第41話 スキル昇格


転生105日目の昼。



モード町の東地区の戦場。


俺が最前線の一角を担ってから、そろそろ1時間が経過する。俺の周りには、夥しい数のモンスターの亡骸がある。どんだけ倒したのか分からない。


また、ファイアボールによる大きな穴がそこら中にある。獣の焼き焦げた匂いも立ちこめている。


「はぁはぁはぁ…。」


流石に相当疲れてた…。肩で大きく息をしている。致命者を負っていないが、体中には無数の小さな傷がある。


その時、足がもつれて隙が出来てしまった!


そこへタイミング悪く、近くのオークが俺目掛けて斧を振るう!


「くぅっ。」


避けられるタイミングでは無い。致命傷を避けるべく、鉄の剣で受けようとしたとき。


「グォーオオー。」


ショートソードがオークの眉間に突き刺さり、オークは崩れ落ちた。それにより、オークの斧が俺を襲う事は無かった。


ショートソードが飛んで来た方を向くと、『双剣』のスワイクがいた。


「危なかったな、大丈夫か?そろそろ、騎士団と交代の時間だ。それまでは俺が代わってやるから下がっていいぞ。」


「・・・ありがとう、助かった。後は頼む。」


「良いってことよ。(それにしても、若いのに中々やるな。)」



スワイクが俺に代わって最前線へ向かう。


スワイクが剣を振るうと、モンスターが次々と細切れになる。かなり早い動きで剣を振るっている。俺の目にもやっと捉えられる速度だ。


「やっぱり、スワイクさんは流石だな。全然太刀筋が見えないぜ。」


「ホントだよな。俺達とは強さの次元が全く違うよ・・・。」


他の冒険者達が話しているが・・・そうだろうか? 確かに凄い強いと思うが、全く通用しないとは思わない。


まあ、そう思えるほど、俺自身が成長しているということだろう。



俺が、最前線から救護スペースへ歩いて移動している最中、冒険者達から多数の声を掛けられた。


「あんた、すげぇーじゃねーか!!」

「今まで見たこと無いけど、最近この町に来たのか?」

「よかったら、私達のPTに入らない?」

「休憩の間、ちょっと一緒に食事でもしないか?」

「俺達が先に声を掛けたんだぞ!」

「私達が先に目を付けてたんだからね!」


「すまん。今はちょっと疲れてるんだ。話はまた今度にしてくれ。」


そう言って、足早に救護スペースへと向かい回復魔法を掛けてもらうのだった。




・・・・



転生106日目の昼過ぎ。



モード町の東地区。


冒険者と騎士団の3時間交代の作戦は、今の所上手くいっている。しかし、スタンピードが開始してから既に24時間以上経過しており、皆に疲れが蓄積されているのが見てわかる。


それは、『双剣』の二つ名を持つ金プレートのスワイクも同様だ。


ただ、俺はというと、まだまだ元気満々だ。


実は2人の俺で6時間ごとに交代している。3時間の討伐が終わると、即座に家へ戻りそれまで休憩していた分身と交代する。交代した俺は、何食わぬ顔をして東地区の持ち場に戻る。これを繰り返している。



5回目の冒険者たちの持ち回り時間の出来事。


第一防衛ラインの一箇所が崩れた。


崩れた場所から次々とモンスターが入ってきてその規模が大きくなる。大抵は、3〜4列目までにモンスターを殲滅している。しかし、最前列が崩れたことによって、2列目、3列目に雪崩込んでくるモンスターの量が多くて捌ききれなくなっている。


後衛の魔道士連中がここぞとばかりに魔法で遠距離からフォローに回る。また、予備として待機していた冒険者が崩れた穴を埋めようと動くが・・・思うような成果が出ない。


周りを見渡す・・・。俺は現在3列目を担当しており、そこまで切羽詰まっていない・・・。意を決っして周りの冒険者へ声を掛ける。


「俺があっちの崩れた箇所のフォローに回るから、少しの間ここを頼む!」


「・・・おう、行ってこい。今までエドのおかげで十分楽をさせてもらったから、大丈夫だ!なあ皆?」


「「「おお、大丈夫だ!(行ってやれ)(そっちは頼んだぞ)」」」


気持ちの良い奴らだ。


俺は、自分の持ち場から、崩れた一角を埋めるために急いで向かった。


冒険者の間を風の如く駆け抜ける。そんな中、尻もちをついている女冒険者に向かって、重量感のあるゴーレムのパンチが迫っていた。


俺が盾を取り出して、女冒険者の前に立つ。


ガギィーン。 ドガァーン。


盾でゴーレムの腕を受け止めて、それを振り払らうと、ゴーレムの腕が地面にめり込む。


俺は、肩の力を抜いて軽く鉄の剣を握った。


なぜかそうした方が良いと・・・。


そのまま、体が勝手に最適解を導き出すように動き出す。その流れに任せるように意識を集中する。腕には硬いモノを切っているような手応えが無い・・・。ただ、結果は目の前に現れた。


ドサドサドサ。


ゴーレムは腕が落ち、胴体が真っ二つになり、更に首が胴体から離れていた。そして、そのままゴーレムは崩れ落ちただの岩の塊と化す。


『剣術スキル(達人)へ昇格した。』


・・・・俺も少し驚いている。



「大丈夫か?」


彼女に対して背中越しに話しかけるが、反応が無い。


「・・・。」



今度は、彼女の方へ振り返って、右手を出して再度話しかける。


彼女はさっきまで死を覚悟していたのだろう。俺がその状況を打開したことがまだ飲み込めていないようだ。


「大丈夫か?」


「・・・・・は・・い・・・・♡」


彼女は俺の右手を取る。俺は、彼女の手を握るとそのまま、引き起こす。あ、あれ?中々手を放してくれない。


「手、手を放してくれないか? どこかおかしいようなら、救護スペースへ下がってくれ。」


「・・・・っは、すみません。助けて頂きありがとうございます。胸の辺りが苦しいですが・・・・怪我はありません。大丈夫です。」


彼女は俺の手を慌てて放して、少し俺のことを見つめて固まっていたが、大丈夫のようだ。


「そうか、それは良かった。じゃあ、俺はいくよ。」


「っぁあ・・・。お名前は?」


彼女が最後何か言っていたが、聞き取れずにその場を離れた。



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