第19話 第一印象は大事


俺はまた、冒険者ギルドにいる。今回はゴブリンの討伐部位の納品だ。勿論俺は『忘却の騎士』のショルダーバッグの中である。


お昼前とは違い冒険者ギルドには、大勢の冒険者達が今日の報告をしている。各々受付嬢達から今日の報酬を受け取っている。


4時〜5時の時間帯は、冒険者が集中するため、ギルド職員は受付業務と計算業務に集中する。


今は5時過ぎでありピークの時間帯は越えているが、まだまだ冒険者が残っている。



ギルドの冒険者達が入り口から入ってきた見慣れない大男の騎士を見て、一瞬ガヤガヤが静まる。が、暫くするとまた平常通りの煩さに戻る。


ただ、一部の冒険者は『忘却の騎士』のことを興味津々で見ている。


昼間の受付嬢が居なかったので、適当な列に並ぶ。暫くすると自分達の番が回ってきた。シキは、冒険者カードとゴブリンの討伐部位が入った袋を受付の机へ出した。


受付嬢は大男が現れたので、ちょっと緊張していたが、シキが木プレートを出したら、明らかに対応が変わった。


「シキさんですね。モンスターはそのまま丸ごとでは無く、討伐部位を持ってくればよろしいのですよ。」


「・・・。」


シキが出した袋が、ラビット数匹入りそうな大きさだったので、そのまま入れて来たと勘違いしたのだろう。


受付嬢が袋の中を見るとちょっと固まっている。


「っえ・・・。木プレートですよね?」


「・・・(コクリ)。」


「確認しますので、少々お待ち下さい。」


そういって、受付嬢は袋を持って奥へ下がっていった。


周りの冒険者からは、「なんだ、青か。」「見た目は金だろ。」「確かにハハハ。」など様々な反応だ。



冒険者のプレートはこの様になっている。

・プラチナプレート:英雄級

・金プレート:上級冒険者

・銀プレート:中級冒険者

・銅プレート:下級冒険者

・木プレート:新人冒険者


プレートに青色など無い。では、なぜ『青』と言われるかというと『青二才』から、経験の乏しい新人のことをこの世界では通称『青』と呼んでいる。



受付嬢が戻ってきた。


「ゴブリンの討伐部位が28になります。1匹あたり1,500ニルですので、合計42,000ニルです。」


「・・・。」


受付嬢が銀貨4枚と銅貨20枚を渡してきた。シキは財布用の小さな袋を出す。受付嬢は意図を汲み取り、硬化をその袋に入れてくれた。


なお、既に銀貨2枚が入っている。これは、先に肉卸店でウルフ5匹を売った代金である。


「ありがとございました。」


「・・・。」




その光景を見ていた、一部の冒険者が、無言だったシキに対して、苛立ちを表していた。ガラが悪そうな銅プレートの冒険者4人組だった。


その4人組冒険者がシキの目の前に現れて行く手を阻む・・・。それでも、シキは無言だ。そりゃ、喋れないから仕方がない。


「・・・。」


「よう新人さん。最初から最後まで一言も喋らねーで帰っちまうなんて、先輩たちに失礼じゃねーか?」


「そうだよ。何か言ったらどうだ?」


「・・・。」


シキは喋れないんだって。


「ここまで言っても何も言わないのかよ。」


「図体がデカいからって、粋がって無視してんじゃねーよ。」


4人組の内1人がシキに近づいて胸を当てるようにして来た。シキは全く微動だにしなかった。逆にシキに当たって来た男が「ウッ」と少し下がった。


「何すんだてめぇ〜。」


「・・・。」


いやいや、シキは何もやってないから。お前達が当たってきたんでしょうが!!大声でツッコみたいが声を出せない。


周りからは、「やっちまえー」などとの声も聞こえる。


俺はシキに無視して、男達を躱して外に出るように指示した。シキが無言のまま、4人組の方へ歩いて行くので、4人が少し後退りする。


「何だ俺達4人とヤルのか?」


「・・・。」


4人組は剣を抜く。周りが一瞬静かになる。が、次の瞬間「やれー。」「いけー。」などと歓声が上がる。そして、いつの間にか俺達を中心にして人の円が出来ていた。


