第45話 酒場での情報収集
数日前に遡る。
転生109日目の夕方。
俺の分身がアイスラン町に着いた。町の門が開いており、冒険者プレートを提示すると問題無く中へ入る事が出来た。(プレートは昔のままなので、ちょっと緊張した。)
シキは孤児院を守っている。
分身の俺は何かあった場合にトリートとマリアさんを守る役割がある。
とりあえず今のところ問題は起きていない。そのため、アイスラン町がどのような状況か情報収集を開始する。
ちょうど夕方の時間帯であり、冒険者達は酒場に繰り出し始めていた。
冒険者ギルドへ行って色々と情報を得たいが・・・元PTとの事もありやめておく。
マリアさんの店に行けば、その後が長そうなので、今回は残念だが控える事にする。スタンピードを乗り切れば、いつでも会える。とりあえず、今日イチャイチャは、おあずけである。
銀プレート冒険者が集まるちょっと高めの店に入ることにした。
【グリフォンの翼】が使っていなかった店だ。(グリフォンの翼は、既に落ちぶれており、銀プレート達が常連の店になんて入れる経済状況ではない。)
「いらっしゃい。お一人様?」
「そうだが、大丈夫か?」
「大丈夫よ。カウンターの空いてる席に座って頂戴。」
ウェイターの女性が、カウンターを指差して店の中へ通してくれた。
席に付き、適当なつまみとエールを頼む。そして、エールを飲みながら、周りの声に聞き耳を立てる。
1時間程度経過した。いくつか気になる情報があった。
①スタンピードがモード町付近で発生するとの情報だ。
これは、ちゃんと冒険者達まで伝達されており安心した。町の南地区を中心に防衛対策を施している様だ。
②【グリフォンの翼】が落ちぶれた。
もう、俺の敵ではないと思うが、アイツらに見つかると面倒な事に巻き込まれる可能性がある。極力会いたくない。その為に冒険者ギルドの訪問を避けている。
③シキが消息不明となり話題になっている。
忽然と煙の様に姿を消したとの噂が流れている様だ。本当に姿を消して、数日後にまた現れたそうだ。まあ、ゴブリンソードとの戦いで俺がシキを呼び出したのが原因だろう。
酒場ではいろいろくだらない話も飛び交っているが、俺が興味のあった情報はこの3つだった。
一旦この辺りで、店を出ようかと考えていたそのとき。近くを歩いていた冒険者から声を掛けられた。
「あ〜らお兄さん、お一人なの? 今から私に付き合ってくれない?」
ちょっと考える。ある程度情報を得たが、生きた情報も欲しい。
「・・・いいぞ。」
「こんな可愛い子が誘ってるのに何で間があったのよ!」
うん。自画自賛するだけあって可愛かった。斥候だろう。軽装備で、短パンを履いておりスレンダーな脚が魅力的だ。髪は短くショートカット。目鼻立ちもしっかりしていて、胸はほどほど。
「いや、すまん。本当に可愛かったので、固まってた。」
「よ、よく言われるわよそんな事。」
「でも良いのか?お仲間たちと食事していたんだろ。」
彼女が座って居たであろう席の方を見た。他の強面の男達4人が更に怖い顔をして俺を睨んで来ている。
「良いのよ、あっちとは食事だけの約束だから!それにそろそろ食事の時間もお終いだし。」
「そうは言っても、彼方さん達はそう思って無いみたいだぞ。」
「あなたなら、追っ払えるでしょ?」
彼女は分身の肩に腕を回して来た。更に肩に柔らかいモノが当たる。
「・・・面倒事は勘弁してくれ。」
彼女と一緒に食事をしていた男達が、分身の俺の隣までやって来た。
「よう兄ちゃん、サリナは俺達と一緒に飲んでんだよ。今晩はやっと俺達の番なわけさ。だから、邪魔しないでくれよ。」
彼女はサリナって言うのか。このおっさんの言葉にサリナは微かにビクついた。
おっさんは分身の頭に手を乗せてきて、力いっぱい握ってきた。常人なら痛いのかも知れないが、分身の俺にとっては全く痛くもない…。
「おっさん、人の頭へ勝手に手を載せるのやめてくれよ。」
今はなるべく目立ちたく無いんだよ・・・。本当はタップリお灸を据えてやりたいが、人目が多過ぎるから今は我慢だ。
おっさんの手首を握って折れない程度に少し力を入れる。
「イテッ!」
おっさんは分身の頭を握った手を離した。
「テメェ〜。っあ。」
おっさんの足がもたついて尻餅をついた。立とうとするが、足がガクガク笑って立ち上がれない。
分身は席を立って、立ち上がれないおっさんの腕を持ち上げると別の男に渡した。
(もう1人ぐらいやっとくか。)
分身は別のおっさん冒険者の顎先を素早く横から打ち抜いた。すると、もう1人のおっさんも尻餅をついて倒れ立ち上がれない。
「イテッ。あ、あ、あれ?立てない。」
おっさん達は、分身の動きに目がついておらず何が起きたのか分からず、少しパニックになった。
「おっさん達、歩けなくなるまで飲み過ぎだよ。今日はもう帰ったらどうだ?」
仲間を支えている男の1人の肩に手を置いた。骨が折れない程度に力を込めて握った。そして、耳元で囁く。「今日はサリナを諦めろ。さもないと、皆んなの前で赤っ恥をかくことになるぞ。」
おっさんの1人は、明らかに分身の俺に何かをやられたのだが、全く分からず恐怖に陥っている。
「・・・おい、今日は飲み過ぎだ帰るぞ。」
「な、何でだよ。今日は俺達の番だろ。こんな奴にサリナを取られて良いのかよ?」
「黙ってついて来い。今日は厄日だ…。」
「じゃあな、飲み過ぎなんだから気を付けて帰れよ。」
分身はおっさん達へ軽く手を振って、店を出て行くのをイスに座って見送った。
「アンタ何やったのよ。まあ、でも助かったわ。ありがとう。チュ」
サリナが分身の俺の頬にキスをして来た。
「皆の前で自分が安く見られる様なことはすんな!」
「お兄さん、結構真面目なのね。そんなイケメンなのに意外だわ。」
「別に真面目でも無いよ。普段はそれなりに楽しんでる。スタンピード何て来なければ、もっと楽しんでるよ。」
「それはそうね。」
俺は隣の空いてるイスを引いて、サリナを見た。
「立ってないで座ったらどうだ?」
「ありがとう。」
「でも、サリナさんはさっきそろそろ食事がお終いって言ってたよな。」
「ああ、言ったわね…。だから、これからは2次会だね。」
「っふ。そうか。じゃあ、俺も少し付き合うわ。そうだ、今更だけど俺はエドだ。よろしく。」
それから、長い夜の情報収集活動が始まった。
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