第42話 黒き獣



モード町東地区の第一防衛ラインの1箇所が崩れたのは、ゴーレムの集団が関係していた。


先程俺が単独で討伐したが、他の冒険者にとっては厄介な相手である。表面が固く攻撃がほとんど通らない。


俺も『剣術スキル(達人)』にスキルが昇格していなければ、楽には倒せなかっただろう。それほどに厄介な相手だ。それが、見渡すだけでも100体以上いる。


この一角だけにゴーレムがくるとも考えずらい。そうなると全体へ進軍してくるのも時間の問題だ・・・。


と、そんなことまで今考えてられない、今やれることをやるだけである。


俺は、次々に目に入るゴーレムへ向かって、剣を振るう。その度にゴーレムがバタバタと倒れていく。


ゴーレムは攻撃力が高いが、動きは鈍い。そのため、ゴーレムをスパスパ切り裂ける俺にとっては、そこまで厄介な相手ではない。



50〜60体のゴーレムを討伐した頃。


全領域にゴーレムが混ざり始めた。それにより、全体的に第一防衛ラインが後退し始めた。


東地区の冒険者リーダーの『双剣』のスワイクの判断は早かった。


「第二防衛ラインまで、一時退却だ。ここまでは上出来だ!ゴーレムは予定通り、使。互いに助け合いながら、後退してくれ。」


スワイクの号令が飛ぶと、冒険者達は互いに協力しあって、後退し始める。


騎士団も冒険者が撤退するのに合わせてフォローしている。即興にしては、中々連携がとれている。



・・・・



第二防衛ライン。


第二防衛ラインは、ゴーレム対策の砦といっても過言ではない。


短期間で作った岩の塀第二防衛ラインの外側に大きな堀があり、水がたっぷりと溜まっている。堀を渡る通路は等間隔に設置してあり道幅は狭くしてある。とてもゴーレムが通れる道幅ではない。


ゴーレムは水が弱点である。しかし、ずっと水に浸けていないと体の硬度は下がらない。そのため、水魔法での攻撃はあまり意味をなさない。威力が強い大魔法なら別であるが。



そして、ゴーレムは俺の認識と違う点があった。岩の塊のようなゴーレムでも溺死するのだ。つまり、呼吸している?ってことだ。


そのため、ゴーレムをこの堀に落としてしまえば、そのまま数分すると屍となる・・・不思議だ。


これが、ゴーレム対策である。



結果。この第二防衛ラインは、ゴーレムに対して最高の成果をあげた。ただ、ゴーレムに対してだけだ。それ以外のモンスターには、防衛ラインを越えられてしまっていた。


しかし、当初の目的(ゴーレム対策)は、十分達成されている。



そして、は、自宅へ戻ったタイミングで『剣術スキル(達人)』をするために分身スキルを解いた。


(この時点で、モード町には、分身の俺1人の状況)



・・・・



転生108日目の昼。


それから、丸2日間ほど、なんとかモード町の冒険者と騎士団は、スタンピードを町壁へ近づける事なく食い止めていた。


俺は、スワイクから遊撃隊員として選抜された。それによって、持ち場に縛られること無く、縦横無尽にピンチの箇所を見つけてフォローに入った。


そして、は、モード町の情報を2日前に取得したと同時に、2人の分身をモード町へ送っていた。


そして、モード町に着いた新たな俺の分身は、元々いた1人と入れ替わった。


元々いた1人は、俺の分身2人が町へ着くと現状を2人に伝えてから、スキルを解いた。それにより、本体の俺は、最新のモード町の最新情報と膨大な戦闘の経験を得た。



「まだ、スタンピードは終わりそうにないか・・・。」




◇◆◇◆◇◆




少し時間は遡る。


転生107日目の夕方。


モード町の北側森の中。


もう一人の分身は、丸2日間と少し不眠不休で森の中で戦い続けている。体中に無数の傷ができている。足元もふらついており限界寸前だ。


当初は回復魔法で傷を直していたが、既に魔力は底をついて回復できずにいた。


身体強化スキルも自身の健康状態や魔力量などによって、効果が変わってくる。心身ともに極限状態だと、身体強化スキルの効果も落ちている。いつもなら、皮膚に傷もつかないような攻撃もダメージを負ってしまう。


そこへ一際強い気配を感じる存在が現れた。明らかに強い・・・。今の俺で勝てるだろうか?


それは一歩一歩余裕を持って俺の方へ歩いてくる。他のモンスターは俺達を避けるように移動している。


真っ黒な毛並みで四足歩行・・・嫌な思い出が浮かぶ。


ブラックウルフの上位種だろう。もしかすると、更に珍しい亜種かも知れない。明らかに周りのモンスターとは異なる。ここ一帯のボスといった感じだ。



俺が鉄の剣を目の前に構えると、ヤツの姿が一気に距離を詰めてきた。20mほどあった距離は一瞬にして詰まった。


鋭い爪が俺の顔面目掛けて振り下ろされる。間一髪でそれを躱し大きく後ろに飛び退くが、完璧には躱せなかった。左頬には3本線のかすり傷ができ、血が出てくる。


何とかヤツの動きは見えるが、体がゆうことを聞いてくれない・・・。


ヤツの顔に苛立ちが見える。通常の相手だと、この攻撃で終わっているのだろう。


先程のつまらなそうな表情から、少し怒りが混じった表情へ変わった。


そこからヤツは凄かった。更にもう1段階スピードが増した。


左へ移動したと思ったら、右側から攻撃が飛んできた。それを剣で受け止めるが、抑えきれずに吹き飛ばされ木に激突する。ジグザクに移動したのだろう・・・。


俺は、口から血を吐く。


右腕も折れていないまでも凄い痛みが走る。当分は使いもにならないだろう。


どうする・・・?


今まで経験したことが無いような、冷や汗が流れる。


別の俺が敵を取ってくれるだろう。今は、なるべくヤツの攻撃を多く見ておきたい。左手に剣を持ち替えて、ヤツへ向かっていった。





3分後。


右手はヤツの爪で切り裂かれ、剣も半ばからポッキリ折れている。


そして、ヤツは既に俺への興味をなくしているようだった。最後に、大きく息を吸い込み、その息を吐き出すと黒いエネルギー波の様なモノが吐き出され俺へ迫ってきた。


ここで、俺の分身は消え失せた。




本体の俺は、北の森での戦いの記憶を継承した。更に、これまで丸2日間以上闘いで経験したことも俺にフィードバックされた。


「ブラックウルフの上位種かな?・・・かなり厄介そうな相手だな・・・。」





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