ここって、冒険者ギルドの中だよね・・・。冒険者ギルド員も慌ててこちらの方へ向かって来ているが、間に合いそうにない。


4人組が剣を攻撃してくる。今後の事を考えるとだ。他の冒険者にも舐められないように、この4人組には見せしめになってもらう。


シキに死なない程度に痛めつけるように指示を出す。次々と飛んでくる剣の攻撃を素手で掴み、4人組に対してカウンターで蹴りやパンチを次々と決める。


しかも、ちゃんとお灸を据えるために、武器をきっちりと破壊しておく。素手でそのまま握り潰したり、剣を掴んだ手と逆の手で手刀を放ち剣の根元を折ったりした。


最初に絡んで来た男に対しては、鳩尾を押さえて蹲っているのに胸ぐらを掴んで持ち上げる。


「す、す、すまねえ。許してくれ・・・。」


「・・・。」


「いや、許して下さい。お願いします。」


「・・・。」


男が許しを懇願してきているが、シキの攻撃はまだ止まらなかった。俺の指示がだったので、まだと判断したのだろう。


俺も今後のことを考えると、ある程度やっとくべきと考える。皆がみているので、シキが素手で4人組が複数で剣を抜いているので、正当防衛になるだろう。


シキの左手が男の腹に入り、更に2発追い打ちを掛ける。手を放すと男が崩れ落ちるが、崩れ落ちさせずに髪の毛を掴み持ち上げる。両手でその男の頭を掴み、今度は顔面へ膝で一撃・・・二撃・・・・三撃と入れる。


「ドゴ、バギッ、ゴキッ。」と音と共に前歯が2本折れて、唇に突き刺さり鮮血を出す。更に鼻の骨も折れ曲がっており、鼻血も出ている。シキが手を放すと男はそのまま前のめりに倒れて動かない。そこで、そいつは取り敢えず許しやることにした。


周りの冒険者もギルド員も、さっき迄の賑わいは何処に行ったのか、お通夜のように「シーン。」となっている。


「ジュ、ジューゴ大丈夫か?」


次に助けに寄って来た男に対して、シキは上から右腕を振り下ろし背中に一撃を入れる。「ガハッ。」と近寄ってきた男が一瞬息が出来ずになる。


そんなの知ったことではない。4人組はこともあろうか、冒険者ギルドの中で剣を抜いて攻撃してきたのだ!こんな生ぬるいことでは許さない。


何度もになるが、第一印象は大事なので冒険者の皆にシキの強烈な印象を植え付けさせてもらう。


息が出来ずにいる男の頭を掴みそのまま、床に何度も叩きつける。動かなくなると、グロッキー状態の男に対して、更に腹に3発蹴りを入れてやった。最後に強めに蹴ったのだろう「ボキッ。」と音が鳴った。取り敢えずコイツは終了にしてやる。



次、というようにシキは残り2人の方を向く。残り2人は既に戦意喪失しており、土下座をしている。


「俺達が悪かったです。どうか、どうか許して下さい。お、お願いします。」


「アイツラを早く助けてやらないと死んでしまいます。」


「・・・。」


シキが何も言わずに、残り2人の方へ向かって歩き出す。その時だった。


「そこまでだ。」


「・・・。」


やっと、我に帰っているギルド員達が集まってきて、俺達の戦いを止めた。


まあ、ギルド員が止めに入ってきたし、十分シキの印象を冒険者に植え付けられたから、良しとする。


「シキさん。アンタがコイツラから絡まれているのは、見て取れたが、ここまでやる必要は無かったんじゃ無いか?」


「・・・。」


シキは無言のまま下に転がっている壊れた剣を指刺した。そう、4人組が抜刀した事を主張したつもりだ。


「・・・確かに剣を抜いてましたね。そして、あなたは素手・・・。今回は多めに見ますが、冒険者ギルド内での争いは止めて下さい。次回もこのような事があれば・・・何らかの処罰が下ると思って下さい。」


「・・・(コクリ)。」


そういってシキは、冒険者ギルドを後にした。そのまま、路地裏へ入ると俺はシキのショルダーバックから抜け出し、硬貨を回収した。


そして、シキと別れて俺は肉卸店へ向かうのだった。シキは、予め取ってある宿に戻った。そして、次の朝に東の森で合流する予定である。




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