第43話 大きな誤算



転生109日目の朝。


本体の俺は、アイルラン町から南へ1日ほどの場所に陣取っていた。モード町東の森で発生したスタンピードの影響が、もうここまで来ていた。


俺は、分身を全部で4人出している。


・2人は、モード町で交代で戦闘中だ。

 最悪の場合・・・、アミノさんを第一優先でモード町より連れ出すように様に指示している。まあ、俺の分身なので、指示出さなくてもその辺りは大丈夫だと思っている。


・1人は、本体の俺より南へ1日ほど進んだ場所で、モンスターたちを葬り続けている。

 数を減らすより、厄介な強い敵を積極的に狩るように指示している。特にゴーレムなどの普通の冒険者だと厄介そうな相手だ。

剣術スキルが達人に昇格したことによって、腕力に頼っていた戦闘にも、洗練された優雅さ?的なモノが出た気がする。


・最後の1人はアイスラン町へ向かって移動している。

 アイスラン町の守りが分身1人だけだと不安ではあるが、忘却の騎士シキもいるので、どうにかなるだろう。気をつけなければいけないのは、俺の存在が可能性があることだ。




俺は、北のアイスラン町へ向かって移動するモンスター達だけに的を絞って、次々と討伐していく。


西や東へ向かって移動しているモンスターには、目を向けていない。スルーだ。


石壁を立てて進路を妨害したり、落とし穴や、沼地などの罠なども設置した。少しでも北へ移動する確率を減らすためだ。


今の所は、これが成果を上げて、アイスラン町へ向かうモンスターを相当数減らしている。可能な限りやれることはやっておきたい。




それにしても、剣術スキル(達人)は本当に凄い。どう相手を倒すのが最良なのか、勝手に頭に浮かんでくる。また、どう体を動かせば良いのかまで分かってしまう。


ゴブリン、ウルフ、グレートボア、レッグポーンなど、俺にとって既に雑魚相手でも反復練習として役立っている。


俺が更に強く成るための糧になってくれている。「ありがとう・・・。」


10体・・・20体・・・・・100体・・・・200体・・・・・・500体と討伐するモンスターの数が増えるごとに動きが洗練されていく。


1時間が経過し・・・5時間が経過し・・・・。


スタンピードで大変なときなのだが、自分が強くなっていることが実感できる。


なぜか、笑みが溢れてしまう・・・。


食事を取ることすら忘れて、只々剣を一心不乱に振る。倒した敵を運び屋スキルへ収納し、また只々剣を振るう。


一振りする毎に振り抜く剣に迷いが無くなる。鋭さも増す。技が改善される。



「う〜〜ん。こっちの方が剣の切り返しが早いな。」


シュ、シュシュシュシュ。


剣を持って、数回素振りをしてみる。


「うん。やっぱりこっちの方が俺にとってはシックリくる。」


すぐさま、近くのモンスターを見つけて駆け寄る。オーク5匹とオークナイトだった。


オークは俺に気づくと槍を構える。俺は全く気にせずに近寄っていく。オークが間合いに入ると、一気に距離を詰める。


オーク達は俺の動きに全くついてこれない。


俺が一太刀目でオークを両断し、その剣の返しでもう1匹のオークの首が飛ぶ。一息で2匹を片付ける。


二息でオーク5匹を倒してしまった。


オークナイトですら、瞬く間に仲間が殺られたことに状況が把握できていないようだ。


オークナイトにとっては、仲間オークの間を通過したと思ったら、倒されていた。と感じるだろう。


オークナイトは残像だった影が実態に戻ってやっとそれが俺だと気づき、剣を振り下ろしてきた。


俺はその剣を自分の剣で難なく受け止める。鍔迫り合いにも発展しない。ただ単に剣に力を込めて押し込むとオークナイトの2.5m以上ある巨体が吹き飛ぶ。


想定外の反撃にオークナイトが尻もちを着く。俺は簡単にそのオークナイトの首を刎ねた。


『身体強化スキル(上)へ昇格しました。』


身体強化スキルは、剣術スキル(達人)と相性が良いようだ。


剣術スキル(達人)によって、最適な体の動かし方を習得して、それが身体強化スキルの昇格へと繋がった。


「楽しいな・・・。」


またしても笑いが止まらない。



・・・・・




転生111日目の朝。


更に2日ほどが経過した。


分身1人が消えた。それと同時に新情報がもたらされた。モード町のスタンピードに終わりの兆しが見えたとの事だった。


モード町は東地区の第三防衛ラインのすべてを破壊されてしまったが、町壁でどうにかスタンピードを食い止めた。


しかし、多くの死傷者が発生した。参加した冒険者約1,000人、騎士団1,500人。その1割が死亡したのだ。重症者は2割(うち四肢損失者が2割)。


冒険者ギルドと騎士団からすると、想定していた死者数より、かなり少ない結果だった。当初の予想は、この2倍以上だ。


一部の人間は、この結果の裏にがあることを知っていた。






それと同時刻に忘却の騎士シキの召喚が解除されたのだった。


スタンピードをある程度この場(アイスラン町の南)で俺が止めているので、シキの召喚が解除されるのはどう考えても可怪しい。


「なんでシキの召喚が解除されてるんだよ・・・。孤児院の守りを命令したんだ、シキが倒されてしまったのなら・・・・。」


胸騒ぎを覚えて俺は、直ちにアイスラン町へ向かって全力で駆け出した。


今の俺が全力を出せば、通常の冒険者が1日掛かる時間を4時間程度で移動できるはずだ。


(1日間といっても、移動可能な時間は早朝〜夕暮れまでの最長でも12時間。更に走らずに周りを警戒しながらの徒歩移動である。俺がある程度の速度で走れば、4時間程度で着くはずだ。)



そして、俺がアイスラン町のそばに着いたときには、おびただしい数のモンスターが町を襲っていた。


「な、なんでこんな事になっているんだよ・・・。」


俺は、その場に両膝をついてしまった。



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