」


周りに集まっていた冒険者達のテンションが少し下がった。俺達が援護の先発隊とでも思っていたのだろう。


それは、残念ことをしたかも知れないが、そんな事知ったこっちゃ無い。


「それより、これはどうゆう事だ? 何で、アイスランがスタンピードに襲われているんだ!」


「昨日、北のダンジョンからモンスターが発生したんだ。幸いモード町からスタンピードの話が入っていたので準備をしていた。そのお陰で何とか持ち堪えられたが、危うかった…。」


スタンピードはモード町近くだけで発生したのでは無かった。だったら、この状況は頷ける。


同時に2箇所でスタンピードとか・・・天文学的な確立であるが、可能性は0でないな。


「俺達は他所のフォローにまわる。何処が危うそうな場所か分かるか?」


周りの冒険者達が互いを見渡す。


「だったら、最も激しい戦いをしている北側。それと、貧困街の孤児院近くがヤバそうって聞いたぞ。」


それを聞くと、俺はすぐさま孤児院へ向けて体が動いていた。


一斉に3人全員が孤児院へ向けて動き出したが、分身の1人を北側へ向かわせた。


この時、アイスラン町にいる分身1人を消して情報を得るか迷った。


急に俺が消えると、周りに驚かれる。更に、トリートたちを守る為に戦っているのに俺が消えたら、最悪な結末となる可能性がある。


まず、孤児院の安全を確保してから、この町の分身と合流だな。走りながら、なるべく冷静になり、頭を整理させた。



・・・・




孤児院に着くと、近くの町壁が一部崩れているのが目に入った。


俺は分身を町壁の方へモンスター討伐の為に向かわせる。そして、孤児院のドアを開けて中に入った。


「メリーさん無事か!?」


そこにはメリーさんと子供達、更にトリートと分身の俺がいた。


「だ、だれ?」


トリートが声をあげる。子供達は俺の入室に驚き身を潜める。そして、俺の分身が俺に殴り掛かって来た。


俺は分身の拳を手の平で受け止める。その勢いのまま孤児院の外へ出る。


「俺だ!」


その言葉に分身は、相手にしているのが俺である事を理解した。


「説明する時間が勿体ないから、分身の俺は消えるわ!」


分身が消えると、アイスラン町でのこれまでの状況が頭に入ってきた。「いろいろあったな。」


まずは、孤児院の安全確保だな。俺は、服装をさっきまでの分身と同じにして、孤児院へ入った。


「さっきの奴は追っ払ったからもう大丈夫だ。」


「良かった。それよりエド、私達はここにいて大丈夫かしら?」


「それは大丈夫だよ。とりあえず、ここにはシキを召喚しておくから何とかしてくれる。」


俺は目の前に忘却の騎士シキを召喚した。真っ白な防具を纏った大柄の騎士が現れた。


「シキ、お前はこの孤児院の皆を何としても守り抜け。分かったな!」


忘却の騎士シキがコクリと頷く。


その光景を初めて見た子供達が驚きと共に「すげぇー。」「どうやったの?」などと声をあげる。


「シキは俺の召喚獣だ。そして、コイツは俺の最高の相棒。お前達をモンスター達から絶対に守ってくれる。怖いかも知れないが、メリーさんの言う事をちゃんと聞いてお利口にしていろ。」


「「「うん、分かった。」」」


「お前は一番のお兄ちゃんだ。皆んなの事を頼んだぞ!」


「うん。分かった。エド兄さんも死なないで!」




次にメリーさんと向き合う。


「メリーさん、俺は3年前より凄く強くなって、今ではモンスターも倒せる様になった。ここはシキに任せて、ちょっくら行ってきます!」


「・・・うん。いってらっしゃい。」


メリーさんは、言葉数を少なめに、それだけ言うと俺を抱きしめ頭を撫でてきた。何でも知ってるんだよって感じだ。大人の余裕か…。




そして、最後にトリートの方を向く。


「改めて、ただいま・・・。」


「・・・お帰り。」


「ほらな、約束は守っただろ? 2ヶ月以内には顔出すって言ったよな!」


「・・・うん。でも急だよ。ついさっき現れたらすぐに孤児院に連れて来てさぁ。強引でもあるし。」


トリートが少し頬を膨らませて怒っている。


「いや、すまんすまん。スタンピードの件でそこら中を飛び回っててさ。本当はこんな感じじゃなくて、ちゃんと帰ってきたかったけど。」


「・・・うん。それはこんな状況だから分かっているけどさ。ちゃんと、落ち着いたらこの穴埋めはちゃんとしてもらうからね。」


「おう、任せておけ。じゃあ、そろそろ行くわ!」


「うん。気を付けて!」


「おう!」


そう言って俺は孤児院を後にした。


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