第8話 スキルが生えた




スゥリールで夕食を取って、宿屋へ帰ってから俺は、憑依スキルを解いた。


これまで動いていた自分の体が急に重くなった感覚を覚えた。憑依しているときとの差が激し過ぎる。しかも、どっと疲れが襲ってきた感じで今日もベッドに横になるとそのまま眠ってしまった。




転生してから3日目。


昨日は、初めての狩り兼戦闘訓練、解体作業、販売先の確保など様々な体験をした1日だった。こんな濃い1日は元の世界だとそうそうない。


今日も朝マリアさんと楽しく会話して、美味しい朝食を取った俺は西の森に向かった。



積極的に金策に励むため、ハイラビットをターゲットに狩ることにした。ラビットだと微妙。ウルフに至っては、解体作業が大変で数を狩れないし、精神的なダメージも大きい。


昨日放置したウルフを川辺へ確認しにいくと、案の定解体処理してあるウルフの姿は無かった。何奴かが食べたのだろう。



ハイラビットを狙ってもそんなの上手くできるはずもない。ラビットと多めに遭遇する。倒してそのまま放置する訳にもいかないので、木の枝を木刀代わりにして、ラビットと戦う。殺すまでしなくても、2〜3発木刀で殴るとピョンピョンと跳ねて逃げていく。


ウルフが現れた場合もう同様だ。木刀で数発殴ると敵わないと思うのか退散してくれる。


ハイラビットが出てくると話が変わる。ナイフに持ち替えて、鋭い踏み込みからの首への一撃で片を付ける。血抜きをして、川で冷却である。


ラビットは20匹以上、ウルフは30匹以上、ハイラビットは5匹を仕留めた頃にあの教会と同じ声が頭の中に響いた。


『身体強化スキルを習得しました。』

『剣術スキルを習得しました。』


ハイラビットを8匹狩ったところで、夕方近くになったので、アイスラン町へ戻った。今日も、タンクの肉卸店へハイラビットを持って行く。


「こんばんは〜〜タンクさんいますかー?」


「はーい。」


女性らしい声が奥から聞こえて来て、こっちへやってくる。見た目30歳過ぎだろうか。ちょっとふくよかでガッチリした女性だ。


「こんばんは。」


「こんばんは、何か御用ですか?」


「あの、エドと言います。昨日、タンクさんにハイラビットを引き取って貰ったんです。それで、今日も持ってきたんで引き取って欲しいのですが?」


「そうだったのね。だったら、もう少し待ってて貰えないかしら。あの人いま他の解体の真っ最中で、もう暫く掛かりそうなのよ。」


「そうですか・・・、だったら解体現場を見せて貰っても良いですか?」


女性はちょっと考え込んでいる。マズイことお願いしちゃったかな。


「いや、やっぱり止めておきます。また今度の機会に見学させて下さい。」


「いや、見学は構わないんだけどね。あんなグロいものを君のような子が見て大丈夫か心配で・・・。」


「ああ〜〜。それでしたら、少しは解体したことがあるので、大丈夫かと思います。」


「まあ、だったら大丈夫よ。いらっしゃい。」


女性はそういうと、俺を奥へ案内してくれた。奥には大きな倉庫があり、従業員が5人ほど働いていた。そしてタンクさんは2mはあるオークを解体していた。


2足歩行の巨大ブタだ。ただ、足と腕が相撲取りみたいにゴツく太い。あんなのに殴られたら・・・絶対に大怪我だ。


周りは血なまぐさい鉄の匂いをただ寄らせており、正直解体現場を見せてくれと言った事を後悔した。


俺が吐きそうになっていると、タンクさんが近寄ってきた。


「エド。今日も来たのか。また買取り希望か?」


「・・・は、はい。そうなんですが、ちょっと気分が悪くなってきました・・・。」


「おいおい、こんな所で吐くなよ。吐きそうなら外でやってくれ。」


俺は、タンクさんが指さした方へ急いで移動した。外に出ると勢い良く口から腹の中身を出す。「おえぇ〜〜〜。」


水で口を濯いで、落ち着かせてから再度中へ入ると、それに気づいたタンクさんが、こっちへ来いとジェスチャーをしていつもの入り口へ移動する。


「情けないな。昨日の勢いはどうした?」


「流石にあの解体現場は、まだ早すぎました。」


「ちょっと、今日は時間が無いんだ。手短に頼む。」


「はい。今日はハイラビット8匹です。昨日と同じ様に下処理は済ませてあります。買取って貰えますか?」


またまた、タンクさんは驚いている。


「・・・昨日も思ったが、今日はハイラビットが8匹だと?エド1人で倒したのか?」


「・・・いや、仲間の協力があって倒しましたよ。昨日も、同じ仲間のおかげです。」


俺は嘘は言ってない。召喚獣が憑依してくれて、一緒にモンスターを倒している。


「だよな。1人でこの数を倒すのはおかしすぎる。まあ、昨日通り下処理は完璧だから1匹3,000ニルで引き取ってやる。」


タンクさんは、裏に引っ込んで銀貨2枚と銅貨40枚を持ってきて、渡してくれた。


「ありがとうございます。また、よろしくお願いします。」


タンクさんに別れを告げて、マリアさんがいる食堂へ向かうのだった。今日も安定した食事とマリアさんとの会話をちょっと楽しんで、宿屋へ戻った。




今日は部屋で憑依スキルを解いても、昨日ほどの体の重さは感じなかった。身体強化スキルを俺自身が覚えたからだろう。


ただ、『忘却の騎士』と憑依したほどまでの力が出ていないことに気づく。覚えたてだからだろうか。


また、宿屋の裏庭に来て木刀を構えると、何故か剣の有効的な振り方が出来る。こちらも憑依スキルを使っている時より、技のキレが落ちるが、以前までの素人の素振りと全く違う。


ついつい楽しくなって、数百回と木刀を無心で振っていた・・・。


1時間ほどで汗が出ていたので、井戸を使わせて貰って、水浴びをして汗を流した。そういえば、昼間に川で水浴びをしているが、風呂に入っていない。


エドの記憶をたどると、エドも風呂に入ったことが1度も無いようだった。井戸や川で水浴びかタオルで体を拭くのが、一般的らしい。これは、ラノベと変わらないな。そこそこ稼ぐ様になったら、風呂付きの家を買うぞ。


ここに新たな目標を立てるのであった。




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