第35話 無欲の青年
転生72日目の朝。
モード町に着いてからかれこれ10日が経過した。
その間に初心者〜中級者向けの稼ぎ場を回りある程度どこで稼ぐのか目星を付けた。なお、意外とここの冒険者ギルドの受付けも優しい。親切に色々と教えてくれた。
(エドはイケメンなので、ただ単に女性が下心あって優しくしてくれているのだ。ただ、彼はまだそんな事を把握していないのだった。)
それに、アミノさんの家から出て自分で家を借りている。流石にずっとあのままだったら、甘えてしまいそうで、自分が駄目になる。
なお、一人暮らしをして正解だった。アミノさんと適度な距離感が出来て良かった。流石に恋人でも無いのにずっと一緒なのは・・・、既成事実が出来てしまって逃げられ無くなりそう。
アミノさん宅にお邪魔していた際、アミノさんは、何やかんやで寂しいなどの理由を付けて、毎晩俺の布団へ潜り込んでくる。それはそれで、良いのだが・・・。
まだまだ、付き合いが短く素の部分をあまり知らない。アミノさんが善人なのは良く分かるが、色々とこれからもゆっくりと知れればと思っている。
そして、今日は朝の訓練が終わったら、教会を訪れる日だ。何を隠そう、ガチャの日なのだ!
少しいつもよりもテンション高めで街中を歩きお目当ての教会を訪れる。朝の教会は意外と人が居た。朝一で神様への祈りを捧げに来ているのだろう。
俺はいつもの様に片膝をついて、両手を握って、目を瞑り心の中で祈りを捧げる。「レアよ来い。」
・・・
『召喚獣『クレリックジャク』を獲得した。』
おお〜〜、クレリックと言えば回復系か!やったぜ。やっぱり、冒険の生存率を上げるのは回復魔法が最善である。序盤でこのクレリックジャクを引けたのは大きい!
俺は今回のガチャも、優秀な召喚獣を獲得出来たので、大満足だった。
そして、日頃の訓練の成果はと言うと。
ファイアボール18発+ファイアアロー5発(魔力値29→41)。岩の重量上げ160kgは余裕、200kgが限界。垂直跳びは170cm。
身体能力的なポテンシャルだけで見ると金プレートに匹敵していると思われる。ただ、戦闘の経験や剣術スキルの熟練度などでは敵わないだろう。
そんな相手と戦う事になれば、勝てるフィールドを探して、弱点を突くなどする。俺は身体強化スキルと魔法スキルを持っているので、全ステータスが満遍なく高いはずだ。そのため、どのフィールドでも戦いは可能だと思っている。
後は頭を使って、冷静にどう対処するのが優位なのかなど考える力を鍛えるが必要だと思っている。
このゲームの様な現実の世界、命は1つだ。それなら、可能な限り謳歌したい。
◇◆◇◆◇◆
クレリックジャクを引いてからの5日間、『治療スキル』を覚える為にちょっと目立ってしまった。
その影響で、何故か貧民街で『無欲の青年』と呼ばれる事になってしまった。タダ同然で回復魔法を使っていたのが原因だった。
時は遡ること4日前。
治安が良いモード町にもスラムもあるし、貧民街も存在する。
とある場所を通りかかった時のこと。貧民街の住民が馬車と接触して怪我をしていた。7〜8歳ぐらいの男の子だろう。足を骨折しており、骨が皮膚を突き破り出血もしている。
男の子の周りには、野次馬が多少集まっているが、見て見ぬフリだ。特別な光景では無いのだろう。
どちらが悪いか不明だが、怪我をした貧民街の住民は、馬車を持っている様なお金持ちの人に何も言えずに泣き寝入りすることが多い。
かなり胸糞が悪い状況だ。
俺はその光景を見て、昔の自分にその少年を照らし合わせてしまっていた。
俺は、決して裕福な家庭では無かった。まあ、貧乏だった。父親は蒸発していない。母親と2人暮らしだったが、母親は働き詰めで殆ど顔を合わせる事が無かった。
母は、安い給料で長時間労働をしていた。しかも日勤と夜勤の仕事を掛け持ちしていた。
そんな家庭環境だと、子供の頃から色々と周りから嫌がらせや、理不尽な行いを受ける。親は忙しく、助けてくれる大人は俺の周りに居なかった。
そんな小学生時代を過ごし、中学に入ると、将来の事を考え、この環境から抜け出す為に必死になって勉強した。
そのかいもあり先生に相談し、奨学金制度を活用して、高校も普通どおりに通えた。更に補助金を受給することが出来お金の目処を付け、母親へ迷惑の掛ける事なく大学へ進学する事もできた。
そんな幼少期の事を思い浮かべていたら、体が勝手に動いていた。
「大丈夫か?」
俺は骨折した男の子の隣まで近づきしゃがみこんで訪ねた。
周りには骨折した子の親らしい人はいない。男の子は大泣きしながらも、俺の問に首を横にフリ、必死に傷口を抑えている。
こんな小さな子にどうこうできるレベルの怪我では無い。
「親はどうした?」
「仕事で何処かに行ってる。」
周りを見渡すが、誰も近寄って来ない。俺は急いで男の子を抱きかかえて人目を避ける様に路地裏に入った。
「もうちょっと我慢してろ。これを噛んどけ!痛いが一気に治すから我慢しろよ。」
俺は男の子の足を引っ張りたり押したりして、骨を無理やり正常な位置へ戻す。男の子は、あまりの激痛に噛んでいた布を口から外して、大声を出している。
「ぎあっぁぁぁぎうぅうぅ〜〜。」
俺はそんなの子供の声などお構いなしに強引に骨を正常な位置へ戻し、すぐさま回復魔法を唱えて傷口を治す。
もちろん、クレリックジャクを憑依させている。
「もう少しの辛抱だ。男だろ我慢しろ!」
数回、回復魔法を唱えると傷口は塞がり、腫れた足が治ってきた。完璧に治るまでには至らなかったが、ほぼ完治している。
男の子も驚いており、自分の足で歩ける事に驚いている。最後はお礼までして駆け出して行った。俺はその姿を手を振って送り出した。
「ありがとう。お兄さん。」
「おう。今後は気をつけろよ!」
このやり取りを数人の貧民街の住民に見られていた。その時は余り気にして居なかったが、その後いろんな人から「どうかうちの娘も治療して下さい」などと土下座されて頼まれ続けるのだった。
そして、もちろん貧民街の住民だ、正当な治療費など持ち合わせていない。ただし、無料にしてしまうとキリがないので、その人に合った見返りを求めるのだった。
銅貨数枚だったり、大事なおもちゃだったり、娘をなどと言う者もいたがそれは丁重にお断りした。
また、期限を5日間だけ限定で俺の魔力が続く限りと定めた。
あまり長い期間続けると教会の仕事が減り、違う所から目を付けられる可能性がある。そこは心を鬼にして、割り切っている。
まあ、そんなこんなで、貧民街の住民の治療を続けて3日目には『治療スキル』を獲得することが出来た。
それと、貧民街で『無欲の青年』などと呼ばれることにもなった。
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